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日本農民新聞 2021年12月25日号

2021年12月25日

このひと

第5回 全農学生酪農の夢コンクール 受賞者が夢を実現!!

岡山県 倉敷チーズ工房ハルパル
三宅 春香 さん

 2012年に開かれた「第5回全農学生『酪農の夢』コンクール」で「高校の部・最優秀賞」を受賞した岡山県の三宅春香さんが今年、実家の三宅牧場に「倉敷チーズ工房ハルパル」を開業し、応募作品に書いた「自分で搾った乳でチーズを作る」という夢を実現し、11月には全農の「みのるダイニングさんすて岡山店」でコラボフェアを開いた。10年間かけて夢をかなえたチーズ工房と家族3人で経営する牧場について聞いた。

 


 

チーズ工房開業の夢をかなえた感想は?

 チーズ工房は高校生の時からやりたい夢の一つでした。それに向けて高校、大学を通じて勉強し、ようやく形になりスタートラインに立ててすごくうれしいです。これから頑張ろうという気持ちになっています。

酪農を継ぐこと、チーズ工房の夢へどんな気持ちを持ち続けましたか?

 一番は牛が大好きだったこと、チーズが好きだったこと。好きなことをやりたいという気持ちが大きいと思います。

 酪農の夢コンクールの最優秀賞を受賞した副賞として、牧場での実習がありました。応募した作品に書いたので、実習先はチーズ工房がある牧場を希望して香川県に行かせていただきました。

 そこでチーズ作りと出会い、一気に魅力にはまりました。高校時代に将来は絶対チーズを作ると決め、大学でもその夢を言いつづけました。

三宅牧場と倉敷チーズ工房ハルパルについて教えてください。

 牧場は両親と私の3人で経営しています。飼っているのは全て一般的なホルスタイン種で、約50頭います。そのうち約40頭を搾乳して、毎日約1300kgの生乳を出荷しています。そのほかは仔牛、種付け牛です。

 生乳の生産が中心の経営なので、品質に一番こだわっています。全員で日々の管理に気をつけていて、毎年、組合から乳質で賞をいただいています。牧場としても、チーズ工房としても品質が一番の売りになる部分だと考えています。

 今、酪農の作業は両親が中心で、私はチーズ工房に付きっきりの状態で、2人を尊敬しています。後を継ぐ私もしっかり頑張らないといけないなという気持ちです。

 チーズ工房は製造から販売までを私1人で担当し、メインになるチーズを3種類作っています。モッツァレラとフロマージュブラン、スカモルツァの燻製で、いずれもフレッシュチーズでクセがないものです。

 いろいろな方に食べていただきたいと思い、初めはフレッシュチーズを揃えました。今後はもっと種類を増やしたいと思っています。

 工房は、週3日、1日に牛乳80kgを仕込んでチーズを作っています。チーズは生乳の10分の1になるので、できあがるのは8kgです。

 販売は予約制で週末にお客様に取りに来ていただいたり、イベントに出店して販売しています。

11月に全農の「みのるダイニングさんすて岡山店」でコラボフェアを開きました。

 うちのチーズ工房は酪農と消費者との繋がりの場として作りました。みのるダイニングも生産者と消費者と繋がることを目的にしていて共感する部分があります。

 岡山駅というたくさんの人が行き来する場所で、いろいろな方に食べていただける機会になり、これまで以上にたくさんの方にうちのチーズ工房や倉敷の酪農などを伝えられる場を実現していただきありがたく思っています。

 作って下さったメニューで瀬戸内産の鰆とチーズという組合せにはびっくりしました。ハンバーグなど肉とチーズはよく合うとは思いましたが、魚にもチーズが合うということを私は今回初めて知りました。どのメニューもおいしく仕上げていただいてうれしいです。

酪農の仕事やチーズ作りで楽しいと思う時はどんな時ですか。

 家族全員が牛を飼うことを好きでやっているので、仕事が趣味に近いような感じです。毎日牛の世話をして、搾った牛乳が高品質なものとして認められた時は家族みんなで「今年も頑張って良かったね」と喜びを感じる時です。

 チーズ工房では商品を対面で手渡しするので、お客様から「おいしい」という言葉をいただいた時が一番やりがいを感じる瞬間です。酪農やチーズ作りをやって良かったと思います。

コンクール応募作に書いた他の実現したいことは?

 夢の中で唯一実現したのがチーズ工房です。実現したいことは高校時代にいろいろな所へ行き勉強し、それを理想型として書きました。北海道の大学で学びさらにいろいろな酪農を見て、メリットとデメリットがしっかり見えてきました。

 学んだことを持ち帰ってうちの牛舎を見たときに、今の経営がベストの状態だということがわかりました。労働力や土地面積、資金のことを勉強して、うちの牧場はしっかり安定していて、酪農経営として改善しなければならない点がないと感じています。

 フリーストール牛舎で規模を大きくするよりは、今の規模の繋ぎ飼い牛舎で家族3人がしっかり管理して品質の良い牛乳を搾ることが大切だと思っています。

地産地消への想いは?

 倉敷市内で初めてのチーズ工房を開いたので、地元・倉敷の人にたくさんチーズをお届けしたいという気持ちがあります。チーズはまだまだ食べ慣れていない人もいて、市民権を得ているとは言えないところもあります。消費者に近い倉敷で作ることで、地元に酪農があるというPRにもなり、注目され始めている国産チーズの普及にも役立ちたいと思っています。

作ったチーズのPRは?

 クチコミで拡がっています。自分からはSNSで発信する程度ですが、当初からこんなにハイペースで販売できると思っていませんでした。有り難いことに個人の方々の間で拡がり、工房に買いに来て下さる方や、イベントで買って下さった方は、「知り合いからチーズをいただいて、おいしかったから買いに来ました」という方が多いです。だからこそおいしいチーズを作らなければならないという気持ちになります。

 おいしいチーズを作ることが、工房の存在や魅力を発信することにつながると思っています。

三宅牧場とチーズ工房の今後は

 牧場はこれからも安定した経営を続けて、それを私がしっかり引き継ぎたいと思っています。大きく発展させようということは考えていません。いままで通りに高品質な生乳生産を続けていきます。

 チーズ工房は、種類を増やすことを第1の課題として取り組みます。1人で作って売っているので、新たな労働力を確保できるように製造量を増やして、製品を作って、売上を伸ばしていきたいと思っています。職業の一つとして地に足がついた力強いチーズ工房でありたいと思います。

チーズの品質を高めるための勉強は?

 チーズ工房が使う牛乳は、その牧場のもので、それぞれに違います。おいしい作り方を教えてもらったとしても、同じものはできません。自分の牧場の牛乳にあったチーズの作り方は自分で試行錯誤して作り上げるしかありません。いろいろなチーズ工房の作り方も参考にしますが、自分自身で少しずつ積み重ねて、よりおいしいチーズを作りたいと思っています。

チーズコンテストへの応募は?

 毎年1回ナチュラルチーズのコンテストが行われていて、早速応募しました。自分のチーズがどのくらいのレベルにあるのかが解ります。今回は賞に入らなかったので、チーズでも賞を取ることが夢というか次の目標になっています。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 第5回全農学生酪農の夢コン受賞者が夢を実現!!
 岡山県 倉敷チーズ工房ハルパル 三宅春香 さん

■第39回 全農酪農経営体験発表会
 6組が特長ある経営を発表
 最優秀賞に埼玉県狭山市の松本陽一さん・聡美さん

■日本バイオスティミュラント協議会が 第4回講演会
 「海藻・多糖類型バイオスティミュラント」テーマに
 ・「海藻液肥の農業への利用-紅藻キリンサイ液肥の果実・花卉などへの効果実例-」
  高知大学名誉教授 大野正夫 氏
 ・「かに殻由来の機能性成分 低分子量キチン」
  焼津水産化学工業(株) 樋口昌宏 氏
 ・「海藻と林床の腐葉土起源養分を含む土壌表面付近の地下水の農業利用」
  (株)海藻研究所 新井章吾 氏
 ・「ビール酵母細胞壁水熱反応物による植物および土壌微生物への作用」
  アサヒクオリティーアンドイノベーションズ(株) 北川隆徳 氏

行友弥の食農再論「『国が国が』で90年」

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