日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2024年12月5日号

2024年12月5日

〈本号の主な内容〉

■このひと
 酪農の現状と全酪連の取組み~改正基本法を受けて~
 全国酪農業協同組合連合会 代表理事会長 隈部洋 氏

■組合員・地域とともに食と農を支える協同の力を
 わがJAの取組み
 ~協同活動と総合事業の好循環をめざして~
 ・JA東京スマイル 代表理事組合長 眞利子伊知郎 氏
 ・JA佐渡     代表理事理事長 竪野信 氏
 ・JAいわて中央  代表理事組合長 佐々木雅博 氏

■JAグループ令和7年度 畜産・酪農対策に関する政策提案

■令和6年度JA教育文化活動研究集会
 家の光協会、家の光文化賞農協懇話会が開催

■JA共済連 豊かで安心して暮らすことのできる地域社会づくりに貢献
 ・スマートフォン用アプリで利便性、安全・安心を提供
  「JA共済アプリ」「JA共済安全運転アプリ」
 ・防災・減災にむけた取組み
  内閣府等主催の「ぼうさいこくたい」でPR

蔦谷栄一の異見私見「『農あるまちづくり講座』からの『地域自給圏づくり』」


このひと

 

酪農の現状と全酪連の取組み
~改正基本法を受けて~

 

全国酪農業協同組合連合会
代表理事会長

隈部洋 氏

 

 日本の酪農業は、飼料価格の高騰など生産コストの上昇が経営を圧迫し、廃業を余儀なくされる酪農家も出る厳しい状況にある。そうした現状と全国酪農業協同組合連合会(全酪連)の取組みを、代表理事会長の隈部洋氏に聞いた。


 

厳しいコスト高、偏る需給調整の負担

酪農を取り巻く情勢と目下の課題は?

 乳価は上がっているが資材や光熱費等生産コストも上がり、さらに子牛等副産物の価格も下がっている。消費も前年に及んでいない。飼料価格の高騰が続いており、酪農家は高コストの経営を余儀なくされている。輸入粗飼料に頼らざるを得ない地域は、より厳しい状況であり、国や地方自治体に手厚い補助をお願いしているところだ。

 系統外生乳の移入が増え、系統組織に需給調整の負担が偏っていることも問題だ。それが都府県における乳製品への加工処理の発生やプール乳価値下げに繋がり、結果として酪農家の経営悪化にも繋がっている。共に需給調整に取組まなければ、日本の酪農の持続的な発展はない。

 

乳価値上げでも続く消費低迷

乳業界の現状への認識は?

 昨年、一昨年と二度の乳価改定により牛乳の販売価格は値上げされた。ただ、大消費地では主に北海道の系統外の牛乳の安売りが目立ち、税込み300円前後の通常価格帯の牛乳の消費は低迷が続いている。消費者の今一歩の理解醸成が必要だ。

 乳業者には安全安心な牛乳の安定供給が求められている一方、近年は温暖化による夏場の猛暑で牛も人も疲弊し、生産減少に繋がる要因となっている。酪農と乳業は両輪と言われているが、離農が増え続けている酪農の実態にしっかり目を向けて、酪農家に光を与えられるよう一緒に頑張ってほしい。

 

現場の酪農家に寄り添う姿勢明確に

全酪連の理念と取組みは?

 全酪連は、昭和25年の創立以来、酪農専門農業協同組合として、会員組合の組織運営指導、生乳の広域流通、牛乳・乳製品や食肉の製造販売、酪農家への情報や生産資材の提供など、日本の酪農・乳業の振興・発展のため多様な事業を行ってきた。

 令和3年度に策定した将来ビジョンの基本姿勢に、持続的な酪農生産基盤の構築を掲げている。具体策としては、販売事業の強化、業務効率化を柱とした第13次中期事業計画を策定している。

 地域社会に根ざした安定した酪農経営、後継者や新規就農者が希望の持てる酪農環境、消費者に安全安心な国産牛乳・乳製品を届けるための良質な生乳生産と安定供給、を基本に計画を着実に実行し、現場の酪農家に寄り添う姿勢を明確にしつつ、わが国の酪農が直面する様々な課題に対応している。

 農家の経営管理を支援するため、専用の会計ソフト『e酪農経営』の供給・拡大、支所の集約など組織自体の業務改善にも取組みながら、販売力を強化し会員を支援していきたい。

 職員全員が全酪連の理念を再確認して、次の段階へステップアップする〝ネクストステージ全酪〟を合言葉に、酪農家とともに進んでいく。

 

アカデミー設立でプロの酪農家育成

これまでの取組み成果は?

 販売預託事業の拡大や若齢預託牧場を新たに開設することで、哺育・育成期の労働力削減に応え、生産基盤維持の一翼を担ってきた。

 哺育・育成に関する飼養管理技術では先駆的な存在となり、情報発信、製品開発、普及に努めている。

 2021年からは「全酪アカデミー」を設立し、新規就農希望者を募りプロの酪農家を育てる事業をすすめている。1期生は熊本、2期生は福島、福岡で就農し、3期生は鹿児島で就農すべく準備している。廃業がすすむなかでも、酪農に夢を持っている若者もいる。そんな若者を手助けする仕事にも取組んでいる。

 

〝らくのうマザーズ〟の商品開発に力

地元・熊本での取組みの特徴は?

 熊本県酪連は設立70周年。熊本地震では熊本工場、菊池工場が操業停止になったが早期に再開し、生産者支援チームを組み再建を支援した。新商品の開発にも積極的で、「らくのうマザーズ」のブランド名で、生乳を惜しみなく使った商品を提供している。

 〝チーム・マザーズ〟の合言葉で、一人ひとりの仕事の積み重ねが大きな仕事に繋がっていくように人材育成に力を入れている。

 

先の見える生乳生産環境の開拓を

改正基本法の評価と国への要望は?

 改正「食料・農業・農村基本法」の基本理念には「食料安全保障の確保」が謳われているが、果たして国民に対し良質な食料を合理的な価格で安定的に供給できるのか。残念ながら離農が止まらない今の酪農の現場を考えると、国産乳製品一つとっても安定的に供給し続けることができるのか。また、食料自給率を本当に上げる気があるのか、甚だ疑問である。

 酪農は生乳生産の役割を担うだけでなく、地域の発展や高齢化社会を支える重要な役割を果たしている。最近では動物性たんぱく質の代替食品も増えてきたが、地域経済、雇用、自然環境、健康維持等々に貢献する場面は多様だ。乳のもつ栄養・美味しさ・社会的価値は、そのまま代用できるものではない。

 今、生乳の自給率を上げていかなければ、将来的に世界の人口が100億人になった時、現状の世界の生産量ではとても賄えない。

 改正基本法で食料安全保障が掲げられたからには、日本の酪農が大切であることをさらに発信し、先の見える生乳生産の環境を切り拓いていただきたい。

 今、チーズの需要が増えているが、生乳換算で1千200万tの国内消費のうち730万tが国産で残りは輸入である。輸入を国産に替える方向性を出し、支援していただければチーズ生産への設備投資も進むのではないか。

 同時に、自助努力も忘れてはならない。牛舎には努力の〝種〟がいっぱい落ちている。自助努力しながら、国や乳業メーカーにも支援をお願いし、業務改善と販売強化に取組みながら酪農家を支援し、先に明かりが見える環境を創っていきたい。

 

生産者のロマンと生活者の安心を繋ぐ

会長としての決意を。

 大地に根ざし、自然の恵みを、牛を通して生み出す酪農。その酪農家の真心を、安心とともに消費生活者に届けるまでの全てのプロセスに全酪連は携わっている。

 「酪農生産者のロマンと消費生活者の安心をつなぐスペシャリスト」として、常に会員、組合員とともに、上を見て前だけを向いて歩み続けていきたい。

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