日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2022年5月10日号

2022年5月10日

このひと

 

中食・惣菜産業の現状とこれから
~日本惣菜協会の取組み~

 

日本惣菜協会
会長
平井浩一郎 氏

 

 食生活の多様化を背景に、中食、中でも惣菜産業は近年、急成長を続けており、市場規模は年間約10兆円となっている。惣菜の製造・販売を手がける370社を正会員に擁する(一社)日本惣菜協会の平井浩一郎会長に、取組みの現状と今後を聞いた。


 

コロナ禍では成長が初停滞

中食・惣菜産業の歩みとコロナ禍での事業環境の変化について。

 毎日の国民の生活に欠かせない惣菜を製造・販売している私たち惣菜産業の市場規模は、2010年の約8兆円から2017年には10兆円を突破という急成長を示している。1977年設立の当協会の会員企業は現在、正会員370社、賛助会員・協力会員を含む合計では630社となっている。

 人々の食生活が多様に変化し、調理の手間を省き中食を利用するシーンが増えるにつれて、手軽に購入いただける惣菜の「食のライフライン」「食のインフラ」としての役割は増している。その誇りと自覚をもって、よりよい業界をつくり上げていきたいと考えている。

 右肩上がりで成長してきた惣菜産業だが、このコロナ禍では、停滞を初めて経験した。

 外食自粛が余儀なくされる中、中食需要は高まったものの、多くの人の生活パターンが〝巣ごもり〟化し、惣菜を買いに行けなくなったことが大きい。惣菜には「できたて」「新鮮」であることが求められ消費期限も短いことが多いため、買いだめ行動には結びつきにくい。巣ごもり期に売れ行きが急増したのは、冷凍食品やカップ麺、パスタ、缶詰等で、いずれも保存の効く食品だ。

 惣菜業界としては、「こんな時こそ活躍するはずだったのに」という思いがあったことは確かで、期待がはずれた今回は非常にいい経験をしたと思う。

 外食では、非接触型の販売形態が進むファストフード店が逆に販売を伸ばしたという例もあった。

 やはり付け焼刃にならないよういろいろなリスクを考え準備を進めておくことが大切だと感じている。

 

〝食のプロフェッショナル〟を育成

惣菜管理士資格制度が30周年とのことだが。

 当協会の主要事業の一つである「惣菜管理士資格試験制度」は1992年12月に誕生し、今年度、創設30周年を迎える。

 この業界は中小零細企業が多く、経験による家内工業から専門的な知識に裏付けされた惣菜産業へと変革するべく、〝食のプロフェッショナル〟を育成するため「惣菜管理士養成研修」を行い試験を実施してきた。

 関係法令の改正に応じテキストやカリキュラムは改定を重ね、現在までに約2300社、3万人以上が惣菜管理士資格を取得している。

 惣菜は時代とともにますます身近なものになってきており、今後も利用が増えるにつれ、製造・販売に関わる人が増えていく。そうした中、惣菜の安全・安心を担保する惣菜管理士を増やしていくことはますます求められるだろうし、惣菜を扱う上で必要不可欠な、持っていて当然の資格という位置づけになっていくのではないか。業界内での関心はますます高まってきている。

 

生産者が再生産できる価格水準は重要

農業生産者・JAグループ等農業団体への期待は?

 食材調達にあたっての一番の課題は、価格と量の安定確保だ。畜肉、魚類についてはどうしても輸入に頼ることも多いが、野菜や果物は地産地消も含めて、できれば国産を使用したいと思う一方、安定供給を求めるのであれば、安さばかり追求することは無理があると私は考えている。生産者が再生産できるだけの水準は確保する必要があるのは当然だ。

 ここでコメについて考えると、価格対策の面で生産者側に立った政策がこれまで続いてきたその一方で、消費者側のコメ離れが進んできているように思う。原因は価格だけではないだろうが、直販など流通形態の多様化をさらに探るなどしながら、〝よりおいしい安全なものを、リーズナブルな価格で、安定的に〟という消費者ニーズにできるだけ応え続けていただくことが重要かと思う。

 

業界初、惣菜盛付ロボットの運用成功

日本惣菜協会の役割と今後の取組み方向は?

 惣菜産業は、人手不足、長時間労働、低い生産性、食品ロス・生ごみ問題、廃棄プラスチック問題等、課題を山のように多く抱えている。

 マーケットが大きい割には個々の企業の経営規模が比較的小さいことが背景にある。そのために、大きな設備投資もなかなか進まない。

 今後ますます伸びていく惣菜需要に安定的に応えていくためには、これら数々の課題を改善し、働き手にとっても魅力的な職場・業界にしていく必要がある。

 そうした、個々の企業単位ではできないような対応に取組んでいくことが、協会としての大きな役割だと考えている。

 この3月に発表した、業界初の、惣菜盛付工程でのロボット運用成功もその一つ。当協会が、経産省推進の「令和3年度革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」に採択され、協力企業15社とともに、ロボットが稼働しやすい「ロボットフレンドリー(ロボフレ)」な環境構築とともに、ロボット・AI・量子コンピュータの実現場への導入を推進し、現場での実運用に成功した。

 ほか、HACCP、協会でできるSDGsの取組み等、一つひとつ積極的に取組んでいきたい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 中食・惣菜産業の現状とこれから
 ~日本惣菜協会の取組み~
 (一社)日本惣菜協会 会長 平井浩一郎 氏

■家の光協会 事業3か年計画のポイント
 (一社)家の光協会 代表理事専務 河地尚之 氏

■協同組合間連携へ ビジョンと4年度事業
 協同をひろげて 地域・日本を変える
 (一社)日本協同組合連携機構(JCA)
 代表理事専務 比嘉政浩 氏

蔦谷栄一の異見私見「日本オーガニック会議と環境調和型農業」

keyboard_arrow_left トップへ戻る