日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2022年7月25日号

2022年7月25日

このひと

 

今後の農政の取組み方向

 

農林水産事務次官

横山紳 氏

 

 

 この6月、農林水産事務次官に横山紳氏が就任した。脱炭素化が世界的命題となる一方で、コロナ禍に見舞われウクライナ危機まで勃発するなど世界中で社会・経済活動に多大な影響が及んでいる厳しい環境下、農政の舵取りをどう進めていくのか、国際畑での経験も豊富な新次官に方向を聞いた。


 

食料安全保障上のリスクふまえた取組みを

就任にあたって。

 長期化するコロナ禍が世界中に及ぼしている影響は大きく、関連して昨年から顕著になってきた物価上昇の中、穀物価格は上がり肥料原料の調達価格も上がってきていた。さらには今年2月からのウクライナ危機によって、各国の食料安全保障が脅かされる状況になっている。日本ではこれに加え、記録的な円安状態が続き、非常に厳しい経済状況となっている。

 こうした中、農業者の方々は大変ご苦労されていると思う。我々としてはまず、セーフティネットがある部分についてはしっかり対応し、ない部分については新たに整備すべく、現在価格が高騰している肥料について作業を詰めているところだ。

 この厳しい情勢下、どうすれば日本の農業が、将来にわたって持続的に行われていくことができるかが、今問われている。

 農業に必要な要素を考えると、まずは「人」が大事。基幹的農業従事者の平均年齢は2020年の農林業センサスで67・8歳だった。半数は70代以上であり、数の面では減っていかざるを得ない。

 同様に「農地」についても、荒廃農地の面積が令和2年で28・2万ha、うち再生利用可能が9万haという現実がある。

 「人」が必ず減っていくのであれば、その分を補えるよう、新しいテクノロジーを活用したスマート農業の取組み等を、しっかり進めていかなくてはならない。

 また農地では、改正農業経営基盤強化促進法によって、人・農地プランを市町村の地域計画として策定・実施することとなる。3年程度の作成期間があるが、極めて重要で大変な取組みとなる。我々としても、自治体、農業委員会、農地バンク等と力を合わせていきたい。

 こうした構造的な問題に加え、コロナ禍とウクライナ危機を通じて、日本の食料生産は輸入物資で支えられている部分が大きいことが、あらためて広く認識されたのではないか。

 輸入割合が高いものはまず飼料だが、この点はある程度広く認識されていたと思う。

 一方、肥料については、原料は日本では採れず輸入に頼っているものがほとんどという認識は低かったのではないか。

 こうした中、農林水産省では6月に「食料の安定供給に関するリスク検証(2022)」を公表した。食料の安定供給に影響を及ぼす可能性のある様々なリスクを洗い出し、包括的な検証を行ったものだ。

 こうした取組みを通じて、将来に向けて食料の安定供給を確保していくために何が必要なのかを、検討しなければいけない時期に来ている。

 「食料・農業・農村基本法」が成立した1999年から現在までに情勢は大きく変化してきた。日本の農業の持続的な将来展望を描く上でどう考えていけばいいか、まずは現行基本法に基づく施策の検証をしっかり行っていく。

 

持続的な新たな農業生産体系へ

持続可能な食料システムの構築に向けた「みどり戦略」について。

 気候変動による農林漁業への影響が拡大する中で、農林水産省では昨年5月、「みどりの食料システム戦略」を策定。また、今年4月には「みどりの食料システム法」が成立、7月に施行した。

 化学肥料や農薬の使用は、収量を増やすためには必要だが、将来にわたって安定的に農業生産を維持していくためには、環境に対する負荷は下げなければいけない。化学肥料や農薬の使用量は削減していかなければいけないし、燃油の使用についても当然、抑えていかなければいけないことになる。

 しかもこれは、日本だけの問題ではない。日本の科学技術をフル活用して、他のアジアの国々にも使ってもらえるような、新たな農業生産体系のようなものができることが理想ではないか。

国内にあるものを循環させながら生産を

食料安全保障についての考え方は。

 食料安全保障を確保する上での基本には、国内の農業生産の増大、輸入穀物等の安定供給の確保、備蓄の推進の3つがある。まずは引き続き着実に取り組んでいくことが肝要となる。

 食料安全保障を考える際、国内で全部生産できればいいという議論があるが、農地面積が有限であることをふまえると、自給率100%は考えられないと思う。これを前提に、現在ある農地をしっかり使うことが重要だ。

 大豆など、需要はあるのに国内でまかなえていない品目はある。野菜についても、加工・業務用は輸入野菜が多く使われているので、そうした市場をもう一回取り戻す取組みも必要だろう。

 地域特性や需要に応じて作付けを工夫することはもちろん、耕畜連携もますます重要になる。家畜糞尿から堆肥を作り農地で活用する、逆に稲わらを飼料に生かすというように、まずは国内にあるものをしっかり循環させながら国内で生産していくことが重要だろう。

 一定の所得確保が必要となるが、マーケットで適正な評価を受け、その結果、農家の所得が上がっていく、そしてきちんと所得があがるから次の世代も入ってくるという姿を理想形としていきたいと思う。

水田農業については?

 水田は非常に優れた生産装置であり、日本の原風景のような価値も有している。そういう意味では、次の世代に引き継いでいかなければいけない大切なものだ。

 他方、需要が毎年10万t近く減っているという現実があり、畑地化を含め、需要に応じた生産をしてもらわなければならないことも事実だ。

 まず、米消費拡大の努力はたゆまず続けることが重要。その上で、少しでも拡大できるマーケットはどこにあるか、常によく見ながら需要に応じた生産を行っていくことが重要だと思う。輸出をめざすことや、最近では米粉としての需要開拓も進んでいる。

 

地域で好循環をもたらす取組みを

農協についての現状認識、期待は?

 経営局長としての経験からも、農協が農家組合員にとって一番身近な存在であり、営農面でも生活面でも、困った時にはまず相談する方が多いと理解している。引き続き、組合員のための農協として取り組んでいただきたい。

 地域に応じた産地をつくり、そこで収益があがる、だから若い人も来るというような、好循環をもたらす取組みを期待したい。

 我々と意見が異なることもあるかもしれないが、むしろそれが健全な関係かもしれない。目標は、農家がきちんと農業で所得をあげて、地域で安定して暮らしていけること、という点で共通しているはずだ。うまく協調、連携して取り組んでいければと思う。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 今後の農政の取組み方向
 農林水産事務次官 横山紳 氏

■JA共済優績ライフアドバイザー全国表彰式開く
 令和3年度優績LA384名を表彰

■JA全農 中期計画 のポイント
 〇施設農住事業
  JA全農 施設農住部 根倉修 部長

■全国農協カントリーエレベーター協議会が総代会
 麦のカントリーエレベーター品質事故・火災防止強化月間を展開中

■第100回 国際協同組合デー記念中央集会
 「協同組合は よりよい社会を築きます」スローガンに

行友弥の食農再論「無駄やムラにも意味がある」

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