日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2022年6月25日号

2022年6月25日

このひと

 

外食産業のこれから

 

一般社団法人
日本フードサービス協会(JF)

会長 近藤正樹 氏

 

 日本フードサービス協会の新会長に5月12日、近藤正樹(副会長、日本KFCホールディングス㈱顧問)氏が就任した。コロナ禍の逆境を乗り越えてこれからの外食産業の展開にどのように舵を切っていくのか、新会長に聞いた。


外食産業全体の元気を取戻す

就任への思いから。

 この通常のレベルではない厳しい事業環境の中、まさに身の引き締まる思いでお引き受けした。ケンタッキーからのJF会長は私で3人目。諸先輩の思いを受け継ぎ、外食産業全体が再び元気を取戻せるよう力を尽くしたい。

 2年以上続くコロナ禍で、26兆円と言われていた外食の市場規模は、2020年は18兆円と31%、約8兆円があっという間に消えた。21年もさらに縮小が進んだと推定される。特に、酒類を提供する業態の経営が厳しく、また都心部の繁華街、オフィス街の店舗は人流激減で全般に大打撃を受けた。郊外の住宅街などに人の流れが変わり、また夜の引けが早くなったと感じる。業態や立地(場所)の変更も含めて対応していかざるを得ない2年間だった。

 ようやく出口が見えつつある昨今だが、単にコロナ前への回復ばかりを期待すると後ろ向きの対応になりかねない。コロナ禍で人々の暮らし方、働き方、生活様式、消費行動そして価値観、習慣までが変化した。外食産業もこうした多様な変化に対応し、新たにお客様を創っていく気持ちで取組んでいくことが必要ではないだろうか。

 外食は〝人〟のビジネス。店で働く人が使命感、誇りをもって安全でおいしいものを最高の状態で提供することでお客様・社会に喜んで頂き、自分もしあわせ、元気になる、そんな好循環で外食産業全体を盛り上げていきたい。

 

供給ショックの影響を懸念 DXやSDGs対応も

取り巻く情勢は?

 コロナの影響とともに、ほとんどすべての食材、資材、飼料、肥料、エネルギーの価格が、需給逼迫と物流停滞という供給ショックにより高騰してきていた。ウクライナ情勢により、さらにステージが上がるとともに、中長期化の様相を呈している。そして急激な円安がそれに拍車をかけている。物流費、人件費も持続的に上昇していることから、市場では待ったなしで価格転嫁が進んでいるが、外食に関しても価格に敏感な消費者への影響が懸念される。

 また、営業がコロナ前に戻るようになるにつれて、働き手の確保が困難になっている。パート・アルバイト、特に女性や高齢者が働きやすい、きめ細かなシフト調整をはじめ、外国人材の受入・育成を進めていくとともに、働き方改革を進める必要がある。一方、DXの流れは今後留まることはない。業界としても、接客、決済、調理、温度管理などあらゆるシーンで自動化、機械化、ロボット化、デジタル化が進んでいくだろう。

 SDGsへの対応も喫緊のテーマだ。例えば、脱炭素を進めるための物流の短縮化もますます必要。限りある資源を大切に、環境・地球・自然、そして人にやさしい取組みを強化していきたい。

 

ホスピタリティを強みに 要請活動も

こうした情勢を踏まえた課題と協会の対応は?

 コロナ禍では、テイクアウトやデリバリーの利用、冷凍食品(技術進化もあり)が大幅に伸びたが、今後のウィズコロナの時代では、外食の良さ、楽しさが再認識され、徐々に市場回復していくであろう。そして、それを加速化させる為、消費心理のキーワードである、安心感・親近感・納得感・共感・推し・応援を念頭において、出来立て・作り立て・安全でおいしい・はやくて正確なサービスそしてホスピタリティに更に磨きをかけ、社会に訴求していきたい。

 コロナ禍の一つの特徴として、非接触型の電子マネーやクレジットカードなどのキャッシュレス化が進んでいる。これに伴い外食事業者の手数料負担も重くなってきており、利益の確保が難しくなっている。

 過去2年、協会活動はコロナ禍対応一色であった。政府の要請に基づき外食ガイドライン・飲食デリバリーの安全安心規程を策定すると共に、行財政に対しては緊急融資の迅速化、事業再構築補助制度の要件緩和、雇調金延長、時短協力金の対象拡大等を要請してきたが、これからは、まずはGoToEatの速やかな再開、インバウンド本格的受入れ推進など飲食店の活性化に向けて取り組んでいきたい。イートイン(店内飲食)も軽減税率(8%)対象とするよう要請済。また輸入小麦など基礎食糧の価格管理、そしてキャッシュレス手数料の削減にも粘り強く取組んでいく所存。外国人材の受け入れ強化、非正規労働者への社会保険適用の緩和・柔軟化も喫緊の課題である。

 

差別化できる食材と安定供給を

日本農業との連携と今後は?

 外食産業は日本農業にとって最大のユーザーであり、農業生産者は重要なパートナーである。そして、外食は生産物の価値をさらに上げていく役目を担っていると思う。これからは海外の欲しい物が買えない事態が出てくるかもしれない中、国内生産に力を入れていく必要があるだろう。

 私が顧問を務める日本ケンタッキーでは、鶏肉100%国内産である。登録飼育農場は全国に170ヶ所ほどあり、地域経済の活性化にも貢献している。

 外食業界としても国産を優先的に使い、一体となって国産農畜産物全体の価値を上げていくことに引き続き取組みたい。

 日本の農畜産物は、海外の店舗でも圧倒的な評価を得ている。農畜産物の輸出も伸長しており、インバウンドが戻ると、さらに輸出拡大につながるだろう。どこにも負けない農畜産物が日本全体の価値を上げていくのではないか。

 協会では、会員バイヤーやメニュー開発者と全国の生産者との間で「産地見学交流会」を30年近く続けている。この2年はコロナで開催を見送ったが、今年度はまずは7月21日に福島で開催する。外食産業と生産者のマッチングの場である「バイヤーズ商談会」も11月15日に開催を予定している。

 生産者のこだわり農産物を料理人が調理して紹介するTV番組があるが、レストラン等のメニューで使った食材を店頭で販売することにもチャレンジしてみたらどうかと思う。

 外食産業での最も大きな課題は、品質・価格の安定と供給量の確保だ。消費者が望む商品、価格を提供するため、調達先の間口を拡げリーズナブルな価格でバラエティに富んだ付加価値の高いメニューを提供していかなければならない。

 そのなかで、差別化できる食材を工夫していくことが他にはない価値を上げていく。そんな食材を一定量で安定的に供給していただけるとありがたい。

 

未来志向の材料を情報共有して

外食産業のこれからに向けて。

 日本ケンタッキー社は「おいしさ、しあわせ創造」を企業理念に、常にお客様の立場で、お客様の気持ちに寄り添い、お客様に評価してもらえる企業を目指している。これは外食産業全体の姿勢でもあると思う。

 我々の業界は、組織運営、マーケティング、食材、物流、人財育成など、すべてに関し情報共有・意見交換・連携の風土が醸成されている。業界の課題は山積しているが、お客様目線で、一つひとつ対応策を検討していきたい。逆風のなかでもDXやSDGsなどを含め未来志向のテーマもたくさんある。その良い例の情報をどんどん共有し、互いに切磋琢磨し業界全体を活性化していきたい。


〈本号の主な内容〉

■このひと 外食産業のこれから
 (一社)日本フードサービス協会(JF) 会長 近藤正樹 氏

■JA全農 中期計画 のポイント
 〇耕種総合対策事業
  JA全農 耕種総合対策部 山田正和 部長
 〇耕種資材事業
  JA全農 耕種資材部 日比健 部長
 〇くらし支援事業
  JA全農 くらし支援事業部 山崎智弘 部長

■6月1日は世界牛乳の日 6月は牛乳月間

行友弥の食農再論「『優等生』の嘆き」

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