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日本農民新聞 2023年4月25日・5月5日合併号

2023年4月25日

アングル

 

JA全農
令和5年度計画がめざすもの

 

JA全農
代表理事専務
安田忠孝 氏

 

 JA全農は3月末の臨時総代会で、令和5年度の事業計画を決定した。令和4~6年度の中期計画を踏まえ、その中間年度に当たる今期事業計画のポイントを全農の安田忠孝専務に聞いた。


 

想定外のリスク乗り越え一定の成果

中期計画初年度の1年を振り返って。

 今期中期計画は、2030年の全農グループのめざす姿からはじめて、グループとしての方向性を示したことに最大の特長があると思っています。

 中期計画策定の時点で、今後の事業に大きく影響を及ぼすと想定したのは、第1に国内人口の減少と高齢化の進展、第2に気候変動も含めた環境問題の深刻化、第3に経済のグローバル化の進展、第4にアフターコロナで変化するであろう生活や働き方、そしてこれまでとは全く違った技術の革新、等々でした。従って、過去の延長ではなく先を見据えて計画を策定しなければならないと思っていましたが、これにロシアのウクライナ侵攻の影響など想定外のリスクが加わったのが昨年度でした。

 そのような事業環境の下、計画の実践に一定の成果を挙げることができたと思っています。

 中期計画では、①生産振興、②食農バリューチェーンの構築、③海外事業展開、④地域共生・地域活性化、⑤環境問題など社会的課題への対応、⑥JAグループ・全農グループの最適な事業体制の構築、の6つの全体戦略を掲げ、2030年までに「持続可能な農業と食の提供のために〝なくてはならない全農〟であり続ける」ことを、全農グループのめざす姿としています。

 4年度を振り返ると、まず「生産振興」では、労働力支援のための農作業請負や農福連携等の取組みが進み、33県域で延べ5万3千人がこの仕組みに触れて農外から農業に携わっています。また、スマート農業技術を活用した「Z-GIS」や「ザルビオ フィールドマネージャー」等が認知され、着実に普及が進みました。

 子実とうもろこしの実証栽培も始めました。これは輸入品を国産に変える生産振興の狙いで始めましたが、食の安全保障の観点からも、〝ギア〟が一段入った取組みになりました。

 「食農バリューチェーンの構築」では、物流の合理化面へJA域を越えた広域の集出荷施設の設置を着実に進めました。

 JAタウンの取扱高は大きく伸び、国産農畜産物の販売チャネルとして存在感が増しました。

 商品開発ではニッポンエールや農協シリーズなど、すでに300品目を超える我々のブランド商品が出ています。

 「海外事業展開」では、厳しい情勢のなかでも原料の安定調達に一定の責任を果たせたと思っていますし、輸出も198億円まで伸び、着実に成果が上がってきています。

 「地域共生・地域活性化」では、組合員家庭のエネルギー電化に向けたJAでんきは5万2千件を超えるまでに普及・拡大しましたし、最新の技術とITネットワークを活用し、地域活性化やライフライン支援・環境対策を一体的に実現する「スマートアグリコミュニティ」の実証への取組みも打ち出しました。

 「環境問題など社会的課題への対応」では、堆肥の広域利用がJAも含めてグループの取組みとして認知されるくらいまでに進みました。

 また、これからの取組みになりますが、耕種において環境調和型農業の技術や資材を体系化した「グリーンメニュー」を提案することができたのも4年度の成果でした。

 

組合員との接点再構築は喫緊の課題

5年度事業を取り巻く情勢と問題意識は?

 一番の問題は、日本の農業のポジションが上がっていないことです。生産基盤が反転しないことも、日本の農畜産物の価値が価格面で適正に評価されていないことも問題意識としてあります。

 加えて日本の経済そのものの地位が下がっていることもあり、海外原料の調達でも日本のバイイングパワーが弱まってきているのを実感します。

 そうしたポジションを踏まえながらも、必要な物はしっかり調達することをこれまで以上に考える必要があります。

 もう一点は、JAグループとくに組合員と接するJAで、経済事業に携わる人が少なくなっており、組合員との接点の再構築は喫緊の課題となっています。

 

担い手確保へ ノウハウ活かし新しい工夫を

令和5年度事業のポイントは? まず、生産振興から。

 6つの全体戦略は変わらないし、この項建ては当分変えるつもりもないし、変える必要もないと思っています。変化する事業環境に対応し、全体戦略をさらに発展させ計画を実行していきます。

 「生産振興」では、これまでも取組んできましたが、コスト低減に向けた取組みと生産性向上を、これまで以上に前面に打ち出し強化していきます。

 国内資源の活用は、ギアが変わってきたと前述しましたが、これはもう具体的な成果を出さなければならない年になると思っています。

 一方で、5年後10年後の農業に向けた投資や開発も重要です。農研機構と連携した品種開発や種子の確保に取組むことで、将来にわたり持続的に農家経営ができる環境を整えます。

 労働力確支援については、6年度までに全県での取組みを目指し、5年度は具体的な取組みの成果を見極める年だと思っています。

 全農ではライフスタイルに農的生活を1割取り入れる〝91農業〟を提唱していますが、本会職員も含めて声かけをしていきたいと思っています。

 農業の担い手は、100%農業に携わる人だけとは限りません。もう少し農業に興味をもってもらう人、関係する人達を増やしていくことも大事です。

 担い手不足の対策は、行政の地域計画と人の育成が上手く連動して初めて成果が出てくるものと思います。

 我々も労働力支援や事業承継、新規農業者育成など、様々なチャレンジを続けています。それぞれの取組みは効果があると実感していますので、これまでのノウハウを活かしながら新しい工夫をしていきたいと思います。

 

効率的輸送体制へ 各段階の取組み組合せ

「食農バリューチェーンの構築」では?

 効率的な輸送体制の構築に取り組みます。産地側のインフラ整備とともに、産地に保管貯蔵施設を設置し、実需者まで一貫したコールドチェーンで繋ぐ新たな流通スキーム「青果物プラットフォームセンター事業(PFC)」も構築していきます。

 モーダルシフトの拡大も検討しています。物流の問題はこれに取組めば全て解決するというものではなく、様々な取組みのなかで産地、消費地、品目を組合せながら一つひとつ積み上げていかなければならないと思っています。

 商品開発では、カテゴリー別にパートナーを決めて共同開発するなどして、ブランド認知の段階からブランドの価値を上げていくようにしたいと考えます。

 飲食事業については、店舗の選別は4年度でほぼ終了したことから、確実な店拡大に向かうステージに入っていきます。堅実に進めていきたいと考えています。

 

代替可能なサプライチェーン再構築

「海外事業展開」では?

 肥料や飼料原料の安定的調達をさらに強化していきます。

 輸出についても海外の実需者ニーズの把握や現地加工施設の設置による付加価値の向上などをすすめ、拡大していきます。

 また、新品種の海外流出を防止するとともに、ロイヤリティーの確保に向けた仕組みづくりを進めます。国内研究機関等と連携した国内育成者権の保有者保護と活用を目的とする「育成者権管理機関」の設立、運営に積極的に参加していきます。

 パンデミック等でサプライチェーンが分断されて思ったのは、復元力が大事だということです。何か起こった時のために必ず代替手段を持つような形で海外とのサプライチェーンをしっかり再構築して必要があります。

 

スマートアグリコミュニティの実証へ

「地域共生・地域活性化」では?

 スマートアグリコミュニティはモデル地区を設定し、実証に取組みます。

 また、ファーマーズ型Aコープ店舗の出店拡大や直売所の運営支援により、生産者が意欲的に農業に取り組める環境づくりに貢献します。

 併せて、過疎地域におけるライフライン対策として、生活物資の宅配や簡易型SSの設置などインフラ・サービスの維持・向上をすすめます。

 

「グリーンメニュー」の実践・拡大へ

「環境問題など社会的課題への対応」では?

 全農グループとしての目標を明確に出していかなければなりません。そもそも農業は環境との共生で成り立っていることから、生産サイドでの環境負荷軽減の取組みを周知することが、これまでの取組みでした。現在はこうした負荷をかけているからこのように減らしていく等々、具体的な対応を示すことにより、農業を続けていくことに対して農業者以外からの理解を得ることが求められます。

 「グリーンメニュー」は、その中の対策をいくつか組み合わせることで環境負荷の軽減や生産性向上の効果もあり、経済的にもメリットが出てきます。そうしたものを実証することで、その効果を現場で生産者に確認してもらうことができ、取組みが拡大していくと考えます。

 畜産も同様で、温室効果ガスを減らす技術だけではなく、資源循環や適正な飼養管理を合わせて飼養効率や肉質等が向上する飼い方を、畜産研究所の農場で実証に取り組んでおり、生産現場に提案できるものになりつつあります。

 

情報インフラの一体化で経営資源有効活用

「JAグループ・全農グループの最適な事業体制の構築」では?

 JA域を超えた広域の拠点整備や共通システムの開発を推進します。

 組合員との接点はあくまでもJAです。

 受発注システムや出荷精算システム等、JA毎に行えば非効率な部分を全体で共通化できるシステムづくりが我々の仕事だと思っています。そうしたJAの後方業務を支援していくことで、JAには組合員に対する生産指導等をより強化していただきたいと考えます。

 また、グループ会社の事業再編や、資金、情報インフラ等の一体的運営をすすめるとともに、グループの人材活用やガバナンスを強化します。さらにJAグループが持つ情報をデジタル技術で事業に役立てることで、農家・組合員のサービス向上に取組むとともに、将来の事業変革にも対応します。

 組合員の営農情報や購買履歴など様々な情報がありますが、現状、それらが分散していて使いにくい。それらを一つのプラットフォームに乗せることは非常に効果的だと思います。こうしたものがあるとJAの職員が減少傾向にある中で、共通の情報の置き場となり、情報作業を集める後方作業も少なくてすみ、迅速で効率的対応ができます。

 これは我々がゼロから立ち上げるのではなく、スピード感を重視して、他社が開発したものであっても使えるものは使い、早く構築していきたいと思います。

 

現場での取組み成果の実証から

5年度事業の展開に向けて。

 以上、中期計画の6つの全体戦略を基本として、変化する事業環境を踏まえた具体策の展開に取り組みます。

 それぞれの現場で取組むことで「なるほど、成果が上がった」と実感できるものが実証できてはじめて事業に繋がっていきます。今年度も地道に実践を積み上げていきたいと思います。


 

〈本号の主な内容〉

■アングル
 JA全農 令和5年度計画がめざすもの
 JA全農 代表理事専務 安田忠孝 氏

■JA全農 令和5年度事業計画を決定
 6つの全体戦略をさらに発展
 変化する事業環境に対応

■令和5年度 農業倉庫保管管理強化月間
 4月15日~6月30日 農業倉庫基金、JAグループ、JA全農
 「自主的衛生管理の実行」
 「保管米麦の品質保全とカビ防止・防虫・防鼠」
 「保管米麦の水害事故の防止」重点に

行友弥の食農再論「コンビニおにぎりから考える」

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