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〈蔦谷栄一の異見私見〉水田は国の基、都市農地は国の宝

2022年9月5日

 農林水産大臣に農政通で現場に精通した野村参議院議員が就任したことも手伝ってか、食料安全保障をめぐる議論はよりにぎやかさを増しつつあるようにも感じられる。

 野村農相は新聞社インタビューで、食料価格の高騰にともない、「食の基本になる麦や大豆、こういったものが(国産は)非常に不足している」と述べ、麦・大豆増産に政策を集中していくことを強調している。今回は、これはこれで必要であり、重要な対応であると受け止めていることを前提にしての話である。

 8月18日の農政ジャーナリストの会で、福島大学の生源寺眞一食農学類長が語っていたが、日本では「フードセキュリティ」を「食料安全保障」と訳して両者が同意語として使われているが、本来、食料安全保障はフードセキュリティの一部を占める限定的な概念にとどまる。すなわちフードセキュリティは1996年の世界食料サミットで合意され、その後、一部追加され、「すべての人々がいかなる時にも、活動的で健康な生活に必要な食生活のニーズと嗜好を満たすため、十分で、安全で、栄養のある食料が物理的・社会的・経済的に入手可能なときに確保される」ものとして、定義づけられているという。国際的には、フードセキュリティは貧困問題等も含めた広い概念として使われており、不測の緊急事態に対応する食料安全保障については限定的に議論されているものと類推される。

 ここで強調しておきたいのは、限定的な意味での食料安全保障を確立していくことと、包括的概念としてのフードセキュリティとの整合性を持っての議論の必要性である。まず、限定的な意味での食料安全保障、例えばシーレーンが破壊され、食料の輸入が途絶した事態、あるいは国内が戦場と化した際に必須とされるのは、自然・風土に対応して持続的であり、栄養価も高く保存性にも優れた米の確保が最優先であり、このための水田の維持・確保である。これを軸にしたうえで包括的概念としてのフードセキュリティのあり方、中身を整理し、整合性のとれた政策を講じていくことが必要なのではないか。もっと言えば、〝食料安全保障〟について議論されながら、水田農業の重要性や日本型食生活をはじめとする食のあり方についての議論が欠落したままでの〝食料安全保障〟論議では不十分。単に現状、価格が高騰している麦大豆増産に政策を集中すればいい、ということではないのではなかろうか。

 これに関連して述べておきたいのが、都市農地の保全である。不測の事態には農産物の輸送もままならず、身近なところでの調達を余儀なくされることは必至である。こうした時に都市農地を利用できるよう確保しておくことが重要である。目下、生産緑地制度でかろうじて都市農地は守られてはいる。生産緑地指定から30年が経過し、指定解除が懸念された2022年問題は10年の延長が可能となり、また都市農地の賃貸も可能にはなったものの、このままでは永続的に生産緑地を維持していくことは困難である。都市農地を永続的に維持可能にしていく方策を協議し、対策を講じていくことも食料安全保障の大課題だ。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2022年9月5日号掲載

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