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日本農民新聞 2026年4月25日号

2026年4月25日

〈本号の主な内容〉

■アングル
 JA全農 令和8年度事業計画~取り巻く情勢と重点となる取組み
 JA全農 代表理事専務 尾本英樹 氏

■JA全農 令和8年度事業計画
 労働力支援、夏季の暑熱対策、再生産可能な価格、農業・JAグループへの理解醸成など

行友弥の食農再論「空気からパンを作る」


 

アングル

 

JA全農 令和8年度事業計画~取り巻く情勢と重点となる取組み

 

JA全農
代表理事専務

尾本英樹 氏

 

 JA全農は3月24日の臨時総代会で令和8年度事業計画を決定した。生産振興、食農バリューチェーンの構築など6つの全体戦略を掲げた同計画のポイントを、「JA全農事業ビジョン2030」の初年度だった7年度の成果、先行き不透明な中東情勢の影響とその対応とともに、尾本英樹専務に聞いた。〈インタビューは4月10日に実施〉

 

紛争で燃料・資材等に影響 肥料等は確保 長期化懸念

緊迫化する中東情勢の影響と対応から。

 農業分野では肥料、飼料、燃料、生産資材の4品目が影響を受けます。肥料と飼料については、基本的に中東以外から調達していますので直ちに原料がひっ迫することはありません。肥料は春と秋の需要が大きいのですが、春用は既に配達していますので、すぐに困ることはないと考えています。

 問題は燃料です。今後どう動くかは不透明で、ペルシャ湾に滞留している船舶がホルムズ海峡を通過できる見通しがつきませんので、当面ひっ迫した状況になっていくと思われます。ただ、国の備蓄している石油が放出されていますので、国内で消費する分が枯渇することは今のところないと見ています。

 一部サービスステーション(SS)において燃料の調達不足から供給制限を実施しているとの報道がありますが、こうしたSSは仕入れ先を多元化しているケースが多く、安定供給面で常にリスクを抱えています。全農は全国5カ所に燃料の基地を保有し、石油元売りからの調達も現時点では前年比100%を確保していますので、利用いただいているJAへの供給は維持しています。

 農業資材に関しては、原料のナフサが世界的にひっ迫する中、3月の段階で農業用ビニールなどの石油化学製品についてメーカーから値上げ要請が来ました。安定供給を最優先に考え、値上げも受け入れながら供給を継続しています。これからの農繁期で心配なのは、農業機械用燃料の軽油、A重油、施設園芸関係のビニール資材などの確保で、紛争が長引けば相当の影響を受ける恐れがあります。

 

コメ集荷、7年度は一定回復 役割や機能を情報発信

令和7年度の振り返りを。

 7年度は全農が事業計画を抜本的に見直したスタートの年でした。従来は中期3カ年計画として、3年ごとの計画を策定する方式でしたが、地政学的リスクや国内物価の上昇など、事業を取り巻く情勢の変化は予測が難しくなっており、事業環境の変化に柔軟に対応するためには、単年度ごとに計画を軌道修正する必要がありました。そのため、前中期計画で定めた全農グループの2030年のめざす姿「持続可能な農業と食の提供のために〝なくてはならない全農〟であり続ける」は、普遍的な目標として継続し、長期的な目標として「JA全農事業ビジョン2030」を掲げ、収支計画は変動の激しい事業環境を踏まえ、単年度ごとに策定することとしました。また、会全体の財務目標として、取扱高6兆円、会員への80億円以上の継続的な配当ができる財務体質の実現を掲げました。

 昨年度を振り返ると、コメをめぐる課題への対応に加え自然災害への対応も重なり、難しい局面が続いた一年でした。コメに関しては、7年産米の集荷にあたり、主食用米の集荷目標を227万tに設定し、6年産米で大幅に減少した集荷の回復に取組みました。その結果、約208万tと一定の回復を果たすことができました。

 政府備蓄米の買受けへの対応については、「流通の目詰まりを解消し、円滑な流通を回復するため」という目的のもと、全農として全力で協力し、販売先に供給を行いました。しかし、「全農が意図的に流通を遅らせている」といった事実に基づかない報道やSNSが一時的に過熱し、全農の事務所にも消費者から直接クレームの電話が多数寄せられるなど、職員のモチベーション低下につながりかねない状況となりました。そのため、米穀事業をはじめ、JAグループの経済事業が果たす役割や機能について、正しい情報発信に取組みました。

 

水稲新品種を普及拡大 コスト指標に現場の声

7年度事業でのトピックを挙げると?

 生産振興では、農研機構と共同で開発した早生多収の水稲新品種「ZR1」が、病害に強く良食味であることから普及しつつあります。異なる作期に対応するため続いて開発した中生の新品種「ZR2」も8年度に向けて拡大していきます。スマート農業普及についても、農研機構と連携して新しい技術やノウハウを提供するとともに、施設園芸の担い手や新規就農者向け研修施設「ゆめファーム全農トレーニングセンター幸手」(埼玉県幸手市)の開設準備を進めました。

 食農バリューチェーンでは広域集出荷施設や、冷蔵保管ができるプラットフォームセンター(PFC)、冷凍青果物製造工場など園芸関係の設備投資に力を入れました。ニッポンエールや「農協シリーズ」で、様々なメーカーとのクロスマーケティング商品を送り出し、産地直送通販サイト「JAタウン」のEコマース事業も着実に伸びてきています。

 海外事業では、全農グローバルホールディングス㈱を設立。穀物と肥料、日本産農畜産物輸出に関して、調達先等の開拓や船の運航を含め一体的に取組む体制を整えました。

 4月から全面施行された食料システム法については、国の検討会に参画し、コスト指標づくりの議論にもJAグループの立場で加わりました。これからどのように生産現場の声を流通側に浸透させていくかは8年度の課題となります。再生産可能で、農家が続けたいと思える農業の環境づくりは、全農の使命です。

 

8年産米生産量を注視 営農継続可能な契約栽培取引を拡大

8年度事業計画の基本的方向は?

 コメの供給不足問題に端を発して、農業およびJAグループが持つ役割・機能への社会の認知度と、全農の対外的な情報発信が十分でないことが明らかになりました。また、全農は多くの長期的かつ構造的な農業課題に対応する必要がありますが、とりわけ労働力不足や夏場の高温による農畜産物への影響をはじめとする目の前にある課題への対応について、年度計画の中で新たに対策を策定、もしくは従来対策を強化してまいります。

 こうした考え方に基づき、6つの全体戦略として①生産振興、②食農バリューチェーンの構築、③海外事業展開、④地域・くらしの維持と活性化、⑤環境および社会的課題への対応、⑥JA・全農グループにおける最適な事業体制の構築–に特に注力して取組みます。

では、まずコメへの対応から。

 8年産米に向けては、全国の需給動向をしっかりと見通したうえで、需要に応じた品目別・用途別の生産に確実に取組むことと実需者への安定供給を基本に据えています。その際、単に数量の確保だけでなく、「営農継続可能な契約栽培取引」等を通じた生産者の手取りの確保と実需者・消費者への安定価格・数量取引を同時に実現していくことが重要です。全農としては、7年産米で導入した「営農継続可能な契約栽培取引」の拡大をはじめ、生産から販売までのバリューチェーンをさらに磨き上げ、国産米の生産基盤の維持、需要確保・拡大に向け米穀事業を展開していきたいと考えています。

「農業・JAグループへの理解醸成」も計画の重点に。

 コメ問題に関して、全農が世論やメディアに対し、正確な情報をタイムリーに発信できていたかどうかという反省があります。発信の際、もう少し分かりやすい説明が必要なことも痛感しました。そこで、8年度は事業内容や市場環境を端的にまとめた「ファクトブック」や事業紹介の動画を作成し、ホームページで公開します。

 また、これまで以上にメディアとの懇談会など意見交換の場を用意し、7年度から始めた有識者との懇談の会議も継続して、外部からの提言を政策に反映させていきます。さらに、内部の職員に向けても、全農の社会的役割を会内広報誌等で伝え、若手職員と役員とのミーティングなどで対話を深めて、職員が業務の意義を実感できるようにしたいと思っています。

 

共同利用施設再編を支援 輸出は加工食品の拡大必要

全体戦略のうち「生産振興」については?

 担い手が減少している中で、例えば直播栽培の技術を水稲だけでなくタマネギ等の野菜に拡大したり、スマート農業の推進による省力化、営農管理システム「Z-GIS」、栽培管理支援システム「ザルビオ フィールドマネージャー(ザルビオ)」等を活用したデータ農業を推進するなど、労働生産性の向上に努めます。また、農家の労働力不足に対応するため、「91農業」をはじめとした労働力支援の仕組みを全国でより一層展開していきます。

 共同利用施設の再編に関しては、新たな食料・農業・農村基本計画で農業構造転換推進に向けて、国と自治体から費用の3分の2まで助成を受けられる仕組みができました。全中が説明会を行うなど周知を図っていますが、全農としてはJA等の施設再編計画を「農業施設総合コンサル」などにより提案し、各JAをサポートしていきます。また、農林中金、全中がおこなう施設最適化の取組みにも参画し、あるべき姿の構築、スムーズな補助事業申請を支援したいと思います。

「食農バリューチェーンの構築」では?

 コメをはじめとする契約栽培取引の導入を拡大し、出口に紐づいた生産提案を推進します。冷凍青果物製造工場の本格稼働により付加価値を上げ、生産に余剰が生じた際の保存に活用するなど、需給調整への寄与を目指します。また、ブランドとして定着したニッポンエールや農協シリーズを通じ特徴ある商品の開発・提案を強化し、生乳についても余剰乳の加工施設を整備するなど、需給全体の調整手段を構築していきます。

「海外事業展開」に関しては?

 まずは中東情勢の安定化が鍵です。中東は新たに拡大すべき輸出エリアとして期待している地域でもあり、状況を見極める必要があります。いま抹茶ブームもあってお茶、そして酒類の輸出が好調です。生鮮食品は鮮度保持や輸送コスト等の課題があるため、国産原材料を活用した付加価値の高い加工食品の拡大が必要です。ニッポンエールブランドの加工食品の輸出拡大にも取組む考えです。また、香港では卵が人気で、国産卵を輸出し、現地で加工した鶏卵加工品を販売する取組みを進めています。

 

SS等ライフラインを確保 基幹システム更新で効率化

「地域・くらしの維持と活性化」については?

 地域の皆さんが最も求めているのは、ライフラインの維持です。特に、サービスステーション(SS)やAコープ等の店舗系を残してほしいという声は強く、ローコスト化や小規模化、店舗に代わる移動購買車などで確保したいと思います。

 未来に向けたまちづくり・ネットワークづくりとして、スマートアグリコミュニティの展開を図ります。群馬県では、組合員宅に設置された太陽光発電の余剰電力をJAグループ施設に販売する地域内エネルギー循環の仕組みが、実用化段階に入る予定です。これを他県にも広げたい。さらに、組合員のスマホを行政と連携し、生活情報や病害虫アラートを受けるといった横のつながりも進めています。

「環境および社会的課題への対応」は?

 「グリーンメニュー」を整備し、それに取組むJAを拡大します。くわえて、「担い手営農サポートシステム」内に、農作物の温室効果ガス排出量を定量できるシステムを構築し、農産物の環境貢献度合いを見える化することで、販売価値を高める対策を実施します。生産と販売を連動させた対策を通じ、環境調和型農業の普及を推進します。また、全農全体の排出量に関して、スコープ1(直接排出)については、ほぼ測定できていますので、今後、低減に向けてのアクションプラン作りに入っていきます。

「JA・全農グループにおける最適な事業体制の構築」については?

 デジタル化に関しては、まずAIを個人で使えるよう研修会を行っています。AIの使用はあくまで手段であり、業務効率化や事業領域の拡大につなげる必要があります。8年度からの全農の基幹システム更新においても、仕事のやり方を見直すなど効率化を実現し、生産物の結集率向上、取扱高6兆円の目標達成に向けた構造改革を進めます。それにより、全農グループが培ってきた「つくる・つながる・とどける」の3つの力を最大化していきたいと思います。

災害等危機管理への対応は?

 これまでの災害対応において迅速な物資支援が重要であったことを踏まえ、全農グループが備蓄する資材や保有する発電機の把握を行い、今後の備蓄体制の検討を進めました。さらに、鳥インフルエンザや豚熱等の家畜疾病が依然として脅威となっていることから、感染防止・拡大防止に向けた指導やマニュアルの提供など、体制整備に努めました。

 高温対策では気候変動への対応として耐暑性品種などの品種改良・開発とともに、遮光フィルム等による温度調節などの施設整備、生産方法の指導に取組みました。畜産に関しても、獣医などからなる専門チームが各地の農場で、夏場の家畜の暑熱対策や資材使用の指導を行いました。

 8年度は引き続き、全農グループが保有する備蓄資材を融通できる仕組みの構築や、家畜疾病対策の強化、被害地域における農畜産物の需給調整機能の発揮に取組んでまいります。

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