日本農業の振興と農業経営の安定、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2019年8月25日号

2019年9月5日

このひと

 

これからの全農事業の舵取り

 

JA全農
代表理事理事長

山﨑周二 氏

 

 7月26日開かれた全農の通常総代会後の経営管理委員会で、代表理事理事長に山﨑周二氏(代表理事専務)が就任した。山﨑新理事長に、4月からスタートした中期3か年計画を踏まえた、これからの全農の方向と舵取りへの思いを聞いた。


 

全農グループの存在感を明確に示す

理事長に就任されたご心境は?

 退任直前までトップスピードで走り続けた神出前理事長からバトンを渡されました。スピードを緩めず力強く走っていかなければリレーには勝てないとの思いを強めています。
 4月にスタートしたばかりの中期3か年計画をきちんと仕上げていくことが私の使命です。長澤会長、神出理事長体制になってから丸2年。自己改革への取り組みも進んでおり、これまでの路線が現場に定着できるように取り組んでいきます。長澤会長の思いでもある3か年計画の基本姿勢に掲げた「すべては組合員のために、そして消費者、国民のために」を、きちんと形作っていきます。
 「全農は全てのステーションになれ」とも会長はよく言われます。それは、地域にとって代替のきかない必要な組織=JAグループ、その中で全農グループの存在感を明確に示すことだと受け止めています。組合員やJAを支え、かつ消費者や業界を牽引していく立場であることを、全農はもっとアピールしていかなければなりません。

 

協同組合の機能や仕組みの再認識も

これまでの自己改革の進捗は?

 この5月で5年間の「農協改革集中推進期間」が終了しました。大きく分けて期間の前半は、全中の一社化や農協の理事構成問題など、いわゆる“農協改革”に集中され、後半が“全農改革”に包括されたと思います。
 その後半部分で、全農は自己改革の工程表を作成し実践に入りました。資材部門が先行したかたちになりましたが、例えば、生産資材価格のあり方について、JAグループ内で議論すると同時に、JA青年部、4Hクラブ、農業法人協会などの生産者と直接議論してきました。その過程で、改めて農業協同組合の機能や仕組みが認識されたのではないかと思います。
 通常規格より2~3割安い農薬の担い手直送規格は2年で5倍の扱いになり、生産現場の声を反映した60馬力大型トラクターは、共同購入により2~3割の価格引下げを実現し、これまで供給実績のない県域からも注文があり、目標を大きく上回る納入実績となっています。
 このトラクター開発に当たっては、JA職員が農家にアンケートを取るなど、JAグループ全体で直接生産者に取り組みを発信してきました。それに組合員が応えていただき、積み上がった結果が実績だと思っています。これが協同組合の購買の仕組みであり、力なのだと改めて感じました。協同組合だからこそ、このような改革ができたのではないかとの思いを強めています。
 国の「農業競争力強化プログラム」「農林水産業・地域の活力創造プラン」は、国が取組むこと、業界が取組むこと、農業団体が取組むこと、そして農業者が努力すること、それぞれの立場からみんなで構造を変えていくのが本来の趣旨です。
 その意味で、全農はお約束した自己改革は、工程表にそって着実に進んでいると思っています。構造改革のためには業界再編を進めていく必要がありますが、そこがまだ途半ばの今後の課題だと感じています。

 

会員還元最大化へ利用高配当の検討

3か年計画が目指す方向は?

 キャッチフレーズは「全力結集で挑戦し、未来を創る」。新しいビジネスモデルに挑戦する3か年だと受け止めています。
 3か年が終わったときに、全農が目指しているビジネスモデルとはこういうものなのだ、という形が一定程度見えるようになることが目標です。
 5年後、10年後を見据えてこれまで敷いたレールをつなぎ、走り続けます。
 目指す方向は、作物別・品目別戦略策定による農業総産出額の計画的・段階的な拡大、マーケットニーズをふまえた販売戦略の構築、元気な地域社会づくりへの支援、急変する海外動向に対応した新たな海外戦略の構築の4点です。
 この3か年は、第一に、農業生産基盤の確立にあらゆる施策を多面的に講じていきます。担い手の確保、労働力支援、ICT、AI等の革新技術の導入、販売を起点とした生産振興等に取り組み、集出荷施設や加工施設など必要な農業インフラにも積極的に投資していきます。効率的な物流体制への合理化も避けて通れない課題です。
 第二は、この3か年で食のトップブランドとしての地位を確立することです。そのためには、商品開発力を強化し、販売のバリューチェーンを構築していくことです。全農では今年度から、「全農グループMD部会」を設置し、消費者ニーズや実需者ニーズ等に迅速かつ柔軟に対応できるよう商品開発体制を強化しました。国産農畜産物を原料とした幅広い分野での商品開発や、既存商品の掘り起こし、中・外食向けのメニュー開発などに取り組んでいます。このMD部会を中心に「全農版SPA(製造小売)」の姿を示していきたいと思います。
 例えば、加工業務用でも複数の産地やJAが同じ食品加工メーカーに原料を供給しているのが現状です。これをまとめることで、メーカーが求める国産農畜産物を周年で安定的に供給でき、生産者が再生産可能な販売価格が実現できます。これはJAグループだけが可能な機能で、全農はその窓口になることができます。
 第三は、農業を核に地域社会を元気にしていくこと。農泊や農福連携も含め地域を元気にするコーディネーター的役割発揮も、JAグループにしかできません。そのなかで、全農が中心となった役割を果たせるような事業、今後の全農事業の柱の一つになるような事業の“芽だし”に、この3か年で取り組んでいきます。
 第四は、新たな海外戦略の構築。世界情勢の激変に対応して、海外戦略をもう一度立て直す必要があります。海外事業は、JAグループのなかで全農が分担すべき機能であり、資材原料の調達面でも農畜産物の輸出面でも、その強化に向けて再構築していきます。
 加えて、この3か年ではJAの経済事業支援強化を重点課題としています。今、農林中金とともに、JAの経営実態を拠点別・事業別に見える化することに取り組んでいます。その中でも、経済事業の厳しさは現れており、全農は、人材の派遣も含めてJAへの支援を強めていきます。
 以上のような取り組みを基に、「会員還元の最大化」に取り組んでいきます。とくにこの3か年では事業利用分量配当(事業高配当)に挑戦したいと考えています。本来、協同組合の還元は利用高配当であるべきだと思っております。これに向けたハードルは高いものがありますが、行政とも十分に相談しつつ目指していきたいと考えています。

 

国産食材活用へ積極的にアライアンス

企業・団体との業務・資本提携の基本的考え方は?

 3年後の2022年4月には、加工食品の原料原産地表示が義務付けられます。来年の東京オリンピック・パラリンピックも含め、すでに3000万人を超えている訪日外国人旅行者はさらに増えてくるでしょう。こうしたなか国産食材へのニーズの高まりは、今後も弱まることは決してないと思います。
 そこにJAグループとしてしっかり対応していくためには、いろいろな企業とのアライアンスが必要になってきます。これからも積極的に出資や業務提携など進めていきます。
 その基本は農業協同組合として、それを最終的に生産者の再生産可能な販売価格に繋げていくことです。これが実現できれば、後継者不足にも耕作放棄地の増大にも歯止めをかけることができるのではないかと思います。

 

組織内外への発信力さらに強化

全農の事業や価値を組合員や消費者に伝えていくためには?

 我々は発信力をもっと高めなければなりません。自己改革の2年間の取り組みからも、組織内外への発信の必要性を痛感しました。
 組織内はもとより、生産者、消費者、国民全体に発信力をもっともっと強めていかなければならないと思っています。

 

3か年計画は若い世代に向けたメッセージ

全農グループ役職員へ向けては。

 自己改革への取り組み当初は、全農グループの役職員には、正直にいって“やらされ感”も若干あったかと思います。そうしたなか、神出前理事長を中心に役員がほぼ全県本部に出向き、自己改革の必要性を訴え職員と意見交換しました。その結果、“全農マインド”は定着しつつあると感じています。
 全農と経済連が子会社も含めて統合して20年。もはや全農職員の半数が統合後の全農に入会した職員で、仲間意識もあり問題意識も共有されています。そうしたなかで、「自分たちの私生活はスマホとタブレットで大半の用事が片付くのに、業務は依然電話とFAXで手間暇がかかり現場に行く時間がない」との、若い職員から声も聞こえてきます。
 全農では今年、全国の中堅と若手職員を集め「業務改善プロジェクト」を設けました。ここで彼らが本当に変えていきたいことを話し合い、小さいことからでも取り組んでいます。これまでの仕事の仕方や手順を思い切って見直すことが、今後の自己改革にもつながってくると思います。
 全国機関8団体で開設したJAグループのオープンイノベーション拠点「アグベンチャーラボ」では、若い世代が研修会を開いたり、スタートアップ企業の異業種交流なども活発に行われています。そうした若者たちが今後の全農を変えていくことを大いに期待しています。
 この3年間の中期計画は、若い農業者や後継者、JAグループ職員に、農業と地域を守り活性化するためのメッセージを贈る計画だと思っています。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと これからの全農事業の舵取り
 JA全農 代表理事理事長 山﨑周二 氏

■JA全農 通常総代会
 平成30年度決算、事業別の主な取り組み

■家の光文化賞JAトップフォーラム2019
 家の光文化賞農協懇話会、家の光協会が開催

■JAバンク JA渉外担当者交流大会「元気ネット2019」
 農林中央金庫が開催

■日本バイオスティミュラント協議会 第2回講演会

■アグリビジネストップに聞く
 JAカード(株) 石田隆廣 社長

行友弥の食農再論「嫌なニュース」

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