日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉日本農業のあるべき姿 議論を

2022年6月5日

 自民党はこの5月19日、総合農林政策調査会(江藤拓会長)、食料安全保障に関する検討委員会(森山裕委員長)、農林部会等による合同会議を開催して、食料安全保障政策に関する提言をとりまとめた。提言は大きく、「『食料安全保障予算』の検討方向」と「食料・農業・農村基本法の見直しを含む『中長期的な検討課題』」に分かれる。

 「『食料安全保障予算』の検討方向」であげられている項目を列記すれば、①価格高騰対策、肥料の安定確保体制の構築、国内資源の有効活用、②輸入依存穀物(小麦・大豆・トウモロコシなど)の増産、備蓄強化、➂米粉の増産・米粉製品の開発、食品産業国産原料への切替促進等、④みどりの食料システム戦略(カーボンニュートラル)の推進、⑤食料安全保障に資する中山間地域等の振興、⑥産地・食品産業が一体となった輸出促進、⑦カーボンニュートラルの実践の向けた森林・林業・木材産業の振興、⑧資源管理の着実な実施に向けた水産業の振興、となる。

 あわせて「食料・農業・農村基本法の見直しを含む『中長期的な検討課題』」の項目もあげてみると、1)食料安全保障予算の更なる充実 ①生産資材の安定確保、②国内農業生産の拡大・国産農林水産物の利用拡大、みどりの食料システム戦略(カーボンニュートラル)の推進、④国産水産物の漁獲量の増大等に向けた水産業・漁村への支援施策の強化、2)幅広い食料・農林水産業施策の検証・検討 ①農業人材の持続的な確保、②農地の適正利用の徹底・強化、➂国民理解の醸成、フードシステム・価格形成、④中山間地等条件不利地域への支援施策の強化、農村の活性化、⑤研究開発、技術実装の加速化、⑥国土強靭化の継続強化、3)食料安全保障の強化に向けた施策の推進方策 ①地方自治体や関係団体の取組・連携の強化、②食料自給率・自給力のあり方など、となっている。

 このように〈検討方向〉で緊急に手当てすべき対策をあげ、〈中長期的な検討課題〉で予算や施策、支援策の強化をめざす。こうした自民党の対応は食料安全保障の問題であるから当然でもあろうが、2月に食料安全保障に関する検討委員会を立ち上げてからで、きわめて迅速にとりまとめられ、また体系的・網羅的でありながらもメリハリもついた内容であるように受け止めた。自民党農林族の存在感は希薄化する一方であったが、どっこい、底力を見せつけられたような感がある。今回は「中間とりまとめ」とされており、今後、これらについての具体策が付加されるであろう最終とりまとめに期待したい。

 そこで注文しておきたいのが、この食料安全保障をめぐる国会論議の中での、日本農業の本来の姿・あるべき姿を踏まえての議論の展開である。農業は基本的に風土産業であるが、わが国は明治維新以来、一貫して欧米型の大規模化・機械化農業を追求し続けてきた。今、持続性と循環が時代のキーであり、転換は必須だ。水田農業を中心に家族経営と協同の力、森と水、特性の発揮にこだわるところからしか日本農業の活路は拓かれないのではないか。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2022年6月5日号掲載

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