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日本農民新聞 2023年3月25日号

2023年3月25日

このひと

 

いま、なぜ輸出なのか
~農林水産物・食品の輸出促進の意義~

 

 

農林水産省
輸出・国際局長
水野政義 氏

 

 激変する国際情勢から食料安全保障の強化が重要な課題となっているなか、政府は、農林水産物・食品の輸出に力を入れている。改めて輸出促進の意義を、農林水産省の水野政義輸出・国際局長に聞いた。


 

農業者の所得向上のためにも

なぜ、農林水産物・食品の輸出なのか?

 人口減少等で国内市場が縮小していく一方で、アジアほか世界の食市場は大きく拡大しており、この世界の需要を取り込んで輸出を拡大していくことが、日本農業の生産維持・拡大に重要である。

 同じ農産物でも日本市場より海外の方が高く売れる物もあるので、農業者の所得を上げる意味でも海外市場を取りに行くことは意義がある。また、需給変動による価格変動についても、海外にもう一つの需要先を持つことで、価格が下支えされるという効果も出てくると考えられる。

 輸出は、これまでは生産者が国内向けに販売したものを輸出業者が卸売市場で購入してそのまま海外に運ぶことが多かった。生産者はあまり輸出を意識せずに生産してきたということであり、検疫や残留農薬規制も考えれば、日本で普通に生産した農産物のうち輸出できるのは限定的であった。今後はこれを輸出市場の規制も見据えた生産方法に変えていく、そんな輸出産地を育てていきたい。そうすれば、輸出による所得や価格のメリットが農業者に実感されるであろうし、規制の多い国にも輸出先を更に拡大し、成長市場を取り込んでいけるようになるだろう。

 

2025年に2兆円、30年に5兆円の目標

改めて、輸出の現状、目標と基本方針を。

 2022年の農林水産物・食品の輸出額実績は、1兆4148億円と過去最高を記録した。輸出先では、中国、香港、アメリカ、台湾が多い。最近の品目の伸びでみると、水産物は中国・アメリカ、アルコール飲料は中国、青果物は香港・台湾、牛乳・乳製品はベトナム向けが大きくなっている。

 輸出額の目標は、2025年に2兆円、30年に5兆円を掲げている。官民一体となった海外での販売力強化、マーケットインの発想で輸出にチャレンジする農林水産事業者の後押し、省庁の垣根を超えた政府一体となった輸出障害の克服、を輸出実行戦略の柱に据えている。具体的に重要品目を定め、輸出先国別の輸出目標金額を設定して進めている。

 現状では輸出しやすい所に輸出先が偏りがちだが、輸出先の市場はまだまだ広げられるだろう。輸出距離が長くなると鮮度保持等で難しい面もあるが、手法を改善しながら北米やヨーロッパ、さらには中東や南米までを視野におきながら、成長市場を上手く取り込む形で広げていきたい。

 

戦略的輸出へ品目団体やプラットフォーム

輸出促進の課題とポイントは?

 オールジャパンで進めていくことが必要だ。各産地がバラバラで取組むと産地間競争になりがちで、販売先市場での値引競争になりかねない。その対策として昨年、輸出促進法を改正し新しく輸出促進の品目団体をつくった。品目団体がリーダーシップをとり、産地間の連携・調整のもと、より戦略的な輸出を進めていくことが大事だ。

 余ったものを輸出するプロダクトアウト的な意識ではなく、消費者が求める物を生産し出していくマーケットインの輸出が大事になる。そこで、現地でのプロモーションをより強く進めるために、昨年から輸出支援プラットフォームを立ち上げ、現地発の情報強化や体制整備を進めている。品目団体は、昨年末時点で15品目7団体を認定。プラットフォームは東南アジアをはじめ北米、ヨーロッパなど6地域に設置している。

 特にプラットフォームでは、自治体ごとの取組みを調整する役割も果たせないかと考えている。各自治体は非常に熱心に輸出に取組んでいるが、それぞれが入れ替わり立ち代わり輸出イベントを行なっているような状況で、それが現地の商流構築に繋がっていないという懸念もある。そこで、このプラットフォームを使い、今年から都道府県輸出支援プラットフォーム連携フォーラムを始めている。現地のJETROや大使館などがプロモーションし、自治体はより効果的なプレゼンの方法を検討する。例えば、JETROが展示販売スペースを提供し自治体は当日のイベントに注力する。日程調整をしながら、それぞれの自治体の現地での活動をコーディネート、アドバイスする取組みを始めている。この1月には関心のある都道府県とそれぞれのプラットフォームの職員が対面で相談会を実施した。

 また、単品で販売するよりは、日本の食文化とセットで農林水産物や食品を売り込んでいくことが効果的だ。プラットフォームで現地発のイベントが組み立てやすくなったので、例えばレストランで日本食と組み合わせた食文化全体をセットでPRしていくような取組みも進めていきたい。海外での消費者向けプロモーションを担当するJFOODOも、品目横断的な食文化の宣伝を取り入れてきている。

 

食料安全保障の観点でも輸出拡大を

基本法の見直しが進められる中での位置づけは?

 現行基本法ができてからの20年の環境変化を踏まえて見直しが進められている。20年前、輸出・海外市場への取組みはほとんど意識されなかったので、今度の基本法の見直しでは大きな柱になると思う。

 見直しの狙いの一つに食料安全保障の強化があるが、ここに輸出の果たす役割は大きい。海外市場を取り込むことにより、日本の農業生産を維持・拡大していくことが重要だ。輸出市場を狙った新規就農者や輸出向けに耕作放棄地の活用など、これまでとは違う新しい生産拡大への取組みが全国に出てきている。そうしたものを集中的に支援していきたいし、そのことが日本農業の生産基盤強化につながっていく。食料安全保障強化という基本法見直しの大きな柱として、輸出の拡大を進めていきたい。

 

輸出に向け生産・流通方法の転換を

全国の生産者に。

 農業生産者をはじめ自治体や農協組織の方々には、ぜひとも輸出に向けた生産の転換に取組んでいただきたい。私どもでは今年度からフラッグシップ輸出産地形成プロジェクトに取組んでいる。地域として輸出向けに、例えば防除方法の転換や地元業者と連携した混載出荷など、生産・流通方法を切り替える地域の取組みを応援している。現在、全国で10か所ほどの地域選定を進めている。この取組みを来年度も強化していくつもりなので、ぜひとも積極的に活用して輸出産地の育成を進めていただきたい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと いま、なぜ輸出なのか
      ~農林水産物・食品の輸出促進の意義~
 農林水産省 輸出・国際局長 水野政義 氏

■第14回 JA戦略型中核人材育成研修 全国研究発表会
 JA全中が開催
 〝自律創造型〟のJA職員へ
 「育成研修」修了者25名が発表

■労働力支援 全農兵庫の取組み
 目的や課題を明確化、柔軟に多様な手法を用意

■令和4年度 JA共済総研セミナー
 協同組合による地域貢献
 JAの生活支援の活動から考える地域づくり

■水稲用除草剤の上手な使い方
 (公財)日本植物調節剤研究協会 北海道研究センター
 主任研究員 半田浩二 氏

行友弥の食農再論「寝た子を起こす」

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