日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2022年7月15日号

2022年7月15日

このひと

 

日本の施設園芸のこれからと協会の役割

 

(一社)日本施設園芸協会

会長
大出祐造 氏

 

 (一社)日本施設園芸協会は、6月の総会で会長に新たに大出祐造氏(前副会長、㈱誠和会長)を選任した。新会長に、日本における施設園芸のこれからと同協会が果たす役割を聞いた。


 

全国各地の現場の声も反映する環境へ

就任の抱負から。

 日本施設園芸協会の50年の歴史のなかで、会長には農水省出身や学識経験者が就任されてきたが、4年前に初めて会員企業から鈴木秀典氏(㈱大仙会長)が会長として選出された。

 これは、協会会員自らが業界が抱える課題に取組むべき決意の表れだったと受け止めている。この4年間、鈴木前会長は大変ご苦労をされたと思うが、引続き民間からの会長を受け継いだ原点を大切に、この流れが絶えることのないようにしっかりバトンタッチできるように取組んでいきたい。

 それをもとに、私自身進めていきたいと考えていることは、まず、会員の拡大である。協会会員はずっと90社前後で推移し、なかなか総数が上がっていかない。費用面も含め協会運営が非常に厳しい環境にあるなか、協会全体をもっと活性化させるためにも、ぜひとも会員拡大に取組んでいきたいと考えている。

 そのためには、我々のような施設園芸関連のメーカーだけではなく、施設園芸を支えている全国の資材店等にも会員になってもらい、それぞれの地域に応じた課題や意見がもっと反映できる環境づくりをしていくべきだと思っている。ぜひとも取組んでいきたい。

 

ゼロエミッションは業界転換の契機

我が国の施設園芸を取り巻く課題をどのように受け止めているか。

 第1次オイルショックの当時は施設園芸そのものの認知度がまだ低く、「そんなところに油を使うなんて」という声もあったようだ。しかし今回の石油危機が施設園芸に及ぼす影響の大きさは、その時とは比べものにならない。ここをいかに乗り切るかが、これからの日本の施設園芸の大きな武器になると受け止めている。

 世界では、2050年化石燃料使用ゼロを目指した動きが提唱され、日本でも2030年50%削減目標が公表されている。国際社会や国全体でそうした声があがっていることは、施設園芸業界にとっても大きな転換期になる。ある意味ビジネスチャンスにもなり得るのではないかと考えている。

 ゼロエミッションの問題は、個々の会社だけで対応できる問題ではないことを考えると、この面での日本施設園芸協会の位置づけは非常に重要になってくると思われる。農業界だけではなく一般産業界のCO2削減や代替燃料の取組み等との連携なくして、解決しない問題だと思う。その意味でも協会の取組みも舵を大きくきるときだと思っている。

 

分科会設置し経営規模別に応じた論議を

協会としての取組みのポイントは。

 現状の施設園芸には、ha単位の大型温室もあるが、従来型の一般農家向けの鉄骨ハウス、雨よけも含めたパイプハウスなどがある。

 これらを一括りにして施設園芸全体を論議することは、的外れのような気がする。協会の会員もそれぞれに取組み主体が異なり、一緒に論議をしてもなかなか噛み合わない。

 ぜひとも分野ごとの分科会を設置し、議論の場を線引きしてテーマをしっかり区分けしながら、それぞれの課題を検討すべきだ。

 当然、作物の作り方や品種も違ってくる。大規模経営では効率的な経営による大量生産で安価な供給をめざすだろうし、一般農家の鉄骨ハウスでは高品質生産や直販を指向する経営が存在するかもしれない。パイプハウスで需給の隙間を狙った生産をする人もいるだろう。こうしたところを会員と議論しながら色分けができればよいと思う。

 前述のゼロエミッションへの取組みにも、協会としてしっかり取組んでいかなければならない。この2年間は、コロナの影響で海外への視察研修ができていないが、環境問題に先進的な取組みをしている施設園芸の視察はぜひ実施していきたい。

 特に業界の次世代を担うような人達を中心に、国内外の先進的な取組み事例を学ぶような場の提供を、他業態とも連携しながら取組んでいきたい。

 先々は、国の目標への到達に向けて、施設園芸業界の中心的な役割を果たせるよう、協会としても中長期のテーマとして力を入れていきたい。

 

施設園芸はステキな未来型農業

これからの施設園芸の可能性は。

 生きていく上で不可欠な食を生産する農業は、将来的にも絶対なくならない。今、ウクライナ危機などが発生し食料貿易が大きなテーマとなっている。こうした仕事に関わることは、他の産業に従事するのとは根本的に異なる。これから農業に新規参入を目指す人達も、この〝入口〟を間違えないで欲しい。

 生き物相手の世界はそれほど簡単ではない。近年の大規模型経営でも、コンピュータ制御機器の導入だけでなく、技術や経験が活かされて初めて実績に結びつく。生き物相手の世界は、楽しみもあるしいろいろな可能性をもった事業が展開できると思っている。

 7月20~22日、開催する『施設園芸・植物工場展』のテーマは、「持続可能でステキな未来型農業へ!」。未来を考え若い人達がどんどん参入してくるステキな農業が施設園芸である。ITやSDGsなどの課題の解決も含めて、今回の施設園芸展は、ステキな農業への第一歩になると捉えている。

 このキャッチフレーズを大事にしながら、持続可能な農業を次世代に伝えていけるように努力したい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 日本の施設園芸のこれからと協会の役割
 (一社)日本施設園芸協会 会長 大出祐造 氏

■JA全農 中期計画 のポイント
 〇園芸事業
  JA全農 園芸部 三木純一 部長

■施設園芸経営の安定へ 自然災害の被害防止を
 農業用ハウス強靭化の技術対策

■施設園芸・植物工場展 GPEC
 持続可能でステキな未来型農業へ!
 約170社・団体が出展

keyboard_arrow_left トップへ戻る