日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2019年8月5日号

2019年8月13日

㈲木之内農園代表取締役会長/東海大学経営学部学部長木之内均氏このひと

野菜園芸経営の将来展望

㈲木之内農園
 代表取締役会長
東海大学
 経営学部学部長

木之内均 氏

 熊本でイチゴを中心に大規模な施設園芸を展開する㈲木之内農園は、熊本地震での壊滅的な被害を乗り越え、新しい農業スタイルの創造を目指している。木之内均会長は、7月に熊本市で開かれた全国野菜園芸技術研究会で、これからの野菜園芸経営の将来展望を要旨次のように語った。


農業者が農業者を育てる仕組づくりを

自身の経営の概要から。

 「㈲木之内農園」は、南阿蘇農場でイチゴ、ミニトマトを中心に9ha、大分県境の波野農場で露地野菜8haを栽培。社員20名、パート8名で、観光農園や果実・米等の加工事業を行っている。また、NPO法人「阿蘇エコファーマーズセンター」を設立。会員農家41軒が就農研修生を受入れている。

 4年前の熊本地震で農場も自宅も全壊。現在ハウスを1.5ha程度建て直したが農業用水が足りない。この地区の水田は、いまだに一本の稲も植わっていない。3年休むと高齢者の農業復帰は難しい。

 一方、山口県の船方農場とともに設立した「㈱花の海」は、干拓地16haにハウスを建て、年間3千万本程度の花苗や野菜苗の生産をはじめ、ミニバラやイチゴ等も手掛け約18億円を売上げる。従業員はパートも含め250名。

 木之内農園は、中山間地で加工や6次産業化も手掛ける地域密着の会社を、花の海は、農業者が大企業に対抗できるシステム生産農場として、就職就農者の受け皿と、法人間連携による産業としての農業の発展を目指す。

 今、一番力を入れているのが人材育成。九州エコファーマーズセンターは農業者が組織したNPO法人で現場での教育を徹底している。全くの非農家からこれまでインターシップを含め千人以上受け入れ、現在132名の独立就農、雇用就農108名を輩出している。今の農業に足りないものは現場での教育システムではないか。農業者が農業者を育てる仕組みをつくらなければ本物の経営者は生まれてこない。

経営は人・モノ・カネのバランス

今の日本農業に必要なことは?

 現在の農業人口では、経営の考え方を変えていかない限り、日本の農業は守れない。60歳以上が80%。農業総産出額も農業所得も減少し続けている。野菜作は露地も施設も、粗収益より経営費の伸び率の方が大きく、労働時間は増えている。しかし、世界の経済学者で21世紀の後半の最大の戦略物資が食料であることに反対する人はいない。たった5%程度しかいない20~30代の農業者は、今は大変だが10年後くらいにはとてもおもしろい時代がくるのではないか。

 そのためにも、経営とは何かをしっかり考えるべき。経営は人・モノ・カネのバランス。良い物を作る、収量を上げるだけでは経営は成り立たない。

 まず「人材」。家族経営における確実な世代交代、安定雇用による労働者確保、人材育成による技術者確保、雇用テクニックを駆使した従業員確保が不可欠である。そして信頼関係で結ばれる右腕となる人材を現場で育てることも重要である。さらに人脈は最高の応援団である。農業法人協会で全国トップ農家と知り合ったことは大きな財産となっている。

 「モノ」。まず土地。自分の持っている土地の場所や性格をよく考える必要がある。ハウスや倉庫等の設備も、更新や買い替え時期、適正規模を常に意識する必要がある。そして「カネ」。融資は何があっても返済が義務。補助金は制約が多いし事務手続きが大変なので注意を要する。

 この3つのバランスの中を「環境」が埋めている。土質や形状、集約、立地などの土地条件、水利権、気候、物流、消費動向、地域資源等々、常に地域や社会の動きに目をやり、変化を感じ取って経営していかなければならない。

 農聖と言われた松田喜一先生は「植物は植物から、家畜は家畜から学べ」と言われた。「答えは現場にあり」と。だから、私は「経営は経営者から学べ」と大学で教えている。

自信と誇り持ち社会に貢献

10年後を見据えた農業戦略は?

 これまでの農産物生産中心から6次産業化も含めて「生命総合産業」を目指すべきだ。生命総合産業として農業を中心に、他分野といかにコラボしていくかを考える。“農”中心の新産業分野として創造・確立する、新農業スタイルの創造である。

 日本の農業とくに園芸は世界でトップレベルの技術を持っている。オランダは農業技術を上手く売ることで世界を席巻している。オランダと肩をならべる日本は、国際協力の中でも技術力を発揮して取り組んでもらいたい。

 農業は自信と誇りを持てる産業として社会に貢献するべきだ。農業体験などの教育、農福連携、都会人の癒しの場等々、エンターテイメント性など遊び心も取り入れて、農業の持つ価値をいかに発揮するかを考えれば、やれることはいっぱいある。チャンスを活かす農業戦略こそ必要だ。

 オランダの「トマトワールド」は、農業者や資材メーカー等が出資し合いミュージアムまで設立しコンサル事業も展開し、世界中の企業の相談に応じている。JAも一歩踏み出しアジアの中で日本の農業技術を活かしていく方法を考えてみてはどうか。

キーワードは「連携」

戦略の実現に向けての大切なことは?

 実現の過程では、出来るだけ大学や研究機関を上手く活用いかなければならない。例えば、ITを駆使した農業が進んでいくことは間違いないが、下手に導入すると経費倒れに終わってしまう。色々な部分で他産業等と連携した農業を創りあげていかなければならない。

 キーワードは「連携」。我々農業者には、栽培技術や地域力、忍耐力がある。他産業は、資金力、人材、財務、組織力、情報収集力を持っている。普及所やJAは、この双方の橋渡しをしてほしい。次世代型農業もコンピュータのボタン一つで出来るわけではない。現場で生き物を育てている農業者の力も組み合わせた仕組みをつくることが、次の段階の課題ではないか。

技術養い、人を使える能力を持つ

将来の野菜園芸経営に向けて。

 必要なのは、発想力、行動力、想像力。良い物を作ることを土台に、技術力を養い自立を目指すことが利益と継続力につながる。

 どのような時代が来ようとも人間が生き物である以上、農業が必要でなくなることはない。きっちりソロバンをはじき、しっかり夢をもてば、10年後、20年後には非常におもしろい時代がくるだろう。

 今は厳しくとも、慌てず地道に確実に技術を養うこと、“人を使える”能力を持つこと。この二つがあれば、自然に後から押される時代がくる。


〈本号の主な内容〉

■このひと 野菜園芸経営の将来展望
 ㈲木之内農園 代表取締役会長
 東海大学 経営学部 学部長 木之内均 氏

■第97回国際協同組合デー記念中央集会

■2018年度 JAバンク優績店舗表彰・JAカード店舗表彰

■秋冬野菜の病害虫防除
 千葉県農林総合研究センター 病理昆虫研究室
  室長 福田寛 氏
  上席研究員 鐘ヶ江良彦 氏

■IPM(総合的病害虫・雑草管理)の推進について
 農林水産省 消費・安全局 植物防疫課

■施設園芸新技術セミナー・機器資材展in千葉
 日本施設園芸協会が8月7~8日、千葉県東総文化会館(旭市)で開催へ

蔦谷栄一の異見私見「小さいことに価値を置く令和に」

keyboard_arrow_left トップへ戻る