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日本農民新聞 2023年12月25日号

2023年12月25日

TACパワーアップ大会2023
JA部門 全農会長賞を受賞して

 

農業の将来の姿を見据えたTACの活動

 

岐阜県 JAにしみの
代表理事組合長

小林徹 氏

 

 地域農業の担い手とJAの関係強化のため、担い手を訪問して意見・要望を聞き、経営に役立つ情報提供と提案をする担当者TACの優れた取組みを行っているJA、個人を表彰し、成果を共有する「TACパワーアップ大会」で、今年度のJA部門最優秀賞にあたる全農会長賞に岐阜県・JAにしみのが輝いた。将来の農業の姿を見据えて、いち早く課題への対応策に取組む同JAのTACの活動を小林徹組合長に聞いた。


 

管内では水稲・麦・大豆を2年3作で

JA管内の農業概要は?

 当JAは、岐阜県の南西部、本店のある大垣市、海津市・神戸町・輪之内町・安八町・養老町・垂井町・関ケ原町の2市6町に跨がり、海抜0mの平野部から天下分け目の合戦場・関ヶ原地区の中山間地に広がる。1999年に6JAが合併して発足した。

 管内の代表的な農畜産物は米で、県内最大の穀倉地帯であり、約1万2千haの水田では水稲・麦・大豆を2年3作で生産している。他には肉牛生産が盛んで、温暖な気候を利用した施設栽培の冬春トマト・キュウリ、周年出荷の小松菜、グリーンねぎ、切りバラは県内で最大の産地を有している。地元消費者向けにファーマーズマーケットを7店舗出店し、33種類の農産物を「にしみのブランド」として届けている。2022年度の販売事業の取扱高は、受託・買取合わせて90億円を超える金額になっている。

 

専任TAC19名体制で担い手を訪問

TACの取組経過や体制は?

 2010年から営農アドバイザーの形で指導を担当する職員を管内6カ所の営農経済センターに配置していたが、JAの自己改革の中で農業者の所得増大を掲げて取組むにあたり、担い手の対応を強化するため2016年にTACとして位置づけをした。同時に活動を統括するTAC室を営農経済担当常務の直轄部署として新設した。

 活動では、①積極的な訪問活動による営農・経営情報の提供、②先進的な栽培技術等の研究・調査による取組成果の提案、③担い手からの総合窓口として、JA各部門との連携による総合事業の提案、を目的に掲げている。

 TACの人数は開始時から現在まで専任の19名体制で変わらず、訪問先の担い手は当初の約300戸から現在は約200戸になっている。初めは訪問範囲を広く選定していたが、年々見直し、水田作で4ha、園芸作で50a、施設栽培で20a以上の個人農家、畜産の担い手、農業生産法人、集落営農組織、部会の代表者、新規就農者などを対象にしている。1戸あたりの訪問回数は平均で毎月約2・5回。年間の訪問計画、毎月の計画を立て、前回はいつ訪問したかをチェックしている。

 JAの各部門や関係組織との連携は、毎月第二木曜日に定例会議を開催している。本店の経済や信用、共済各部門の部課長、県中央会、全農県本部、県の農業普及課も参加して、取組みの進捗や今後の活動の確認を行い、TACが新しい情報や知識を得る機会にもなっている。加えて四半期ごとに担当常務、本店部課長、TAC室長が6地区の営農経済センターに出向き、それぞれの区域で異なる品目や地域の課題を聞き、対応について意見を交わしている。

 

毎年1人1課題を設定し担い手への提案に繋ぐ

TACの活動で特徴は?

 TACは全員、毎年1人1課題ずつ担い手への提案に繋がるような研究課題を設定して、成果報告会を開いてその結果を発表する。その資料を担い手の研修に使用して新しい技術の普及拡大に活かしている。課題を見つけるヒントは訪問している担い手の要望にあって、それにどう対応したら解決できるかを考えることから始まるのだと思う。

 課題解決はTAC一人でできるものではないので、TAC室と各TACが連携して、さらには県の農業普及課や全農と相談し、協力を得ながら進めている。最近は先進的な技術開発が活発なので、どの技術を使えば良いか、まずは現地で試してみる。結果が良ければその技術を広く勧めていこうという考え方。新技術を提案するときは、JAやTACが自ら実証試験を行い、結果を検証している。効果の見える化は提案のための重要な要素になっている。

 担い手からの要望は多様化しているが、最終的にはどうやって所得を上げていくかということに集約されると思う。コスト削減、省力化、効率化、収量の安定や増大、補助事業の活用など、いろいろな方向からの提案によって所得につなげる活動を行っている。

 

自ら実証もしながら技術を提案

最近、取組んだ課題と成果は?

 1つは、土壌診断の体制を強化して、有機質資材活用の効果確認や小麦の栽培で使用する被覆肥料の代替策について検討した。2つめは、水稲種子生産の安定化や小麦収量の増大のため、ドローンによる生育調査を活用して施肥改善を提案した。3つめは、生産コスト削減へJA育苗センターからの高密度播種苗供給、TACの一斉訪問による銘柄集約肥料の予約取りまとめ強化、肥料高騰緊急対策の申請支援がある。

 土壌診断は、それまで外注していたものをTACが所属する各営農経済センターに簡易診断用のpHメーター、ECメーターを配備し、TAC自らサンプリングし施肥提案を行うことで素早く結果を示せるように体制を強化した。水田2年3作体系の中で、次作の小麦や大豆栽培の土づくりに間に合うように必要な苦土石灰量の提案に取組んだ。これは前作の栽培中に土壌診断を行い、土壌pHと収量の関連性を見える化して担い手に示し、適正施用によるコスト削減につなげた。有機質資材の実証結果も研修会で報告している。

 ドローンを使った生育調査は、追肥の可変施肥や翌年の基肥の可変施肥を実証した水稲採種圃で収量128%と施肥量14%減を達成。小麦は施肥改善した今年産で過去最高の反収を記録した。生育の均一化に効果があるリモートセンシングと可変施肥機、Z-GISをパッケージで提案するようになった。

 生産コスト削減の取組みは、担い手から要望があったJAによる密播苗の供給により面積拡大が図られた。さらにコスト低減と移植適期を長期化する目的で行った「短期苗(乳苗)」の実証で良い結果が得られたので、来年2月の担い手研修会で報告することにしている。一斉訪問はTACだけでなく営農経済担当者も加わりJAの総力をあげて取組んだ。全ての組合員に銘柄集約肥料の注文や肥料高騰対策申請を呼びかけ、コスト抑制に貢献できたと感じている。

 実証を通じて効果を担い手に提案する技術は、1年1作の農業ですぐには確立できない。どれも担い手の圃場を借りて2年、3年、5年と試験を行っている。

 国が「みどりの食料システム戦略」を策定し、環境対応と生産性向上の両立という将来的な農業の目指す姿を示した。これから農業がどのように変わっていくのか、何が求められるのか。これからも5年先、10年先を見通して、その対応を用意しておくことが地域の農業のためにJA、TACが果たす役割だと考えている。

 

担い手が集まる研修は信頼のバロメーター

全農会長賞受賞の感想とTACへの言葉を。

 2020年のTAC大会ではJA表彰を受賞したが、今回の全農会長賞はその時よりも高く評価をいただき、大変栄誉なことと非常に喜んでいる。TACはとても地味で地道な仕事で、その努力が報われ、光が当たった。今回の受賞をいろいろな場所で報告したいと思う。理事会でもその機会を作った。大いに宣伝したい。

 個人の担い手から農業法人や集落営農組合のリーダーまでを集めて研修会を開催すると大勢が参加してくれる。これは担い手からの信頼のバロメーターで、これまでTACが良い提案をしてきたからだと思う。農業のプロである担い手は長い経験と実績を持ち、栽培技術にも長けている。そういう人たちから信頼されている。TACが活躍する場面はこれから増えてくる。TACの19人には担い手とJAの懸け橋になることを期待している。これからも担い手のもとに足を運び、寄り添い、担い手がJAにお願いしたいことを受け止め、地域や作物が元気になる提案を続けてほしい。


〈本号の主な内容〉

■TACパワーアップ大会2023 JA部門全農会長賞を受賞して
 農業の将来の姿を見据えたTACの活動
 岐阜県 JAにしみの 代表理事組合長 小林徹 氏

■TACパワーアップ大会2023 TAC部門全農会長賞を受賞した
 石川県 JA石川かほく 営農部営農企画課課長補佐 櫻井和幸 氏

■TACの活動の現状と課題対応
 JA全農 耕種総合対策部 岩田和彦 次長

■第41回 全農酪農経営体験発表会

■令和5年度 JA教育文化活動研究集会
 家の光協会・家の光文化賞農協懇話会が開催

■令和5年度 JA助けあい組織全国交流集会
 JA全中が実・WEB参加併用で開催

行友弥の食農再論「本当に残酷なのは…」

■YEAR’S ニュース2023

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