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日本農民新聞 2019年10月15日号

2019年11月1日

アングル

 

国際交渉と農林水産行政のこれから
「日米貿易協定」最終合意を受けて

 

農林水産審議官
大澤誠 氏

 

 9月26日の日米首脳会談で、農林水産品に係る日本側の関税などを含む日米貿易協定が最終合意に至った。TPP11、日EU・EPAに続いての日米貿易協定最終合意で、新たな国際環境を迎えた日本における農林水産行政のこれからを、農林水産審議官の大澤誠氏に聞いた。


 

期待に応えられた成果の日米交渉

7月に経営局長から農林水産審議官に就任され、日米交渉に臨まれたが。

 4年前に国際担当の総括審議官として臨んだTPP交渉は、農産物の本格的な包括的関税交渉として日本で初めてだった。その意味では“海図のない航海”のなかで、どこで折り合いをつければ、国内の農林水産業が守られ発展に至る道筋がつけられ、かつ各国の関心に応えられるか、これを1つ1つのラインごとにまとめるのに2年半ほどかかった。
 その後、TPPはアメリカが離脱し最終的にCPTPP(包括的および先進的な環太平洋連携協定)の形で結ばれ、日EU・EPA交渉もそれを一つの基準にする形でまとまり、それぞれ実施が始まった。今回の交渉はその感覚を掴みながらの交渉だったので、“海図”を作る難しさではなかったが、“早く終える”というスピードを求められ緊張感を持って臨んだ。なんとか期待に応えられる成果になったと思っている。

 

TPPの範囲内、米は「除外」確保

日米合意の主な成果は?

 米は調整品も含めて関税削減・撤廃等からの完全除外となったことは大きな成果だった。TPPの範囲を超えるものがなかったこと、酪農関係でバター・脱脂粉乳などTPPワイドの関税割当枠が設定された品目について、新たなアメリカの枠を一切認めなったことも成果だ。牛肉についても、現状38.5%の関税でもアメリカからの輸入が25万5千tと伸びている中で、セーフガード発動数量を2020年24万2千tと抑えられた。
 精査中でまだ数字ははっきり出してないが、TPPで82%程度とした関税撤廃率と同じように計算すると40%を下回る形になった。
 輸出促進面でも、意義ある成果を獲得することができた。牛肉については、現行の日本枠200tと複数国枠を合体し6万5005tへのアクセスを確保した。また、輸出関心の高い醤油・菓子類・ながいも・切花など42品目の関税削減・撤廃を獲得した。

 

最大課題は合意内容への国民理解

今後のスケジュールと残された課題は?

 内容については完全に合意ができているので、ほどなく最終の協定案文に署名する手続きに入ったあとで、今臨時国会に協定文を提出し承認いただく、というスケジュールになる。それらが滞りなく進んでいけば来年にも発効される。
 この合意内容をしっかり現場まで浸透させ、不安を払拭することが重要だ。このTPPの範囲内でしっかりおさまった中身を、農業者をはじめとする国民のみなさんにご理解いただくことが、今後の最大の課題となる。

 

生産基盤・輸出等を強化へ

今後の国内対策は?

 日米貿易協定の最終合意を受けて、政府は「総合的なTPP等関連政策大綱改訂に係る基本方針」を決定した。もともとのTPP対策にはアメリカが含まれていたが、協定の効果を最大限に活かすために必要な政策の検討に着手する。CPTPP、日EU・EPAの発効後の動向も踏まえた政策を改めて体系的に整理し、今秋を目途に前回の決定から2年を経過した「大綱」を、政策の使い勝手の良さなどを検証しながら必要な手直しを加えていく。
 今回の大綱見直しの「基本方針」では、生産基盤の強化や新市場開拓の推進等が柱として掲げられており、そこをガイドラインにしながら考えていく。

 

農水省の立場を明確に政府一体で

今後の国際交渉の中長期的見通しは?

 すでに交渉が始まっているいくつかが後半戦を迎えている。インド、中国、東南アジア諸国を含めたRCEP(東アジア地域包括的経済連携)交渉は、今年中の合意を目指し精力的な交渉が続けられている。トルコとの交渉も大詰めを迎えている。
 今回の日米交渉では、政府一体となって当たったことが大きな成果に結びついた。これからの交渉も、農林水産省の立場を政府全体のなかでしっかり位置づけていくことを基本に進めていきたい。

 

貿易に留まらず国内農業を知ることも

国際業務を担う職員に対して。

 最近の国際関係の仕事は貿易交渉に留まらない。植物防疫、動物検疫、輸出等それぞれに対応するためには、国ごとにルールが違う中でその国の状情況を把握し対応策を考えていかなければならない。輸出でも、輸出向けに生産方法を変え、施設をつくり、HACCPやGAPも導入していくとなると、国内問題と国際問題の融合化が進んでいくと思っている。その意味で、これからの国際業務にあたっては、国内農業を知ることも重要だと考えている。
 また、いま豚コレラやアフリカ豚コレラが問題になっているが、どこの国にどんな病原菌や害虫がいるか等々、科学的知識や日常的な検疫、防疫の研修も大事になってくる。途上国への食関連企業の進出等の新しい分野も出てくるだろう。
 一方で、仕事上、新しい技術も積極的に導入しなければならない。今、民間企業ではスカイプでの国際会議が当たり前になってきている。テレビ会議など世界中と日常的に会話ができるような最先端機器の知識と活用も求められるだろう。
 いずれにしろ、国内農業を振興していくためにも、貿易だけでなく国際的に物事を考えていかなければならない案件が非常に増えてきている。輸出の際の物流など農水省の枠を越えた連携も必要になってきている。
 国際業務を担う職員の役割や資質も大きく変わってくる。

 

柔軟に多方面に役割をつなぐ

国際貿易と国内農業振興の考え方は?

 TPP交渉以来、国際交渉は新しい段階に入ったと思うが、その中でも国内で最もセンシティブで重要な品目については、関税撤廃は行わずに国内対策を打っていく方針を貫くことが、守りの側面の最大の“旗”だと思っている。あとは、交渉の枠組の重要性に応じて調整しながら対応していくことになる。
 農業の成長産業化を目指すなかでは、輸出のための足掛かりを作っていくことも交渉の大事な仕事となる。
 農水省全体の国際関係を統括・整理するのが、私の役割だと思っている。これまでの発想にとらわれないで、頭を柔軟にしていろいろな方面に役割をつなげていければよいと思っている。


 

〈本号の主な内容〉

■アングル 国際交渉と農林水産行政のこれから
      「日米貿易協定」最終合意を受けて
 農林水産審議官 大澤誠 氏

■第37回 全農酪農経営体験発表会
 最優秀賞に静岡県・佐々木剛さん

■JAグループ エネルギーセミナー
 JA全農、農協流通研究所が開催

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