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日本農民新聞 2023年4月5日号

2023年4月5日

このひと

 

雑穀の現状と重要性
~国際雑穀年にあたって~

 

(一社)日本雑穀協会

会長 倉内 伸幸 氏

 

 本年2023年は国連が定めた「国際雑穀年」にあたる。ここでは、その意義と世界と日本の雑穀の現状、重要性等について、日本雑穀協会の倉内伸幸会長(日本大学教授)に聞いた。


 

三大穀物依存の食生活から改善

「国際雑穀年」の意義と背景から。

 インドが提唱し国連が2023年を国際雑穀年と宣言したことに始まる。世界の食料安全保障と飢餓をなくすことを目的として、栄養・農業・気候の課題に対応するための雑穀の役割を認識してもらうことが基本にある。雑穀の気候耐性と栄養面での利点に対する認識を深め、持続可能な生産と消費の増加を通じて、多様でバランスのとれた健康な食生活を提唱している。

 世界で最も食べられている穀物は、パン用のコムギ、ご飯用のイネ、トルティーヤやウガリなどのトウモロコシ。これらの三大穀物はそれぞれ気候条件が規定されていて、どこでも栽培できるわけではない。極めて気象災害に遭いやすい作物であるという危険性がある。三大穀物が栽培できない国や地域にも人間は生活している。また、大量に栽培し輸出している国で政治的あるいは民族的紛争が起きた場合、それらの国からの輸入に依存している多くの国は食糧難に陥ってしまう。そういった食料安全保障の観点からも三大穀物だけに依存する食生活を改善する必要がある。

 雑穀は三大穀物が栽培できない不良環境でも栽培可能な作物が多く、また近年、栄養価が高いこと、加えて機能性が高いことがわかってきた。世界中の人々が健康で豊かな生活を送るために今後、雑穀の果たすべき役割は大きい。

 

紀元前5千年頃から栽培

雑穀の定義、歴史について。

 雑穀の定義は、イネ科作物のうち、英語でmilletと名が付く作物の総称である。すなわち、ヒエ、アワ、キビ、シコクビエ、トウジンビエなど。国際雑穀年では、これら厳密な意味の雑穀に加えて、イネ科作物でマイナーな作物であるモロコシ、フォニオ、テフなども対象作物としている。

 日本の市場においては、主食として食べる精白米と、パンとして食べるパンコムギ以外のマイナーな穀物(種子を食用としてとる作物)を総称して雑穀と位置づけている。すなわち、本来の雑穀のほか、イネ科のモロコシやハトムギ、オオムギやエンバク、タデ科のソバ、ヒユ科のアマランサスやキノア、マメ科のダイズなどを含む。

 雑穀の歴史は古く、多くの雑穀は中央アジアやアフリカで紀元前5千年頃から栽培が始まったと考えられている。日本ではイネが大陸から導入される以前の縄文時代の後半、少なくとも紀元前2000年以前から栽培・利用されていたという考古学的証拠がみつかっている。狩猟採集時代から農業が始まった最初は雑穀が栽培されはじめ、以後イネが導入されてからもイネが栽培できない、あるいは栽培が困難な地域では、昭和の前半まで雑穀が主食として栽培されてきたという歴史がある。

 

気象条件が厳しい地域に

世界の雑穀の現状は。

 世界で生産される雑穀は3000万t。そのうち41%が、乾燥地域が多いインド、2番目はサハラ砂漠にほとんどが覆われている西アフリカのニジェールで、環境が劣悪な国が多い。生産国の多くは、インドや中国の一部を除いて、三大穀物がほとんど栽培できないほど気象条件が厳しい国々だ。

 例えばニジェールでは、栽培されている穀物の99%がトウジンビエ、モロコシ(ソルガム)の雑穀である。トウモロコシやイネはニジェール川流域のほんの一部でしか栽培できない。雑穀がなければ食べる穀物がなく、生存できないわけだが、ほとんど雑穀からしか栄養を摂取していなくても元気な方が大勢いる。

 

JAいわて花巻が大規模加工施設

日本の雑穀の生産と加工・消費の現状と課題は。

 昭和40年代に農業センサスで雑穀の統計がとられなくなり正確な生産量はわからないが、自家消費用にわずかに栽培されるだけになっていた。20年ほど前から食の多様化と健康ブームに雑穀が注目され、雑穀の商品も増えたことから、各地で雑穀の商業生産が復活してきた。

 雑穀の生産振興に力を入れている岩手県は、モロコシ、アマランサス、ヒエなどの生産量は全国トップクラスである。従来の小規模生産から機械化を進めて大量生産している。また、北海道もキビやキノアなどの大規模機械化栽培を行っている。

 加工については、商業用に出荷するためには雑穀専用の脱穀機、乾燥機、搗精機、色彩選別機などが必要で、これらの機械の導入がネックとなって生産振興に踏み切れない地域が多いことが課題だ。その点、岩手県は、JAいわて花巻がプロ農夢花巻という子会社を作り、大規模加工施設をいち早く立ち上げたことにより、メーカーが要求する大量のロットに対応できている。

 消費側の視点では、テレビや雑誌などで特定の雑穀が取り上げられると購入が殺到する事態となり、メーカー在庫が枯渇する問題がある。マスコミに左右されて特定の雑穀の栽培面積を増やし生産量を増やしても、ブームが去ると余剰在庫が増え売れなくなるという悪循環が生じる。

 まとめると、生産者側からは機械化コストの問題と安定した買い取り保証がないことが最大の問題。メーカー側は国内産雑穀だけにこだわる場合は、供給先を確保する課題があげられる。

 多くの雑穀にはコメと同様モチ・ウルチ性品種がある。世界で栽培されているほとんどはウルチ性である。一方、日本の雑穀はモチ性品種が多く特異的。この特性を活かした商品作りが日本の雑穀の利点と言える。

 

研究で栄養価が高くカラダに良いと

雑穀の栄養や機能性については。

 先進国では、主食食糧は量より質の時代に変化してきた。腹を満たすだけでなく、健康で長生きするための食糧が求められるようになった。そこで絶滅寸前まで追いやられた雑穀に再び注目が集まりだした。よくよく調べてみると、雑穀は精白米に比べて栄養価が高くカラダに良いことがわかってきた。食物繊維、鉄分、ビタミンどれをとっても精白米の何倍もの量を含んでいる。

 さらに、最近の研究では、機能性についても研究データが増えて世界的に高い評価が認められてきている。ハトムギを摂取し続けると肌の代謝を促進し皮膚の改善に良いとか、モチオオムギを摂取すると食後血糖値の上昇が抑制されるなど数多くの研究が評価されている。

 このことから、近年ではもち麦ブームからグラノーラやシリアルバーなど多くの商品が開発され、外食や中食でもメニューに取り入れられるようになっている。

 

表彰制度で健全な雑穀市場を

日本雑穀協会の取り組みは。

 日本雑穀協会では、健全な雑穀の市場形成をすすめるために2011年から、日本雑穀アワード表彰制度を続けており、厳格な審査により、よりよい商品が市場に展開するバックアップをしている。メーカーの企業努力を公正に審査し価値を評価することと、消費者に優良な商品であることを伝えることができている。

 また、2004年の設立当初から雑穀の資格制度を続けており、正しい雑穀の知識を持った人材の育成をしている。消費者だけでなく、雑穀を提供する商品開発者、企業、管理栄養士、調理師などが多方面で活躍している。

 この国際雑穀年を契機に世界、特にインドでは大いに盛り上がっており、日本においても、雑穀の役割を業界だけでなく広く消費者・生産者に知っていただきたいと思っている。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 雑穀の現状と重要性~国際雑穀年にあたって~
 (一社)日本雑穀協会 会長 倉内伸幸 氏

■基本法検証部会で農水省が農業施策の方向提示
 個人経営の経営発展の支援等

■JAグループ全国機関が新規採用職員研修会
 中家全中会長が「国消国産の意義」等を訴え

蔦谷栄一の異見私見「みどり法で欠落した『自然循環機能』」

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