このひと
農業経営体の確保・育成への課題
農林水産省
経営局長
村井正親 氏
持続的な農業の維持・発展へ、わが国における農業経営体の確保・育成は喫緊の課題となっている。7月、農林水産省経営局長に就任した村井正親氏に、その現状と課題、これからの政策方向などを聞いた。
農地を担い手にしっかり使ってもらうことを土台に
■昨今の課題認識から。
世界全体に不透明感が増している状況下で、食料の安定的な供給に改めて国民の関心が高まっている。
当然、農水省はこれに応えていく使命がある。経営局は人、農地といった農業の生産基盤を支えることを使命としており、担い手経営体の確保・育成の重要性を再認識して取り組んでいかなければならない。
今年の通常国会で「農業経営基盤強化促進法」が改正された。これまで取り組んできた人・農地プランを目標地図を含む地域計画として策定してもらい、地域一体となって、その実現に向けて取り組むことにより、各地域で農地を担い手にしっかり使ってもらうことが、食料生産の一番の土台となると考える。
一方で、農地中間管理事業の創設などにより、担い手への農地集積率は年々高まっているもののペースは落ちており、成長戦略の中で当初に設定した目標達成にはなかなか厳しい状況であるのは事実。
農地中間管理事業等、これまでの取組みを今一度検証した上で、新しい制度の推進にも活かしていかなければならない。
こうした経営局の政策が、現状の農業の様々な課題解決に結びついていくことが大事だ。
例えば、水田農業の将来をどのように描いていくかは、経営体がしっかりしていないと思うようにいかない。
また、輸出をさらに伸ばしていくためには、輸出を含めた経営戦略を描ける経営体を育成していかなければならない。
そうした向かうべき方向を各部局で共有しながら、それぞれの政策を進めていくことが重要だと考える。
農業法人数は順調に増えて生産シェアも年々増えている。
これからの生産を支える担い手像を考える場合、法人がキーになってくる。特に、土地利用型農業での規模拡大は法人経営体を中心にしていかないと難しい。
今後も重要な取組みとして法人の育成に力を入れていきたい。
農村・都市部の各々の地域特性に応じた役割発揮
■農協改革の現状と課題は?
農協系統の自己改革の取組みは一定の成果を出していると評価している。さらなる自己改革の実践を注視しながら指導監督していきたい。
改革の出発点は、農協は農業者の協同組合であるということ。農業経営発展のための役割をもう一度再確認し、今後の事業展開を考えてもらいたい。農協の原点を今一度確認して今後の自己改革の進め方を考え取組んで欲しい。
農業はそれぞれの地域によって特色があり、それに合わせた事業展開が必要になってくる。
各地域の組合員の経営を伸ばしていくことを第一に、様々な工夫が必要だ。
農協はほぼ日本全域をカバーしている。農業が基幹産業の地域もあれば都市化された地域もある。
非農業者の住人も増えるなかでは、地域全体を支える存在として、地域マネジメントの一翼を担う組織としての役割も必要だろう。
都市農協では、消費者や准組合員に対する農業への理解醸成も、大きな役割となってくる。
各々の地域特性に応じた役割発揮の方向を考えてほしい。
組合員の農業を支える事業のあり方の追求を
■農協における信用事業のあり方は?
金融事業環境は一段と厳しさを増している。低金利が続くなかウクライナ情勢もあってマーケットは非常に不透明となっている。この難局を乗り切っていくためには、先々を見通しながら運営のあり方を考えていかなければならない。
農協の信用事業は正組合員の農業経営に必要な資金を供給することが基本であり、組合員の農業を支える事業のあり方を考えていかなければならない。そのためにも、コンプライアンス等を守りながら、健全な形での事業運営にさらに力を入れていただきたい。農林中金、信連、農協が、それぞれの役割を確認しながら取り組んでいくことが重要だと考える。
より使い勝手のよいセーフティネットへ
■収入保険制度のこれからは?
平成31年1月から最初の保険期間がスタートしたが、加入者数は年々2万経営体前後増えており、このペースでいくと、令和6年に12万経営体の目標はほぼ達成するのではないかとみている。
近年、災害の多発やコロナで大きな影響を被っている経営体が多いなかで、制度のよさにも着目されて加入が増えているのではないか。
さらに増やしていかなければならないが、これまでの取組みのなかで加入者から寄せられているご意見等も踏まえながら、今後に向けて見直すべき点なども考え、セーフティネットとしてより使い勝手のよいものにしていきたい。
農外の経験を活かし新しい要素取り込んだ農業へ
■新規就農への支援は?
農業という職業に対するイメージもだいぶ変わりつつある。農外からも将来に期待が持てる優秀な若者が参入してくるようになってきた。
農家の子弟を含め能力にあふれた若い人をできるだけ農業の世界に引き込んでいくことに引き続き力を入れていきたい。
これから農業経営は、スマート農業やみどりの食料システム戦略などの新しい要素を取り込んだ展開が重要になってくる。
その意味でも、他分野の経験をもつ幅広い方々に活躍して欲しいし、すでに農業に取り組まれている皆さんは、そうした点での能力アップがこれからの課題になってくると思う。
力点の変化や新たなテーマも取り込んで
■基本法の見直し・検証に対して。
食料の安定供給の確保、多面的機能の十分な発揮、農業の持続的な発展、農村の振興。この4つの理念を踏まえ具体的な施策を着実に進めていくことが基本。経営局としては経営基盤強化促進法を中心とした施策体系を構築してきたが、基本法の出発点である効率的かつ安定的な経営体による農業構造の確立に向かい、結果を出していかなければならない。
基本法の見直しは、昨今の情勢を踏まえ食料安全保障が主題になってくると認識している。今の基本法は、例えば不測の事態として食料輸入が困難になった場合の発想は取り込まれているが、今回のような農業資材等の状況を想定した議論は薄かった。
一方で、平時の備えのための国内生産の増大には、経営体の育成など具体的な成果を着実に挙げていくことが必要だ。
今の基本法が制定されて20年余。例えば輸出の促進など力点のおき方が違ってきている政策分野もある。カーボンニュートラルやみどり戦略のような発想も議論も当時はなかった。時の経過のなかで、力点が変わり新たなテーマがでてきている。それらを取り込んで、食料安全保障にきちんと応えられるような政策体系にしていく。そうした視点で検証していくことが必要になると思う。
〈本号の主な内容〉
■このひと 農業経営体の確保・育成への課題
農林水産省 経営局長 村井正親 氏
■家の光文化賞JAトップフォーラム 2022
家の光文化賞農協懇話会、家の光協会が8月4・5日開催
■平成4年度 JA経営ビジョンセミナー
「激変する時代のJAビジョンの創造を問う」
JA全中が全5回開催
第1セッション「協同組合観とJAの組織・事業の未来」
■新トップに聞く
日本農薬㈱ 代表取締役社長 岩田浩幸 氏