日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2021年9月5日

2021年9月5日

このひと

JA全農のこれから

JA全農
代表理事理事長

野口栄 氏

 

 

新たな領域への踏み出しを
生産・農協・実需者の現場をつなぐ

 JA全農は7月30日通常総代会を開催し、令和2年度事業報告・剰余金処分案を承認。総代会後の経営管理委員会で代表理事理事長に野口栄氏(代表理事専務)が就任した。野口新理事長に、これからの全農事業の展開方向を聞いた。


 

10年後、20年後も「なくてはならない全農」に

就任の抱負から。

 脱炭素や循環型社会、AIやDXの加速化など大きな環境変化のなかで、わが国の農業は生産、流通、消費それぞれの場面で多くの課題を抱えており、いままで以上に全農に対する期待も大きくなっていると感じています。

 いつの時代も「変革の」時代と言われてきましたが、現在は本当の転換期ではないかと強く感じています。環境変化に対応した新しい事業展開が強く求められており、私は先頭にたってその期待に応えていきたいと思います。

 今年度は現行の中期3か年計画の最終年度、総仕上げの年です。「生産基盤の確立」「食のトップブランドとしての地位の確立」「元気な地域社会づくりへの支援」「海外戦略の構築」「JAへの支援強化」の5つの最重点施策の一つひとつに成果を出していくことに邁進します。

 同時に新しい中期計画策定の年でもあります。10年、20年後の環境変化を捉え、それを踏まえて全農がどのような仕事をしていくのか。生産者・組合員のニーズを踏まえて事業を組み立てていかなくてはなりません。10年後20年後も「なくてはならない全農」であり続ける施策をつくっていきたいと考えています。

 

計画上回る実績、取組みに高い評価を実感

今次3か年計画と自己改革の進捗状況は?

 この3か年計画での自己改革も含めた5つの最重点施策は、生産者・組合員の期待にこたえ、また、実需者や消費者のニーズをとらえた取組みであると確信しています。

 生産資材では、肥料の銘柄集約や集中購買、農薬の担い手大型規格の取扱いを拡大して価格引下げを実現し、生産コスト低減に貢献しています。

 共同購入トラクターの取組みも、大型機に続き中型機も目標を大きく上回る台数を取扱うことが出来ています。1万人を超える生産者アンケートを基に、農業法人協会や4Hクラブ、JA全青協などと、現場視点で開発を進めてきましたが、皆様の要望を必要な機能に反映したことが生産者に評価され、需要が結集したと受け止めています。

 作付け提案や契約栽培による米・青果の直接販売の拡大、加工・包装・冷蔵機能を有する青果物直販施設の整備による物流拠点集約など、それぞれ計画を上回る成果をあげてきました。この間の取組みが、生産者・組合員、JAから評価されて結集頂いた成果だと思います。

 

新しい出口戦略に基づく生産提案へ

各分野でのアライアンスの考え方と成果は?

 FOOD&LIFE COMPANIES(旧スシローグローバルホールディング)様への出資や、ファミリーマート様や日清製粉グループ本社様との出資・業務提携をはじめ、セブンイレブン様との共同での商品開発など、大きなアライアンス案件が続いています。生産面でも安川電機様と葉かきロボットや選果ロボットの共同開発にも取組み、商品化間近となっています。このほかにも共同商品開発や物流の提携など多方面にわたるアライアンスに積極的に取組んでいます。

 アライアンスにより、我々の仕事の有り様は大きく変わっています。アライアンス先と出口をしっかり定め、実需者、消費者の要望を生産現場に提案してまいります。産地・消費地のストックポイントを含め、その間をつなぐ新しい物流の構築を考えていく。営業開発部によるMD部会での商品開発も含めた新しい出口戦略に基づく生産提案が出来つつあります。

 新規開発商品として、この7月「農協ごはん」を発売しました。グループ会社化した「JA全農ラドファ」で製造したパックごはんで、農協牛乳、農協たまごに続く農協シリーズとして取組んだものです。少ない量でも手軽に美味しいご飯を用意できることで、米の国内消費を下支えしていく役割も果たしていきたいと思います。

 業務提携や様々なメーカーとコラボすることで、業務需要が広がってきたと思います。この広がりが多方面に波及し、さらに新たな提携先へと広がっています。このような業務提携・事業連携の成果を生産の場に活かすことで、生産者の所得向上につなげていきたいと思います。

 アライアンスは人事交流面での成果も生んでいます。全農とメーカーの職員・社員が互いに交うことで、各々の立場から新しい商品や産地開発を考える。我々も外部からの意見や新しい情報を聞くことで鍛えられ、メーカーのみなさんも生産現場の実態や国産農畜産物の価値を知ることができるいい機会にもなっています。

 

JA経済事業の収支改善は全農事業そのもの

JA支援の取組みのこれまでとこれからは?

 JA経済事業の収支改善はJA全体の経営を大きく左右します。我々は、拠点の整備など経済事業の構造改善へ「経済事業改革の強化メニュー」の設定やJA個別課題をふまえたメニューの充実により、都府県本部を中心に支援しています。

 大型JAや県JAには、農林中金・信連と連携した支援チームをつくり、全体の収支分析から業務効率改善や事業最適化に向けた具体策の策定・実践・進捗管理まで、JAとともに取組んでいます。

 JAの経済事業の確立は、生産者・組合員、農業法人への生産提案につながっていきます。我々の事業そのものと受け止め今後とも力を入れていきます。

 

脱炭素、バリューチェーン、グローバル戦略を視野に

次期計画に向けての視点は?

 これからの全農事業の方向を、2030年をめざして耕種・畜産・くらしの3分野ごとに検討していますが、テーマ別に全体戦略を策定してまいります。

 1つ目は生産振興です。消費者・実需者ニーズに対応した生産提案や労働力支援の強化です。Z-GISなどの営農関連システムを通じたDXによる営農支援やスマート農業の拡大が必要です。

 2つ目は、食農バリューチェーンの構築です。インフラの整備や物流の機能強化が必要です。AIやデジタル化のなかで物流対策をこの10年でどのように構築していくのか。それぞれの品目をつなぐ新しいプラットフォームが必要になってくるでしょう。

 3つ目は、グローバル戦略・海外戦略です。これからの10年で国内需要はさらに縮小するでしょう。現在の農畜産物の生産基盤を守るためには海外に供給先を求める必要も出てきます。商品開発を含めて海外対策を強化していかなくてはなりません。

 4つ目は、地域共生や地域活性化戦略です。地域の人口減少に対応し、組合員の生活をカバーするインフラ整備と地域循環を基本とした食のサプライチェーンや再生可能エネルギー普及に取り組んでまいりたいと思います。「地域活性化」「環境対策」「ライフライン支援」の一体的戦略を構築してまいります。

 5つ目は、環境課題への対応です。脱炭素・グリーン化戦略を生産現場にいかした環境保全型農業の拡充と農畜産物の加工・流通・販売における環境負荷低減の取組みです。
 こうした視点で、10年後を見据えた目標を策定する形で新しい中期計画を検討しています。

 

今の領域に留まることなく、より現場に出ていく

職員のみなさんに訴えたいことは?

 今の領域に留まるのではなく、我々は新しい領域に出ていかなければなりません。そのためには、より生産現場に、よりJAの現場に、そしてより実需者・消費者の現場に出ていく必要があります。そしてその実態や要望をつないでいくのが我々の役目です。
 例えば、畜産分野では我々が農場を経営し、子会社を含めて生産基盤を維持し、飼料の供給や畜産物の販売に繋げる一定のバリューチェーンを構築しています。耕種部門でもこれまでのようにアライアンスにより実需者・消費者のニーズをくみとり、農業生産現場への提案と支援をスピード感をもって対応していくことが求められています。


〈本号の主な内容〉

■このひと JA全農のこれから
 JA全農
 代表理事理事長 野口栄 氏

■イチゴ定植期の病害虫防除のポイント
 栃木県農業試験場 研究開発部病理昆虫研究室長
 野沢英之 氏

■かお 林野庁長官に就任した 天羽隆 さん

■全農のスマート農業推進の取り組み
 JA全農 耕種総合対策部スマート農業推進課
  平野幸教 課長に聞く
 栽培管理支援システム ザルビオ フィールドマネージャー
  石川県白山市 (株)六星の利用例

〈蔦谷栄一の異見私見〉自然循環機能を維持増進する農業に

 

(第2部 米の生産・集荷・検査・保管・流通)

■JA全農における 消費者ニーズに応えた米の調理済み商品開発・販売拡大の取り組み

■令和3年産米の 検査・保管にあたって
 JA全農 米穀生産集荷対策部
 金森正幸 部長

■令和3年産米に対する検査への期待
 全米販 業務部
 村上豪 部長

■令和3年度 米のカントリーエレベーター品質事故防止強化月間
 8月1日~10月31日

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