日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2022年9月25日号

2022年9月25日

アングル

 

農協を取り巻く課題と対応方向

 

農林水産省 経営局
協同組織課長

姫野崇範 氏

 

 

 JAグループは昨年10月の第29回JA全国大会で「持続可能な農業・地域共生の未来づくり~不断の自己改革によるさらなる進化」を決議し、農協改革の実践を深めている。管轄する農林水産省経営局協同組織課の姫野崇範課長に、情勢・課題をどう捉え、今度どう対応していくかについて聞いた。


 

農業者が農業で発展できる環境づくりを

農業を取り巻く情勢と課題をどのように捉えているか。

 昨今の世界と日本の人口の動きの違いを意識して、政策を進めなければならないと思っている。国内の人口は、2050年までには高齢化を伴いながら20%程度減少すると見通されマーケットは縮む。一方で、人口が3割程度増えると予測される世界の市場を、輸出やインバウンド等で獲得していくことが、市場変化に伴う政策の方向だ。

 気象変化の要因も大きい。この100年で温暖化が進み災害が激甚化しているなかでの農業のあり方を考えなければならない。農水省としても「みどりの食料システム戦略」を策定し、農林水産業のグリーン化を進めている。こうした時に、2月からロシアによるウクライナへの侵略で、世界的に穀物価格が上がり、原油や肥料を始めとした資材価格も高騰している。

 今の政策の基盤は農業を持続的に発展させ食料を安定的に確保することにある。その中での喫緊の課題として物価高騰対策に政府全体で取組んでいるが、中長期的には食料安全保障の強化が大きな課題となってくる。それには、備蓄や生産基盤の強化、友好国からの輸入の確保などの対策がセットになってくる。こうした状況を踏まえ、農水省としても現行基本法も含めて政策の見直しの議論が始められている。

 6年ほど前に兵庫県庁に出向し、3年間県下41市町を訪れる機会に恵まれた。その時、農業で地域が活性化している所にはリーダーとなる農業者がいることを実感した。農協は地域経済の中心となっている。そうした個々の農業者をいかにサポートするかに農協の役割がある。大事なのは行政も系統組織も、農業者が農業で発展できるような環境をつくっていくことだ。

 

正准双方の組合員との対話を深めることが農協改革の基本

農協の組合員の現状と課題をどうみているか。

 正組合員数と准組合員数は平成21年に逆転し、今は総組合員数自体が減少傾向にある。2030年には65歳以下の正組合員が4分の1になると全中は推定している。正准双方の組合員との対話を深めていくことが農協改革の取組みの一番の基本になる。

 法人の組合員数は、平成28年の約2万法人から令和2年度には約2万5千法人にまで伸びている。地域の中心となる農業経営が地域を活性化させていると言ったが、法人の組合員を積極的に取り込んでいくことは、地域農業発展の上でも有効な手段だ。

 農協役員に占める若手組合員の数は少ない。兵庫県のある農協では、40歳前後の農業者が地区の若手グループの代表として理事に複数参画し、農協改革に継続的に意見を反映していこうとしている。

 女性の組合員や役員も少しずつ増えている。国の男女共同参画の取組みでは、令和7年度までに女性役員のいない農協をゼロとし、全体に占める割合を15%にする目標が掲げられている。女性が役員になることにより、イベントが盛んになり地域住民との対話が多くなったとの評価も聞かれ、組合の事業に好影響を及ぼしている。

 とはいえ、役員になってもらうためのステップ、計画的な育成が必要だ。まずは、参与として農協経営に理解を深めてもらってから役員にするパターンや、員外監事での参画など、就農・女性課と一緒に女性活躍の場づくりに取組んでいきたい。

 

経済事業の黒字化をめざすことがますます重要に

農協の経営基盤を取り巻く課題への認識は?

 農協が、信用・共済事業の利益で経済事業の赤字を補填している状況はあまりかわっていない。信用事業自体、ゼロ金利の時代で預金・貸出両面で環境が悪化し、農林中金からの農協への還元率も下がるなど、非常に厳しい時代に入っている。したがって、経済事業そのものの黒字化をめざすことがますます重要になる。

 農水省の調査事例では、普及センター等と共同し、施設野菜に取組む新規就農者の確保に力を入れ、毎年新規就農者を増やし売上げに結びつけている農協や、資材センターを集約し受発注を効率化し、在庫や要員を削減し生産コスト低減に貢献している農協など、黒字化に向けた様々な農協の動きがみられる。

 こうした事例を参考に、黒字化への取組みを深めてもらうことを進めていきたい。
 都市農業の振興にもここ10年ほどで新しい仕組みができ、都市部の農協においても農業問題に注力できる環境にある。農業を軸に持ちながら地域住民や農家と繋がっていくことが農協らしさではないか。

 

農協経営の健全性は農業者の所得向上への取組みが前提

農協改革への要望と対応方向は?

 農協は、農業者が自分たちのために創った協同組織で、助け合ってメリットを受ける組織であることが設立時からの理念であり、今後も変わらないだろう。行政は、組合のなかで目指すべき方向をよく議論することを前提として、コミュニケーションをとっていかなければならない。

 昨年6月に閣議決定された規制改革実施計画では、農協自己改革実践のため、「自己改革実践サイクル」が構築され、これを前提として農水省や都道府県が監督・指導する仕組みを構築する必要があるとしている。

 自己改革実践サイクルの現段階は、組合員の意見を踏まえて方針を策定するフェーズにある。農協改革では、自己改革の実践、中長期の収支シミュレーション、准組合員の意思反映と利用のこの3つの方針等を全組合でつくってもらうことにしているが、この自己改革の実践のなかで農業者の所得向上のための取組みを考えていくことが盛り込まれている。所得向上計画を考え実施しPDCAサイクルにのせ、チェックし改善策を組合員とともに講じていく。

 その農業者の所得向上につながる取組みの実践を前提として、農協経営の健全性があり、そのために各事業の収支のシミュレーションが必要になる。所得向上が可能になるように経済事業を見直し、それを支える各事業の見通しをもつ。ちょうど今、そうした課題を投げかけ方針をつくってもらっているところで、具体的な取組みも始まっているだろう。それを確認していくことが今後の我々の大事な取組みとなる。

 

課題を明確にし農協組織の自己改革を後押し

改めて、農協の使命と役割に対する期待を。

 農協の原点は、農業者がつくる農業者のための組織であることを、農協改革の議論のなかで確認したと思う。農業者のためにというときに農業所得向上にフォーカスが当たり、その取組みが問われている。そこを後押ししていくことが大事だ。

 それぞれの農家が頑張っている地域農業の発展を、農協はいかにサポートしていくか。農協は地域を支えるインフラ機能も持っている。農業を太い柱としながら、経済事業を中心に、信用・共済事業や生活関連事業もできる地域を支えていけるインフラの維持を目指していく必要がある。

 農協系統組織は、農業所得の増大、農業生産の拡大、地域の活性化を目指すべき方向として掲げている。農業所得をあげることは非常に難しいが、課題を明確にし、農協組織の自己改革を後押ししていきたい。


 

〈本号の主な内容〉

■第7回オーガニックライフスタイルEXPO2022開く
 オープニングセッションで横山紳農林水産事務次官が講演

■アングル 農協を取り巻く課題と対応方向
 農林水産省 経営局 協同組織課長 姫野崇範 氏

■持続可能な農業・地域共生の未来づくりへ
 さらなる進化めざす わがJAの取組み(集中連載第1回)
 〇JAたじま(兵庫県) 代表理事組合長 太田垣哲男 氏
 〇JA上伊那(長野県) 代表理事組合長 西村篝 氏
 〇JA庄内たがわ(山形県) 代表理事組合長 太田政士 氏
 〇JAこまち(秋田県) 代表理事組合長 遠田武 氏
 〇JAそお鹿児島(鹿児島県) 代表理事組合長 竹内和久 氏

■JAグループにおける情報システム・IT活用の取組み
 〈JA全農・経済事業〉JA全農 IT推進部 小畑俊哉 部長
 〈共済事業〉JA共済連 DI部 宮臺俊彦 部長
 〈JAバンク・農林中金〉農林中央金庫 IT統括部 井野真吾 部長

■令和4年度 教育文化・家の光プランナー専修講座
 家の光協会がウェブ配信

行友弥の食農再論「禍を転じざれば…」

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