日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈行友弥の食農再論〉無駄やムラにも意味がある

2022年7月25日

 福島原発事故の被災地では、スマート農業の導入が進んでいる。農業者が大幅に減ったので、少数精鋭で農地を守り、生産を維持しなければならない。先進技術による作業の効率化がその助けになることは間違いない。

 福島県飯舘村で和牛の繁殖を手がける男性は、牛の体に付けたセンサーで体温を常時計測し、発情や分べんの兆候があるとスマホに情報が届くシステムを使っている。子どもの教育などの事情で村に帰還せず、通いで畜産を営む彼にとって、離れた場所から牛の状態を把握できる技術は強い味方だ。

 実は「スマート農業は『もろ刃の剣』ではないか」と思っていた。少人数で農業ができるようになれば「地域のにぎわい回復」という意味の復興は遠ざかってしまう恐れもあるからだ。

 しかし、男性の話を聞いて認識を少し改めた。もし、そのシステムがなければ、彼は地元での畜産再開をあきらめていたかも知れない。

 一方、便利な技術には落とし穴があることも事実だ。今月初めに発生したKDDI(au)の大規模な通信障害では、同社の回線を使うスマート農業システムに大きな影響が出た。6日付の日本農業新聞によると、トラクターの自動運転ができなくなったり、水田の水位データが取得できなくなったりしたという。

 「冗長性」というIT(情報通信技術)用語がある。「無駄」や「重複」を意味する言葉だが、ITの世界ではポジティブな意味で使われる。メーンのシステムに障害が発生しても、バックアップシステムが作動してトラブルを回避できるような設計にすることが「冗長化」だ。スポーツでいえば、華やかなスター選手ばかりでなく、頼りになる控えの選手がそろっているチームの方が長い目でみれば強い、といったことか。

 以前、金融業界から転身し成功を収めた農業経営者の講演を聞いた際、彼は「農業の世界は無理、無駄、ムラが多い。それをなくせば成長できる」と力説していた。しかし、無理はともかく無駄やムラの部分にも意味はありそうだ。新しい技術や経営手法も取り入れつつ、作物や家畜と対話するようなアナログな要素も残っていてほしい――と個人的には感じている。

(農中総研・特任研究員)

日本農民新聞 2022年7月25日号掲載

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