暑苦しい季節に嫌なニュースが続く。昨年度の食料自給率(カロリーベース)が37%と、93年に並ぶ史上最低になった。天候不順による小麦や大豆の不作が原因というが、米の作況指数が74だったあの年とはレベルが全く違う。農業者の高齢化と後継者不足で生産基盤の崩壊が進んでいることは明らかだ。
昨年は49歳以下の新規就農者が5年ぶりに2万人を割り込んだ。多くの産業が人手不足に悩む中、若い人材の奪い合いが起きている。自給率は仮想的な数字であり、天候など偶発的要因にも左右されるが、農地・人・技術という生産要素を総合した自給力の確保が課題だろう。
国連の気候変動政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化の影響で2050年に穀物価格が最大23%上昇するとの試算を発表した。仮に日本が大量の食料輸入を続けられたとしても、それは低開発国の飢餓に拍車をかける。食料価格の高騰は国内も含めて貧富の格差を広げ、社会を不安定化させていく。
もっと心配なのは世界の分断だ。米中や日韓の対立。英国の離脱問題に揺れる欧州連合(EU)。それぞれが内部にも深刻な亀裂を抱えている。
「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展・その後」が中止に追い込まれたのは象徴的だ。対話ではなく暴力的な脅しで少数意見や少数者を排除する風潮が高まり、トラブルを恐れての自己規制が言論を窒息させていく。軍国主義と戦争にのめり込んでいった1930年代の時代状況と大差ない。
ところで、太平洋戦争中の食料自給率はどうだったろう。植民地・占領地を「日本」に含めれば、恐らく100%近かったはずだ。だが、国民も前線の兵士も植民地・占領地の住民も、みな飢餓にあえいでいた。補給を軽視し、物資運搬のため徴用した民間船舶にも十分な護衛を付けなかった日本軍。ある研究によると、戦没者230万人の6割にあたる140万人は餓死者だったという。
「だから食料自給率なんて論じても無意味」といった軽口をたたきたいのではない。おびただしい数の尊い犠牲と引き換えに手に入れた食料の供給基盤と、それを支える平和、民主主義のありがたみを、よくかみしめたいものだ。
(農中総研・特任研究員)
日本農民新聞 2019年8月25日号掲載