日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2019年9月25日号

2019年10月7日

日本協同組合連携機構(JCA) 代表理事専務 馬場利彦 氏このひと

 

今、問い直す協同組合の価値
協同組合間連携のこれから

 

日本協同組合連携機構
(JCA)
代表理事専務
馬場利彦 氏

 

 6月、日本協同組合連携機構(JCA)の代表理事専務に馬場利彦(前全中参事)氏が就任した。昨年4月にJJC(日本協同組合連絡協議会)の機能を引き継ぎ、JC総研を組織再編したJCAが発足して1年余。これまでの農協運動を振り返りながら、改めて協同組合の存在意義とJCAの役割を新専務に聞いた。


 

協同での社会課題解決を目指して

JCA創設に至った背景をどう捉えるか。

 協同組合はいま、国際協同組合年(IYC)や世界無形文化遺産への登録、SDGsにおける位置づけなど、その存在が世界的に注目されているが、日本では逆に協同組合自体が攻撃され、危機的状況にあるともいえる。そうした中、地域社会の課題を協同組合間の連携の力で解決をしようとJCAが創設されたことは、画期的なことだと思っている。
 日本の協同組合は、分野ごとに所管官庁が異なり法律も違う。しかし、協同組合の存在イコール地域の存在であり、そこには様々な分野の協同組合の組合員が暮らし、仕事をしている。ところが、1980年のICAにおけるレイドロー報告「西暦2000年における協同組合」で提起されたような危機が今、さらに深刻化してきている。グローバル化が進み、企業の成長戦略ばかりに目を向けた新自由主義からの攻撃とともに、地方の疲弊、貧富の格差はさらに拡大するという状況に対し、日本の協同組合がまとまって「何とかしなければ」という思いが、この機構の創設となったと受け止めている。だからこそ、JCAの合言葉は“よりよい連携を、社会のために”である。

 

新たな可能性、多様な広がりを期待

改めてJCAの役割は?

 生協と農協の産直などが各地で盛んに始まった80年代を経て、わが国の協同組合間の連携は、90年代、2000年代は全国的な機運が停滞した。2012年のIYCを機に、JJC会員間の議論・検討を経てJCAが設立されたことにより、地域の協同組合間の連携や県域での連携協議会の活動など、再活性化の動きが出てきた。連携の広がりは着実に進んでいると実感している。日本のほとんどの分野の協同組合がJCAの会員となっていただいて、連携の新たな可能性、多様な連携を広げていくことが期待されている。協同組合らしく会員団体みんなの力で実現していかなければならないと思っている。
 一方で、若年層を中心に、協同組合の存在や役割を知らない世代が増えている。協同組合共通の目的は、組合員が「共通して必要とするものや強い願いを充たすこと」だが、ひと言でいえば、いま会員団体のCMで流れているように「みんなでみんなを守るということ」。みんなでみんなを守り、助け合う世界に、参加・参画の輪をひろげていきたい。
 「協同組合間の連携の推進」「政策提言・広報」「教育・研究」の3分野の仕事を通じて、協同組合の価値を広げていくことがJCAの役割だ。

 

SDGsへ役割試される時代

内外の協同組合組織との連携強化に向けては?

 今年10月には国際協同組合同盟(ICA)の総会があり、「2030年に向けた世界の協同組合運動の戦略」が提起され、改めてグローバル化に対する世界の協同組合とICAの役割が議論される。
 ICAの第7原則には「地域の持続的な発展に向け活動する」(Co-operatives work for the sustainable development of their communities)ことを掲げており、これは、国連の「持続可能な開発目標・SDGs(Sustainable Development Goals)」を先行したものだ。こうした協同組合セクターの役割・可能性を、10億人以上いる世界の協同組合の組合員は改めて確認することが必要で、積極的にそこに関わっていきたい。
 競争と成長一辺倒の経済活動が、世界では途上国に、日本では地方の脆弱化に大きなひずみとして現れている。地域の持続可能な発展にとって、世界でも日本でも協同組合の役割が本当の意味で試される時代となっている。

 

理論から事業への“落とし込み”を

いま、協同組合とくに農協に求められていることは?

 JCAの使命は“持続可能な地域のよりよいくらし・仕事づくりに貢献します”である。
 地域の課題を協同で解決するためには、協同組合間連携も理念や運動論だけでなく具体的な事業にまで落とし込み、地域おこしや仕事づくりを展開していく必要がある。
 農業者と准組合員、生協等の組合員はじめ地域住民がとともに地域の将来を考えることは、農業の将来にとっても地域の課題解決にもつながる。農協は、そういう“広がり”をもった運動や事業を改めて展開すべきだ。出資して事業を利用している准組合員にも「地域をこのように支えていきます」と具体的に提起する。参加を求めるだけでなく、農業と地域の将来のために一緒に協同の事業・活動を創っていくという姿勢が必要だ。そのために新しい協同組合を創るくらいの覚悟で組合員と接していくべきだ。地域のよりよい暮らしのために、みんながどのような役割・仕事ができるかを見直していけば、可能性はいろいろ出てくるはずだ。
 JAグループの自己改革は、制度としての協同組合ではなく、自らの協同組合に生まれ変わるチャンスだと思っている。地域の協同組合間の連携を広げ、さらに新たな協同組合の創造も含めて持続可能性を考えるべきだ。JCAは、そうした可能性を提起し、新たな協同の“旗振り役”にならなければならない。

 

組合員のものとしての自己改革へ

これまでの農協人生を振り返って、その思いは?

 大学で協同組合論を学び全中に入会。困難があるからみんなで集まり解決していくのが協同組合ならば、農業の困難な課題を少しでもなくしたいと思っていた。農地法、食管法、農協法の3法のもと戦後の農協は存在してきたが、平成7年食糧法に変わり、制度上の集荷団体であった農協ではなく、米も本当の意味での共販組織になった。さらに農地制度も変わり、国際化も進展するなかで、それに合わせた農協の姿を創らなければならなくなった。官製の制度としての農協から本当の意味での農協の姿をめざして、地域農業戦略・営農ビジョンづくりを徹底し、地域農業の将来像を農業者自らが描けるよう農政対策に奔走してきた。
 しかし、そうした経過の中で、協同の必要性を実感し、作目別部会や集落営農をつくり頑張ってきた中心世代は高齢化しリタイアしてきている。これからは、なぜ集まり何をするのかを若い世代も実感できる、新たな動きを農協で組合員とともにつくっていかなければならない。
 課題解決のヒントは現場にある。その確信から、全中時代の私の仕事を一言で言えば、地域の先進・優良事例を全国に展開することであり、そのための仕組みづくり、だったとも言える。
 農政対策ばかりで、お礼を言われるようなことは少なかったなかで、東電の福島原発事故対応で、JAグループが中心となり農畜産物損害賠償協議会をつくり、まとめて和解・賠償に持ち込むスキームをつくったときには迅速な対応に感謝された。と同時に、みんなの課題に協同の力で取り組むという本当の協同組合の力を見せつけられたし、感動した。
 JAグループの自己改革も、真に組合員のものとして受け止められ、組合員とともにすすんでいかなければならない。改めて協同組合の価値を認識・共有化し、ともに自己改革に取り組む。その活路は対話の中で拓かなければならない。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 今、問い直す協同組合の価値
      協同組合間連携のこれから
日本協同組合連携機構(JCA)
代表理事専務 馬場利彦 氏

令和元年度 JA営農・経済担当常勤役員・幹部職員研修会
 第5回JA営農・経済フォーラム=JA全中が開催

■改革集中推進期間の農協改革
 進捗状況を農水省が公表

■第15回あぐりスクールサミット in JAあつぎ

行友弥の食農再論「『もろこし』はややこしい」

keyboard_arrow_left トップへ戻る