トウモロコシは、ややこしい。郷里の北海道では「トウキビ」と呼ぶ。漢字で書けば「唐黍」になるが「唐黍」は「モロコシ」とも読む。だがトウモロコシは「唐唐黍」ではなく「玉蜀黍」と書く。トウモロコシとモロコシは同じイネ科だが、別の植物だ。古語の もろこし」は異国を意味するから、いずれにせよ外来作物に違いない。
モロコシは英語で「ソルガム」、中国語では「コーリャン」。中国を代表する蒸留酒「白酒」(バイチュウ)の原料だが、最近はトウモロコシも使うという。トウモロコシは米国が世界最大の生産国で、バーボン・ウイスキーの主原料だから、酒については「米中合作」が進んでいることになる。
経済成長を遂げた中国では飼料用トウモロコシの需要が増え、2010年以降は純輸入(輸入超過)国になった。米国は中国の輸入増を期待したが、トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争で急ブレーキがかかった。困ったのは、あてが外れた米国の農家だ。トランプ氏にとっても来年の大統領選でマイナス要因になりかねない。
助け舟を出したのが日本。先月の日米首脳会談で、3カ月分の輸入量にあたる275万㌧程度を米国から買う約束をした。菅義偉官房長官らは「国産の飼料用トウモロコシに害虫の被害が出ているので輸入を前倒しする」と説明しているが、そこまでの被害とも思えないし「前倒し」の意味もよくわからない。
しかも、年間約450万㌧生産されている国産品は葉や茎ごと発酵させて家畜に食わせる「青刈りトウモロコシ」。濃厚飼料の原料になる米国産トウモロコシでは代わりにならない。むしろ、米価維持のために生産を奨励している飼料用米と競合しそうだ。
そもそも国家貿易の米麦ならともかく、民間ベースのトウモロコシ輸入を国が約束するのも変な話。飼料業界も困惑しているそうだが、保管などの経費を国が助成して「あうんの呼吸」で消化するとの見方もある。
いっそのこと、輸入したトウモロコシを酒にしたらどうだろう。最近のジャパニーズ・ウイスキーは世界的に評価が高い。日本製バーボンが米国や中国の市場でヒットすれば、悲願の「農林水産物輸出1兆円」も近づくかも–と、秋の夜長にほろ酔い頭で考えた。
(農中総研・特任研究員)
日本農民新聞 2019年9月25日号掲載