日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2023年10月5日号

2023年10月5日

このひと

 

持続可能な農業・JAグループへ
JA全中の取組み

 

JA全中
代表理事会長
山野徹 氏

 

 この8月、JA全中の新たな代表理事会長に山野徹氏(鹿児島)が就任した。3年間のJA全厚連会長、全国農政連会長を経ての就任。基本法見直し、食料安全保障の確立と日本農業の一大転換期にあっての、持続可能な農業・JAグループへ向けたJA全中の取組み方向を聞いた。


 

重責を一歩ずつ一つずつ しっかりと

まず会長就任の感想、思いを。

 この3年間、JA全厚連と全国農政連の会長を務めた中で、農水省、厚労省、国会議員など、様々な方とやりとりさせていただいてきましたが、全中会長という立場はまた重さが違います。日々、重責という言葉でも足りないくらいの責任を感じているところです。

 8月の就任以来、各種委員会、理事会、そして記者会見など、多岐にわたる業務の流れを一定程度把握してきたことで、少しほっとしたというのが今の心境です。
 たいへん重要な課題が山積しているので、一歩ずつ、一つずつしっかりと取組んでいきたいと考えています。

 

持続可能な農業に向けて主体的に

目下の最大の課題は?

 食料・農業・農村基本法の見直し、そして食料安全保障の確立が最大の課題だと考えています。基本法見直しの方向については、食料・農業・農村政策審議会の答申がJAグループの政策提案も踏まえた内容でなされ、今後議論が本格化していくことになります。

 折しも食料安全保障が国民的課題であることが広く認識され始めたいま、基本法の見直しは、日本農業の大転換点となるはずです。これをJAグループとしてもチャンスと捉え、持続可能な農業に向けて主体的に、我々の声をさらに反映させていくことが重要です。「国消国産」への理解醸成にもさらに力を入れていかなければなりません。

 持続可能な農業の確立には、農畜産物の適正な価格形成に向けた取組みも欠かせません。農水省が行った地区ブロック単位の意見聴取でも、これについての意見が最も多く寄せられています。

 今回のロシア・ウクライナ問題で、生産資材やその原料の輸入がされない、どうにか入ってきても価格が高騰しているのに、農家の手取りは変わらないという状況が生じてしまいました。コスト上昇分の価格転嫁がなかなかできないことは重大な問題です。十分に議論し、消費者の皆様に広く理解を求めながら、できるところから追求していくことが重要だと考えています。

 

適地適作への見直し、適品種開発の必要も

気候変動、環境問題と農業についてのお考えと対応方向は?

 100年に1度、50年に1度と言われるような異常気象が近年続発しており、農業はもちろん社会全般に深刻な被害が生じています。

 併せて、温暖化の影響で、産地の北上化が見られてきています。広い日本列島の中で栽培されている様々な農産物の生育サイクルがこれによって変化し、栽培適地、出荷時期の競合などの問題が生じ、価格の低下・低迷が見られるようになってきています。こうした状況下、適地適作への見直し、適品種の開発などに早急に取組む必要が出てきていると考えています。

 

コロナ禍に感じた協同組合の力、ありがたさ

協同組合の社会的役割をどう捉え、どう内外に理解浸透させていくか。

 新型コロナの国内最初期のクラスター患者を受け入れたのは厚生連病院でした。本当に大変な状況下、病院関係者は非常に苦労されたわけですが、そういう時も各厚生連病院から医療従事者の派遣をいただき、募金活動など含め、JAグループは多くの支援に動いていただきました。「協同」のありがたさ、そして組織の力はすごいとあらためて感じました。

 協同組合は、「一人は万人のために、万人は一人のために」との基本理念のもと、共通の目的を達成するために、協同で様々な事業や活動に取組んでいます。総合事業の強みを発揮しながら、しっかりと目的を達成していかなければいけません。

 協同組合の基本理念と、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念は親和性が非常に高いです。新自由主義からの脱却という動きもある我が国の中で、今一度、JAグループは国内外の協同組合とも連携し、協同組合運動の促進、SDGsの取組みを強化していく必要があると考えています。

 協同組合の強みは、組織者・利用者・運営者が三位一体であることです。ただ近年、その意識は若干薄れてきているのではないでしょうか。組合員との対話をしっかり重ねながら、組合員のJA事業・活動への参画意識を高めていかなければなりません。

第30回JA全国大会を来年に控え、方向性について現時点ではどうお考えか。

 来年の第30回JA全国大会に向けては検討に入っているところで、今後本格化することになります。第29回大会決議等の実践状況や生産現場の実態、JAグループをめぐる情勢等を勘案して検討していかなければならないと考えています。

 

生産者の声をしっかりと聞き連携とって

農政への要望と対応方向は?

 持続可能な農業生産が確立できるように、JAグループとしても現場の生産者の声をしっかりと聞き、食料安全保障の強化などわが国の食料・農業に関する課題解決に向けて、政府・与党としっかり連携をとって進めていかなければならないと考えています。

 併せて、我々の要望を実現するための政策提案をしていくとともに、必要な農林予算についてしっかりと確保していきます。

 

農家のためになる役職員たれ

JAグループの役職員に向けてメッセージを。

 「JA運動は、役職員が中心であるべし」、と私は考えています。そして、「農家のためになる役職員たれ」と。そのためには職員の皆さんにも日々、各種研修や自己研鑽に努めていただきたいと思います。

 組合員からはそれぞれ、レベルの高い要求をいただいています。それらに対応し得る職員の教育という観点でも、しっかり取組んでいきたいと思います。

 職員自ら、働きやすい、明るい、そういう環境づくりを、職員の皆さんとも十分話し合いながら進めていきたいと考えています。


〈本号の主な内容〉

■このひと
 持続可能な農業・JAグループへ
 JA全中の取組み
 JA全中 代表理事会長 山野徹 氏

■農中総研フォーラム 開く
 食料安全保障と地域資源循環の強化に向けて
 ~現場の実践から考える次世代耕畜連携のあり方とは~

■令和5年度 教育文化・家の光プランナー専修講座~基礎編~
 家の光協会がオンライン開催

■JA全農・経済事業における情報システム・IT活用の取組み
 JA全農 IT推進部 茂角正延 部長

■JA共済事業における情報システム・IT活用の取組み
 JA共済連 DI部 宮臺俊彦 部長

蔦谷栄一の異見私見「『農業と農の分離』と『農業の社会化』という流れ」

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