日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2022年6月5日号

2022年6月5日

このひと

 

 

次世代の農業経営者育成へ
~日本農業経営大学校の新たな挑戦~

 

 

アグリフューチャージャパン
代表理事理事長 兼
日本農業経営大学校 校長

合瀬宏毅 氏

 

 日本農業経営大学校を運営するアグリフューチャージャパン(AFJ)は、日本農業経営大学校が設立10周年を迎えた今年度を契機に、2024年度を目途に新たな教育体制への移行を始めた。これからの時代の農業経営者育成に向けた教育のあり方のねらいとその具体策を、この3月末就任した合瀬宏毅AFJ理事長・日本農業経営大学校校長に聞いた。


 

農業経営学びたい人を網羅し 生活や勉強スタイルに合わせ

AFJおよび日本農業経営大学校をめぐる環境変化と課題から。

 この学校ができた2013年から審議委員会の議長として、2年前からは副理事長として運営に関わってきた。一戸当たりの農家の経営規模が大きくなる中で、最先端の情報と優秀な人材が集まる東京で、農業技術ではなく農業経営を集中的に学ぶ。創設以来掲げてきたこの学校のコンセプトはいささかも色あせていないと思う。

 一方、実践していく過程で2年間全寮制や全科目必修、定員数など、時代に合っていないことが顕在化し、学校そのもののあり方を見直していく必要が出てきた。

 この10年間で農業界を巡る情勢は大きく変わった。生産段階での人手不足や消費段階での食べ方の変化、SDGsや地球環境問題も加わり、従来の農業の考え方では立ち行かなくなってきた。農水省もみどりの食料システム戦略に大きく舵をきっている。そこにこのコロナである。生産や流通、消費の現場はその対応に大変だったと思う。しかし人に会うことができない状況は、新たな可能性を私たちに気づかせてくれた。新しいコミュニケーションツールとしてのオンラインが普及し、距離や時間を取り払ってくれたからだ。これはある意味、チャンスでもある。オンラインを使えば、遠くに居る人とでも即座に会話ができる。当校でもオンラインで、これまでに無かった学びができる感触が得られた。

 東京での2年間全寮制をとる当校は、仕事を持ちながら農業経営を学びたい人々にとって高いハードルとなっていた。これまでのカリキュラムを見て学びたいと思っていた潜在的な人達に対しても、オンラインであればコンテンツを提供できる。そうした考えのもとにオンライン教育に取組むことにした。

 繰り返すことになるが「次世代の農業経営者の育成」という理念はむしろ、ますます重くなっている。だからこそ、もっと農業の勉強をしたいと思っている多様な人達に多様に利用してもらえるよう、今の生活スタイルや勉強スタイルに合わせて方法を変えていくことは、大変意義があることだと思っている。

 

品川本校と多様なオンラインコース設けて

これまでの運営との違いと具体的な取組み予定は?

 この10年間、学校には農家の子弟だけでなく企業等からも多様な人材が入学したものの、学校の立て付け上、定員20人全員が一本の教育課程で勉強をせざるを得なかった。

 そこで今後は、勉学に専念できる人材はこれまで通り品川本校で学んでもらうとともに、地方で農業をやりながら気軽に勉強したい人にはオンライン教育を準備することにした。学ぶことのできる環境を拡げることで、農業界全体の経営力の底上げを図ることが狙いだ。オンラインコースは2023年度から、本校は24年度から1年単位のコースで新たなスタートをきることにしている。この秋にはオンラインコース、本校は来年から募集を開始する。

 オンライン課程は、農業を企業の新しい事業分野と捉える人や、非農家でも農業というビジネスに未来を感じている人など多様な人の参加を見込み、いろいろなコースの設定を考えている。経営の学習に加えネットワークづくりを期待する声も多い。そういう人達が研修も含めて3~4回集まれるような1年間のコースも設定したい。また、基礎コースにプラスして農業簿記3か月コースや農業リーダー育成3か月コースなど、ニーズに合わせて学びやすいものも考えている。日中は仕事を持っている人でも勉強ができるような曜日や時間帯を検討し、よりたくさんの人が学べるようにしたい。修了後は認定証のようなものを出すことも考えている。

 農業に勉強は要らないという言われ方をした時代もあった。しかし、これだけ社会の変化のスピードが速まっているなか、ビジネス展開しようと思えば、それなりのスキルや素養が必要だ。一般企業のような新人研修は農業にない。先進的な勉強を教える前に基礎的なマインドセットを含めて、農業界でもっと勉強をしたい、成長したいという文化をつくることが我々の一つの役割と考えている。

 

「アグリイノベーター」の育成とプラットフォーム構築へ

これを踏まえ先般、経営理念の刷新と長期ビジョンを発表されたが。

 「農業を変革する人材の育成」と「農業界全体の経営力の底上げ」をミッションに、「未来を拓く人材の育成を通じて、わが国の農業を強く、魅力ある産業に発展させることで、サスティナブルな社会の実現に貢献する」ことを経営理念に掲げた。

 わが国の農業がこれまでの閉塞感から脱却し世界に飛躍するためには、突き抜けたイノベーションを生む個の力を発掘し育成するとともに、わが国農業界全体の経営力の底上げが必要だと考える。

 そのため品川本校の教育による、新たな価値の創出と課題解決によりアグリビジネスで革新を起こしていく「アグリイノベーター」の育成と、オンライン等を活用して全体の経営力を底上げするための、知識習得と能力開発に必要な教育機会や情報の幅広い提供に取組んでいく。

 また、卒業後もフォローする体制を強化する。AFJは230前後の会員企業・団体で構成されており、在学中もインターンシップや実習で協力いただいている。しかし起業や新規事業立ち上げには、卒業後のノウハウや資金提供も必要となってくる。農林中金やアグリビジネス投資育成などJAグループの出融資やコンサル等の機能を使っての伴走支援も可能だろう。

 当校卒業生はじめ会員企業・団体とともに〝「未来」をつくる「協創」〟を合言葉に、イノベーション創出のコミュニティの場や起業・新規事業支援へのコンテスト、人材発掘・教育等を通じた会員サービス等を提供する「アグリビジネス・イノベーション・プラットフォーム」を作り上げていきたいと思っている。

 

農業を面白くする人材呼び込む基盤に

これからの農業人材像と学校の役割は?

 どんな人材であれ、世の中の流れを読み、その中で自分の持つ資源を活かし成長させていけば、地域を幸せにできると考えている。一般の経営者と同様に、地域を豊かにする強い意思をもった人達が日本の農業の可能性を広げていけば、大変面白い産業になる。

 このところ、農業界に新しく参入して来る人を見るとIT系の人達が目立つ。農業現場にはITで解決できる課題がいっぱいあるのだろう。農業界の中にいると気づかない新しい可能性で、これまでの農業のフィールドを変えるような勉強を当校でしてもらいたい。

 多様な人々が農業に参入し、食料生産だけではない農業の持つ多様な機能に可能性を見つけ、議論が活性化していくような産業にしていかなくてはならない。当校は、日本の農業界を面白くする人材を集め、可能性を示し農業界に呼び込む基盤でありたいと思っている。

 

人材への投資惜しまず「学ぶ」文化づくりを

会員企業・団体、JAグループへのメッセージを。

 農業経営者は一人ひとりが事業者であり、経営ノウハウを学ぶ必要がある。そうした文化づくりが必要であり、そのためには勉強が必要だということ。また、時間も含め人材育成のためのコストが問われてくる時代だと感じている。

 その意味で、JAグループはじめ会員企業・団体のみなさんには、ぜひこの学校を利用してもらいたい。そしてこれからの取組みに対しどんどん意見を言って欲しい。具体的な意見を寄せてもらい、それを我々が咀嚼し皆が使えるようなツールを作っていきたい。

 人材へ投資し育成していかなければ、これからの農業は縮小していくばかりだと訴えたい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 次世代の農業経営者育成へ
 ~日本農業経営大学校の新たな挑戦~
 アグリフューチャージャパン 代表理事理事長兼
 日本農業経営大学校 校長 合瀬宏毅 氏

■クローズアップインタビュー
 農中総研の新たな運営方針とめざす姿
 ㈱農林中金総合研究所 代表取締役社長 川島憲治 氏

■農薬危害防止・安全防除運動 展開中
 〇農林水産省 農薬対策室長 小林秀誉 氏
 〇JCPA農薬工業会 安全対策委員長 乾公正 氏
 〇JA全農 耕種資材部長 日比健 氏
 〇全国農薬協同組合 技術顧問 植草秀敏 氏

蔦谷栄一の異見私見「日本農業のあるべき姿 議論を」

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