日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2023年6月25日号

2023年6月25日

このひと

 

農薬業界をめぐる現状と取組方向

 

JCPA農薬工業会
会長
小澤敏 氏

 

 JCPA農薬工業会は、5月の総会で新会長に小澤敏氏(三井化学クロップ&ライフソリューション㈱代表取締役社長CEO)を選任した。新会長に、農薬を含めた作物保護産業界を取り巻く環境と産業界としての取組み方向を聞いた。


 

自主的運営と透明性ある活動で

就任の抱負から。

 JCPA農薬工業会は、国内の主要な農薬製造業者を中心に組織され、この4月現在、製造業者などの正会員34社、輸出入業者などの賛助会員44社で構成され、農薬の取扱高は、業界全体の約90%を占めている。農薬企業の自律・自主的組織として、自主的運営と透明性ある活動で農薬も含めた作物保護産業の持続的な発展に資する基本方針を貫いていきたい。

 今日のコロナ禍さらにウクライナ紛争は、気象変動や病害虫など既存の危機と相まってフードシステムへの複合的な脅威となっている。食料、肥料・飼料等の農業資材、エネルギーの価格高騰や供給不安も生じ、グローバルに食料安全保障上のリスクの認識が高まっている。

 一方で、食料自給率向上推進の過程で、農業現場は農業者の高齢化・担い手不足、地域コミュニティーの衰退などの課題を抱えており、農作業の省力化のための新規剤とともに、スマート農業や総合防除に利用できる新技術への期待が高まっている。

 日本メーカーは実力があり、ますますグローバル化が期待されている。こうした面に注力し、食料安定供給に向け作物保護に関わるイノベーションの創出に力を入れ、日本及び世界の農業の生産力向上と持続性の両立へ貢献していきたい。

 

安全の先にある安心の獲得へビジョン

これまでの活動の特徴は?

 これからの持続可能な食料供給を支えるためには、農薬を含めた作物保護技術の果たす役割はますます大きくなると考えている。当会では2013年に創立60周年を迎えたのを機に、「将来のありたい姿」と今後の活動方針を検討。将来ビジョン「JCPA VISION 2025」を策定した。

 将来のありたい姿として、農業者が自信を持って農産物を生産し、消費者は安全・安心な食生活を楽しめる社会となっていることを第一に掲げている。また、科学的技術を用いた新製品や新技術を開発し、世界の食料供給に貢献している産業を描いている。そして、当会の活動が、社会から信頼を得て産業の健全な発展を支えている姿をめざしている。

 「安全の先にある安心」の獲得をめざし、ステークホルダーとのコミュニケーションを通じて、「食料生産の重要性と農薬の役割についての情報発信活動」「農業者への安全対策活動」「消費者への広報活動や国際化活動」を重点課題として掲げている。

 さらに最先端の科学技術を駆使した新たな製品や技術を創出し、世界の食料安定供給に貢献することを目的として、ビジョン活動を展開してきた。

 ビジョンを通じてよりよい社会をつくることはSDGsに通じることから、2018年度にはSDGsへの貢献を明確に打ち出し、積極的情報発信に努め、ビジョンとSDGsとの連携を図ってきた。

 

「ビジョン」リニューアルへ検討開始

今年度事業のポイントは?

 2025年までの「ビジョン」を外部環境の変化も考慮してリニューアルし、来年5月に公表することを目途に検討を進めている。今度はいつまでと期限を定めず、ありたい姿の3つの基本方向に加え何が必要なのか、何を改善しなければならないのかを話し合い、具体的に明らかにしていきたい。

 食料安定供給に向けてスマート農業・総合防除を支援し、「みどりの食料システム戦略」については、会員各社は「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立」に資するイノベーションに創出に力を入れていく。

 ビジョンのリニューアルの検討とともに、ビジョン活動を通じてSDGsへの取組みをさらに強化し、農薬を含めた作物保護の視点からの活動に発展させる。また、支部や生産者団体、関係団体と連携し、コロナ禍による社会変化に対応したビジョン活動に取組み、安全・広報活動をより広い範囲に周知することが必要だ。

 足下の課題である農薬取締法等農薬規制に関する諸課題に対しては、再評価制度や新たなリスク評価法などへの的確な対応に努めること。安全・広報活動では、科学・情報リテラシーの向上をめざして積極的に情報発信していく。

 農薬の必要性や有用性を社会のみなさん、消費者のみなさんに分かりやすく理解してもらう情報発信のブラッシュアップも進めていくことが大事だ。食育にも取り入れ、教職者を通じて子どもたちにも分かりやすく伝えられるよう、より一層周知できる手法を活用していきたい。

 さらに、報道の正確性や中立性の確保につなげるため、報道のファクトチェックを行い、科学的根拠に基づいた正確な情報提供を行っていく。「慣行vs有機」といった対立的な構図を生まないよう正しく伝えていくことは、当会全体が取組まなければならない課題だと考える。

 さらに、スチュワードシップの推進や総合防除推進の一助としての薬剤抵抗性管理活動の推進、業界のグローバル化に呼応した活動の推進などを強化していく。

 

使い方の普及活動等に連携を

JAグループのみなさんへのメッセージを。

 実際に農薬を使用していただいている農家のみなさんに一番近いJAのみなさんとは、引続き積極的な意見交換を行っていきたい。随所でいろいろな情報をいただきながら連携して取組んでいくことが重要だ。使い方の普及活動等を含めて一緒に取組んでいきたい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 農薬業界をめぐる現状と取組方向
 JCPA農薬工業会 会長 小澤敏 氏

■JA全農 令和5年度事業のポイント
 〈耕種総合対策事業〉
 JA全農 耕種総合対策部 山田正和 部長

■JA全農 令和5年度事業のポイント
 〈耕種資材事業〉
 JA全農 耕種資材部 日比健 部長

■JA全農 令和5年度事業のポイント
 〈フードマーケット事業〉
 JA全農 フードマーケット事業部 安藤浩 部長

行友弥の食農再論「基本法見直しの『新しさ』」

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