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日本農民新聞 2021年11月17日号

2021年11月17日

このひと

 

TACの活動で地域に貢献

 

福岡県
JA筑前あさくら

代表理事組合長
深町琴一 氏

 

 地域農業の担い手に出向くJA担当者「TAC」の活動は、全国のJAで定着している。農業者の所得向上と地域農業の活性化がより一層求められるなか、TACの活動も一段の質的向上が求められている。地域農業の変化を踏まえ、様々な新しい活動に挑戦するJA筑前あさくらのTACの活動の現状と課題を、深町琴一組合長に聞いた。


全部署と密に連携 地域に腰を据え農業維持に注力

管内農業の概況は?

 当JAは筑後川の中流域に位置し、肥沃な土壌を有することから、平野部では米・麦・大豆等の土地利用型農業や施設野菜、中山間地では果樹や園芸作物等、幅広い品目で農業生産が行われている。代表的な作物は、果樹では甘柿、施設野菜では「博多万能ねぎ」が挙げられる。特に万能ねぎは、昭和40年代に急拡大した「フライト野菜(野菜の空輸)」の先駆け品目で、現在約23億円の売上がある。地域にはJAが主導して、道の駅や、スーパーのインショップ等に農産物を卸しているほか、平成19年から小学生を対象にした「あぐりキッズスクール」を実践するなど、消費者に地域の農畜産物を身近に感じてもらえるような取組みも積極的に実践している。

 

部署間との連携を重視 体制構築や情報共有も

TACの体制は?

 当JAのTACの活動は平成29年から開始した。昨年の機構改革で営農部に配置し、現在は2名の担当者が45名ずつ、計90名を担当し、月に1回以上訪問活動を行っている。担い手の所得向上や面積拡大を目標としているが、最も大切なことは信頼関係の構築だ。当JAでは、担い手の声を事業に反映していくため、担い手からいただいた声や、質問されてその場で返答できなかったことを〝宿題〟として持ち帰り、関係部署につなぐ「対応依頼」を行っている。TACは、受け取った意見を、場合によっては事務所に戻る前に関係部署へ相談する等、速やかに〝横串〟を刺すことを重視している。担当部署といかに回答するかを相談したり、難しい案件では同行訪問を依頼したりと、密な連携はTACの活動において重要だ。また、月に1度関連部署が参加する「窓口責任者会議」を開催している。部課長や副組合長、経済担当常務理事など、30名ほどが参加。TACは各担当者の前で活動を報告、全体で内容を共有する。各担当者からはTACへ、担い手向けの取組み等を伝えている。TACとしても、忙しい担い手に、チラシ等でお知らせをする目的ができるので訪問活動が行いやすい利点もある。

 担い手への具体的な提案では、(1)九州北部豪雨災害(平成29年7月)からの地域農業振興、(2)「未来に向かう土づくりプロジェクト」による大豆の増収・品質向上への取組み、(3)パッケージセンター整備によるイチゴ・アスパラガスの労働力軽減と生産拡大支援、の3点を中心に取組んだ。

 

土壌診断と新技術導入で 大豆反収増へ

最新の取組みで注力していることは?

 (1)九州北部豪雨災害からの地域農業振興では、特に山間部で被害が大きく、代表的な作物でもある甘柿の園地に土砂が流入し、生産面積を縮小せざるを得ない状況だった。TACの訪問先にも柿農家の方が複数おり、収入面での不安が寄せられたため、柿との複合経営が可能な作物を豪雨災害を担当する災害復興対策室とともに検討した。柿は5月に摘蕾、7月に摘果、11月に収穫、冬場に剪定を行う。そこで、他の作物と比較して繁忙期に作業時間が少なく収益が高い、アスパラガスの導入を「JAファーム事業」で支援した。JAファーム事業は、JAが農用地の確保や園地整備・施設建設、定植までを行い、ファームディレクター(入植者)を募るものだ。2年間はJAから農作業を委託、3年目から生産者自らの農業経営を開始する。平成30年度から支援体制を確立し、県単事業も活用しながら耕作放棄地だった圃場を整備した。現在6名が入植、3名が今年度から開始予定だ。導入支援では農地の確保で苦労したが、関係部署と連携し情報収集を行ったほか、農地中間管理事業を利用した。ファーム事業は、豪雨災害をうけた地域を中心に活動を進めてきたが、今後はJA全域に枠を広げ、リース事業のような形へと改良して、入植者を募る予定で、さらに拡大していきたい。

 (2)「未来に向かう土づくりプロジェクト」による大豆の増収・品質向上への取組みでは、令和2年産の反収が10年前の平均より40kg以上減少する等、適正な管理作業を行っているにもかかわらず、大豆の反収が減少傾向にあると、担い手から相談が寄せられた。そこで令和3年3月にTAC、営農指導員、JA全農ふくれん、県の担い手営農サポートセンターが協力した同プロジェクトを立ち上げ、大きく「土壌診断」と「部分浅耕一工程播種」の2つを実践した。まず土壌診断では、管内200箇所の圃場から土壌を採取・分析。マグネシウムとカリウム不足が明らかになったことから、今年度産はTACが営農指導員と連携し、土壌改良肥料(新商品)を提案した。「部分浅耕一工程播種」は、県の農業試験場が開発した技術だ。降雨直後も速やかに播種が可能で、その後の湿害・乾燥害にも強く、発芽が安定する。近年播種の適期に大雨が降って播き直しをしたり、梅雨時期で播けずに遅まきになったりと、梅雨明け後に播種がずれることで、乾燥害により出芽不良を起こしやすくなっていた。「部分浅耕一工程播種」では、麦収穫後の粗起こしを省略し、部分浅耕ロータリーで耕起しながら播種を行う。技術的部分は、TACが専門家である農機具担当者と協力して推進した。現在は大豆の生育調査中だが、農家からの関心は高く、播種作業中に見学に来た方もいた。

 (3)パッケージセンター整備によるイチゴ・アスパラガスの労働力軽減と生産拡大支援では、管内の農家からTACに、当時新規利用を止めていたパッケージセンターにおける出荷調整作業への意見や要望が多く挙げられた。特に、イチゴは農家が自らパック詰めを行うことが主流だ。イチゴ生産者へのアンケートでは、規模拡大の際に生産に専念したい農家や、高齢で作業に不安を感じる農家等、7割以上から将来的にも利用したいと回答を得た。そこで、集出荷施設の再編を実施。分散していたイチジク、イチゴとアスパラガスの集出荷施設を1か所にまとめ、今年の4月より本格稼働した。イチゴでは小売店が望む客層に合わせた出荷アイテムを増やすことで消費者ニーズを捉え販売高向上にもつながった。アスパラガスは機械選別を行うため、統一した規格で出荷できる。農家から預かったアスパラガスは空調の効いた部屋で保存するので、高品質で日持ちするものとなった。施設導入が決定したことで、令和2年産の栽培面積が、イチゴ(6.22ha→6.75ha)、アスパラガス(4.24ha→4.62ha)共に拡大した。施設を整備したので、今後は新規就農者等にアスパラガスとイチゴを推進していく予定だ。

 

農家のため、地域に腰を据えた活動を

これからのJAとTACの役割は?

 私が若い時は、土地利用型農業が中心で、米に付随した農業体系を構築してきたが、現在の状況を考えれば、変化を見据えて複合経営を提案すること等、幅広く考えていくことが必要だ。省力化や所得の向上を考える上では、農家の単位面積当たりの所得をふまえ、いかに安定した経営を続けるのか、真剣に考えることが欠かせない。仮に複合経営を推進する場合でも、1農家当たりの手取りや、JA組織で年間必要な経費、いかに農畜産物を販売するか、までを考えなければ地域に農家が残らない。農家の家族構成や日ごろ接している人の体力・健康面も踏まえた上で、それぞれの状況に合い適した農業を、長く続けてもらえるように提案をしていきたい。TACの活動は、地域にしっかりと腰を据え、相手と正面から向き合うことでしかできない活動だ。地域農業に向き合うことは、管内の自然環境を守ることにもつながる。TAC担当者が課題に真剣に取組む姿勢は、JAや地域に大きな役割を果たす、誇るべきことだ。管内で将来的に農産物の生産を続けるためには、地域農業を支える担い手の育成と、担い手とJAとの接点をいかに構築するかが課題だ。TACには引き続き、現場で直接聞いた組合員の声をJAの事業に活かしてもらうことを期待している。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと TACの活動で地域に貢献
 福岡県 JA筑前あさくら
 代表理事組合長 深町琴一 氏

■JAグループ TACパワーアップ大会2021
 JA全農が17・18日開催

■TAC・トップランナーズJA
 TAC活動のこれまでとこれから
 JAおちいまばり(愛媛県)

■JA全農の資材・技術提案
 〈園芸資材〉うぃずOneソイル、生分解性マルチ、電気柵エリアシステム、はかる蔵・うご蔵
 〈包装資材〉マルシェキット、おいらは防曇袋五郎、らく陳ダンボール、隔壁フレキシブルコンテナ、

■大規模生産者向け 農薬の担い手直送規格

■かお
 農林水産省大臣官房技術総括審議官 兼 技術会議事務局長の
 青山豊久 さん

■シリーズ 進む特定生産緑地への移行(3)
 都市農地のこれまでとこれから
 JAみどり(愛知) 前代表理事組合長 各務鉀一 氏

■クローズアップインタビュー
 農林中金キャピタル(株) 代表取締役社長 和田透 氏

■シリーズ・農研機構のこれから 第5期中長期計画の推進方針(5)
 ロバスト農業システムの研究開発戦略
 農研機構 理事(研究推進Ⅳ担当)中島隆 氏

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