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日本農民新聞 2023年8月5日号

2023年8月5日

アングル

 

第66回全野研全国大会のテーマと今後

 

全国野菜園芸技術研究会
会長

渋谷忠宏 氏

 

 

 施設栽培を中心にした野菜農家が集まり、お互いの栽培技術や経営手法を学ぶ全国野菜園芸技術研究会(全野研)の全国大会が8月2~3日に神奈川県で開催される。コロナ禍の間、同大会は開催中止や一部日程のみで行われ、全日程で開催するのは4年ぶり。資材価格や脱炭素などの課題があるなか、今大会で掲げるテーマと研究会の今後について渋谷忠宏会長に聞いた。


 

1964年から全野研として

全野研の組織と活動は?

 世の中に新しい資材や技術が生まれると、それを農業にいち早く取り入れる方々が現れる。全野研は1951年に農業用ビニールが製品化され、静岡県で野菜栽培に使い始めた方々が56年に研究会を設立した。そこに全国から施設栽培を行う農家が参加し、64年から全野研として活動を行っている。

 生産技術を高め合うだけでなく、オイルショック時は燃料節減と生産量維持のための技術を学び、廃プラ問題にも積極的に取り組んできた。

 設立から一貫して野菜農家が組織を運営しているため、全国大会はじめ定期的な会合が活動の中心になっている。コロナ禍以前は、青年部が主体になって、自らが学びたい技術の研究者や話を聞きたい経営者を講師に招いたトマト・キュウリサミットも開催していた。

 現在は、農林水産省園芸作物課の担当者や野菜生産に関連する部署の方との意見交換を行っている。今年からはWEBを使って、会員農家のほか協力企業の方も参加し、栽培状況や困り事の相談などを自由に話し合う「ネットの寄り合い」を始めた。

 

4年ぶりに大会をフル開催

今年の全国大会の内容は?

 今回は4年ぶりに講演会・事例発表・交流会・視察研修まで開催できることになり、会の役員、地元神奈川県の野菜担当、普及担当、JAグループの方々と今大会の内容を検討してきた。そのなかで、今後の農業経営は、これまでの延長線上ではなく、急速に発展する技術や、予想し得ない事象の影響を受けることが多くなる、と考え、「10年後に向けて日々進化する農業経営~人・環境と調和した持続的な農業をめざして~」をテーマに設定した。

 先行きが分かりにくいなかでも、変化を敏感に受け止めて、柔軟に的確に対応して、私たち野菜農家が、消費者の求める野菜をつくり続けられるようにするための講演、事例発表をお願いした。

 農林水産省からは、2050年の国内外における食料需要・市場にはじまり「食料安全保障室をめぐる情勢と取組み」を解説いただく。

 基調講演は、農家では観察が難しい作物の〝夜〟と〝根〟に注目して、作物の反応から、生育被害を軽減し、生産を安定させる技術を一貫して研究してこられた小沢聖さんにお願いした。

 事例発表は、県の品評会においてキュウリ・トマトの2品目で農林水産大臣賞を受賞している神奈川県の和田浩明さん。会社勤めを辞めて新規就農し、キュウリの生産者仲間と技術向上のためのスタディクラブを立ち上げ、収量増大を実現している群馬県の永田亮さん。同じく会社員から新規就農し、4つの市に農地を持ち120品目以上の野菜を生産して地元の農協・スーパー・マルシェ・飲食店・学校給食、業務加工用まで幅広い販売を行う神奈川県の秋葉豊さん。

 視察研修は、環境制御型の高軒高ハウスを自作し、トマトの養液栽培と苗づくりを行う神奈川県の菊地弘幸さん。

 いずれの内容も栽培技術・販売方法・経営戦略・後継者づくりを考える時のヒントを得られると考えている。

 

カーボンニュートラル達成へ 可能性実感できるモデルを

現在の生産現場の課題は?

 施設園芸では2050年のカーボンニュートラル、その前の2030年にCO2を46%削減という達成目標がある。

 先日聴いた講演会で、生産において過剰なものはないか、それはどのくらい過剰なのか、それを知って実践し、コストや環境負荷低減につなげること。それによる収量減少のリスクは高度な生育診断技術で補うという考え方。また地域の産業が排出するCO2を施設栽培で活用して生産量・生産効率を高めて循環システムとして貢献するという話を聞いた。

 しかし現場で経営を成り立たせながら、これらの目標をどのようにしたら達成できるのか、今の時点では具体的な姿を頭の中に描けていない。

 農家レベルで可能性を実感できるモデル事例が欲しいと思う。

 また、私はハウスでトマト、ブドウを栽培しているほか、水田で米と大豆を作る。地域には水田が40haほどあるが、毎年のように約1haずつ誰か作れないかと声が掛かる。耕作放棄地にしないように、地域の誰かが作っているが、地域に後継者がいる経営体は約半数なので、今後、農業後継者が増えなければ、農地を引受けられる人が何年後までいるか分からない状況だ。

 自分では水田作の作業は収穫までにして、乾燥調製以降は共同利用の施設で担ってもらえたら有り難いと思っているが、大きい水田地域ではないところでも農作業を分業する方法はないだろうか。

 

経営を持続的で力強いものに

これからの全野研の活動は?

 これまでは収量増大を進めてきたが、家族経営の範囲では資金をはじめ人的にも投入できる資源は限りがある。また需要が限られている中で全国各地で同じ品目を同じ時期に作っても、売り値を下げるだけで経営の発展につながらない。会員の中には一部のハウスを使っていなかったり、栽培品目を転換している人も増えている。

 生産と販売が両輪になり、経営が前に進むよう、今回の事例発表にもあるさまざまな販売先や販売方法を学ぶことも大切になっている。野菜を作る技術、売る技術、後継者を育てる技術を高め合って、野菜農家の経営を持続的で力強いものにしていきたい。

 全国大会は人と向き合って自分の工夫を伝え、意見を交わすことができる。全野研にとって、これまで以上に重要な機会になっていると思う。年に1回の限られた時間だが、その場所での縁を切っ掛けに、地元以外のいろいろな地域の人と知り合いになり、今どきのコミュニケーション手段を活用して情報交換し、互いのハウスを訪問するようなつながりが増えるように、これからも内容を充実させたい。

 また、県内や地域ごとの活動がこれまで以上に活発になるように、全国大会やWEBでの集まり、勉強会を積極的に活用していただきたいと思う。


 

〈本号の主な内容〉

■アングル
 第66回全野研全国大会のテーマと今後
 全国野菜園芸技術研究会 会長 渋谷忠宏 氏

■果菜類の虫害防除
 農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域
 生物的病害虫防除グループ長補佐 櫻井民人 氏

■果菜類の病害防除
 農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域
 生物的病害虫防除グループ長 窪田昌春 氏

■野菜栽培における土壌伝染性病害の防除対策
 農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域
 博士(農学) 越智直 氏

■全国野菜園芸技術研究会 第66回全国大会・神奈川大会
 8月2・3日 藤沢市民会館(神奈川県)で開催
 開催概要

蔦谷栄一の異見私見「『農あるまちづくり講座』で〝真〟の准組合員づくり」

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