アングル
環境調和型農業の実践へ
技術・資材を体系化し推進
JA全農
常務理事
冨田健司 氏
世界的に、環境への負荷が低く持続可能な農業への関心が高まっている。日本でも農水省が「みどりの食料システム戦略」で、2050年までに目指す姿として「農林水産業のCO2削減」等を掲げた。一方で、生産者は経済性を踏まえた上で営農を実践する必要があり、課題も多い。そこでJA全農は、経済性・社会性の両側面を踏まえ、生産者が取組みやすい環境調和型農業に資する「グリーンメニュー」を策定した。JA全農で耕種生産事業部を担当する冨田健司常務理事に、グリーンメニューの内容や方策について聞いた。
持続可能な農業めざした「グリーンメニュー」策定
国内の農業は、生産者の加速度的な減少や耕作放棄地の拡大等の課題が多く、生産基盤の維持が最重要課題になっています。
また、地球温暖化の影響により豪雨等の自然災害が頻発。安定的な食料供給に向けて、持続可能な開発目標(SDGs)を意識した農業の実現が求められています。
世界的にもSDGsや環境問題への関心が高く、持続可能な農業実践への機運が醸成されてきています。
農水省は令和3年5月に「みどりの食料システム戦略(以下、みどり戦略)」を策定しました。これを受け、JAグループでは同年11月に開催した第29回JA全国大会において、環境調和型農業の推進を決議しました。
全農では、5点の「環境調和型農業の実現に向けた対応の基本的な考え方(別掲)」にもとづき、生産・販売の両面から取組みを進めております。
国際的なサプライチェーンの混乱や円安等の影響もあり、食料安全保障への意識が高まる一方で、農業関連資材価格の急騰・高止まりにより、農家経営が圧迫されており、農業生産基盤の持続性が懸念される状況が続いています。
そこで、持続可能な農業生産の実現に向けて環境負荷を軽減し、かつトータルコストの低減等によって農業経営に貢献できる技術・資材の普及を進めるため、耕種農業における環境調和型農業に資する技術・資材を体系化した「グリーンメニュー」を策定しました(図1)。
化学肥料・化学農薬・温室効果ガスの低減目指す
グリーンメニューでは〝みどり戦略〟をふまえ、環境面では「化学肥料使用量低減」「化学農薬使用量低減」「温室効果ガス削減」の3つの視点でメニュー化し、環境負荷の低減を推進します。
これらの環境的要素に加え、物財費の削減や労力低減、生産性の向上などの「経済的要素」のほか、環境汚染や地域貢献などの「社会的要素」を考慮したメニューも組み合わせます。
総合的に実践することで、生産者とJAが経済的・社会的に持続可能なメニューとして展開します。
まずは既存技術の定着に力
農水省の〝みどり戦略〟のKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)が出た当初、目指すべき方向性に共感できても、現状からの転換を考えると乗り越えるべき障壁が多く、農業現場からは不安の声が多く聞かれました。
一方で、将来を考えれば、環境負荷低減を意識した農業に取組むことや、その機運を作り出すことは必要です。
グリーンメニューを具体的に進めるため、まずは、①土壌診断にもとづく施肥量の抑制や堆肥など国内肥料資源の活用、②IPM総合防除などによる化学農薬だけに頼らない防除、③生分解性マルチによる脱プラスチック対策など、既に各地で実践されている技術・資材の普及を定着させていき、段階的に実践を進めていきます。
モデルJAで実践、手引きを作成し全国に展開
環境負荷低減の必要性を理解いただくため、生産現場への丁寧な提案と実践・検証を進めながら、全国への普及・展開を図っていきます。
今年度は、JA段階では、令和5年6月頃までに全国に約50のモデルJAを設定して、グリーンメニューの実践・検証を実施。モデルJAでの実践事例を集めて手引きを作成し、全国のJAへ順次水平展開する予定です。
気候条件等の地域差や主な作物は異なりますが、成果を上げた内容を紹介することは、他のJAが今後活動する上でのヒントになります。
全農では、全国のJAにおけるグリーンメニューの実施状況を項目別に把握します。全国の取組み状況も可視化することにより、環境調和型農業に資する技術・資材の全国普及に弾みがつくでしょう。まずは各地域で実践してもらうことが大切です。
農業者の所得向上につながる活動に
また、販売部署とも連携しながら、量販店や生協等にグリーンメニューの説明を行っているところです。環境に配慮して作られた農産物であることを説明し、実需者のニーズに沿った農産物の生産につなげる等、生産者の所得向上につながる取組みにしていくことも必要です。
生産と消費をつなげ、「グリーンメニューで作られた農産物だから購入したい」という流れを作るためにも、いかに消費者に喜ばれる農産物を作るかという〝出口〟を見据える必要があります。
あわせて、この取組みを持続可能なものにするためにも、最終的に農業者の所得向上につなげていくことが不可欠だと考えており、いかに農産物の差別化やブランド化を行うかの検討が大切です。
他方で、ICT搭載農機やドローン等、スマート農業の導入により生産性向上と持続性を維持した新技術の開発や、食品残渣由来堆肥の活用、農研機構・企業と連携し、もみ殻などの農業副産物を活用した高機能バイオ炭の製造・施用体系の確立に向けた事業に参画するなど、新たなグリーンメニューの開発も進めています。
グリーンメニューを活用した栽培・営農体系を確立するためには、行政や試験場など、地域との協力が不可欠です。互いに連携し、地域・作物ごとに現地での実証を行って、JAの栽培暦に反映させながら、環境と調和した地域農業や地域社会の実現に取組みます。
〈本号の主な内容〉
■アングル
環境調和型農業の実践へ 技術・資材を体系化し推進
JA全農 常務理事 冨田健司 氏
■全農、クボタ、BASFが営農支援システム連携を実証
可変施肥普及へザルビオのデータでKSAS対応農機の施肥作業を制御
■JA全青協
稲村会長、前原・洒井副会長体制が発足