日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2024年8月25日号

2024年8月25日

〈本号の主な内容〉

■アングル
 「農林水産研究イノベーション」戦略のポイント
 農林水産技術会議 会長 本川一善 氏

■JA全農 第48回通常総代会
 新理事長に桑田氏、新専務に齊藤氏
 JA全農 令和5年度事業

■令和6年度 JA経営ビジョンセミナー 第1セッション
 JA全中が開催
 「変革時代のJAのパーパスとリーダーシップを問う」

行友弥の食農再論「株価と農産物輸出」


 

アングル

 

「農林水産研究イノベーション」戦略のポイント

 

農林水産技術会議
会長
本川一善 氏

 

 

 農林水産省は6月、「農林水産研究イノベーション戦略2024」を公表した。これを踏まえて、農林水産技術研究の進捗と課題、技術開発の方向と農林水産技術会議の位置付けなどについて本川一善農林水産技術会議会長に聞いた。


 

農政課題の解決に大きい技術の力

最近の農林水産技術をめぐる思いから。

 世界的な食料供給の不安定化や環境に配慮した農業など様々な農政課題があり、それを解決するために食料・農業・農村基本法が改正された。その解決の前提として農業技術に期待されているところが非常に大きいと感じている。

 日本の農業人口はどんどん減っており、少ない人数でも農業生産を行える環境を整えていかなければならない。

 さらに気候変動が一気に進み、例えば、昨年は新潟で一等米が減るような事態になってしまった。温暖化に対応できるような耐暑性の品種等が大きな役割を果たしていくだろう。そこはまさに、品種改良技術が主導していくことになってくる。

 こうした技術への期待が、農政の中で大きく変化した視点だと思っている。

 

スタートアップ支援で新技術をビジネス化

「農林水産研究イノベーション戦略2024」のポイントは?

 4つの重点研究開発を掲げている。まず人口減少に対応した「スマート農業」の展開。国会に基本法と一緒に法律を提出し進めている。例えば水田農業でのトラクターや田植機の自動運転など。国が実装までを想定した重点開発目標を定め、農研機構の施設活用を含めた産学官連携を強化して取組んでいく。

 次に「みどりの食料システム戦略」に則った技術開発。例えば、牛のメタンガスを減らす飼料、あるいは肥料成分を作物に供給すると同時に炭素を貯留するような高機能バイオ炭、窒素肥料をあまり施用しなくてもいい機能を持つ小麦の開発、また内閣府のムーンショット型農林水産研究開発を通じ、害虫をレーザー光で撃ち落とすような物理的防除技術の開発、等々の研究があげられる。

 これらにより、海外依存度の高い品目の生産拡大やその省力的・安定的な生産、持続的な食料システム構築を目指すとともに、「いま、技術がここまできている」ことをみなさんに知ってもらいたい先端技術を網羅している。

 3点目に「持続可能で健康な食の実現」に向けた技術開発。基本法の法律改正で、唯一国会で修正された点が、第30条にある「多収化等に資する新品種の育成及び導入の促進」で、それくらい技術に対する国会審議の関心が高かったと言える。

 食料安全保障の観点からも、収量の高い大豆品種の開発はもとより、水素細菌や麹菌を活用し生成したタンパク資源の食品等まで研究していることを紹介している。

 4点目のバイオもこれから世界的に大きく伸びていく産業であり、経産省とともに技術開発を後押しし市場獲得に貢献していきたい。

 しかし、いくら一生懸命技術を開発しても、それが農家に届かなければ意味がない。スタートアップ等が新しい技術をビジネスとして農家に提供していくことが必要だ。今、内閣府のSBIRフェーズ3基金事業の467億円を活用してJATAFF(農林水産・食品産業技術振興協会)がスタートアップを支援し、ビジネスで新しい技術を農家に提供していこうとしている。これが大きくなれば、コストも下がっていくだろう。

 

技術と生産現場が歩み寄って

これからの課題は?

 スマート農業は、これから法律が施行されて基本方針を決めて取組んでいくことになる。しかし、良い機械が出来ても「自分の所では使えない」と言う農家も多い。そこで法律では、スマート農業技術に合わせ生産現場の形態も変えていくことを提案していこうとしている。

 例えば、アスパラの収穫機に合わせて生産圃場を変える、りんご収穫機が収穫しやすいような品種の木を導入する等々、技術と生産現場がお互いに歩み寄って知恵を出していくことが大きな課題ではないか。

 野菜や果樹の機械など、まだまだ難易度が高く実装化に近づいていない分野に力を入れて開発をすすめていくことも必要だ。

 現場の導入コストを大きく下げていく必要もある。機械そのもののコストを下げることも重要だが、例えば、JAなどがリレーで機械を使っていくように調整をすることで、利用コストを下げていくような工夫も必要ではないか。

 スタートアップに繋がる話かもしれないが、農家が機械を保有しなくても事業者がサービスを提供することで利用コストを下げていくなど、中山間地や中小の経営でも利用できるシステムを考え、広く利用できるようにしていくことが課題だ。

 

JAのTACチームの支援に期待

JAグループへの期待は?

 退官後、全農の経営管理委員を約2年務めさせてもらった。非常によいキャリアを積むことができた。まさにこういうスマート技術の分野を全農やJAのTACチームが支援していくべきだと思う。

 全農では、圃場ごとの情報提供も絡めて営農管理・栽培管理支援システムの活用を進めている。特に、中小や中山間地の農業現場で農家支援サービスに果たすJAの役割は大きい。地域を維持するために、JA単独ではなく地方公共団体にも支援をもらうようなことをもっと議論して考える。そうした方向をJA中心となって進めて欲しいと願っている。

 

技術を総ざらいし進捗状況を整理

これからの技術会議の役割は?

 技術も日進月歩であるから、その時々の課題と技術を総ざらいして整理し、これから進めていこうとすることを世の中にアピールしていくことが一つの役割だ。

 環境問題等を考えると「みどり戦略」はきちんと達成しなければならない。進捗状況を定期的に整理していく必要もある。例えば2050年の目標達成のためにはこんな技術が必要だということを、〝技術シーズ〟が足りているかどうかまで含めて、みどり戦略の進捗具合を見ていきたい。

 スマート農業は、開発がどこまできているのか、開発主体が求めているのはどういうことなのか、現場は…と、スマート農業をめぐるステークホルダーの意見を聞いて方向性を整理していきたい。

 都道府県の農業試験場は、このところ国との関係が希薄化しつつある感じがする。都道府県農試や民間企業の研究所なども総動員して、農林水産技術研究に取組めるような方向を模索していきたい。

 また、国際連携や異分野も含めた人材確保など研究開発の環境整備を意識していきたい。

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