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日本農民新聞 2019年4月25日号

2019年4月25日

JA全農 代表理事専務 岩城晴哉 氏このひと

全農 新3か年計画のめざすもの

 

JA全農
代表理事専務

岩城晴哉 氏

 

 

国内総産出額10兆円台復活へ
次代の担い手に夢と希望をメッセージ

 

 JA全農は、3月26日の臨時総代会で、平成31~33年度の3か年事業計画と31年度の事業計画を決定した。新たな3か年計画は「全力結集で挑戦し、未来を創る」をキャッチコピーに、自己改革の取組み加速化を掲げている。その基本的な考え方と重点施策などを、全農・岩城晴哉代表理事専務に聞いた。


 

自己改革を加速化

まず、平成30年度事業を振り返って。
 平成30年度は、29年度に組織決定した「『農林水産業・地域の活力創造プラン』に係る本会の対応」、すなわち全農の自己改革に着手した2年目の年と位置付け、取り組んできました。
 本会の自己改革は、29年30年の2年間を通して計画通り進捗し、組合員、会員JA、行政、そしてメディアからも一定の評価をいただいたと受け止めています。しかし、この成果はあくまでも通過点であり、これを土台に31年度からの3か年計画をすすめ、自己改革を加速化していきたいと考えています。

 

5年、10年後を見据えて

事業を取り巻く情勢と「新3か年計画」の目指す方向は?
 国内では、農業就業人口の減少や大規模営農への農地集積の加速、単身・共働き世帯の増加による中食・外食需要の増加など、生産、流通、消費構造が急速に変化しています。一方国外では、イギリスのEU離脱問題、米中貿易摩擦、中東情勢の不安定化など、“不透明な海外情勢”が続いています。また、農政面ではTPP11、TAG、日欧EPAなどの貿易自由化の流れが進行しています。
 3月の臨時総代会では、こうした事業環境を的確に見極めて5年後、10年後を見据えた全農の目指す方向を提起するとともに、新3か年計画では、次の5つを目指す方向に掲げました。
 第1は、作物別、品目別に戦略を策定し、農業産出額を計画的に拡大することです。29年9.3兆円の国内農業産出額は、ピーク時に比べ2.4兆円も減少しています。我々は10兆円への復活を目指していきます。これにより耕作放棄地の拡大に歯止めをかけ、次世代の担い手やこれから20年、30年農業に取り組もうとする若手に、夢と希望を与えるメッセージを伝えたいと考えています。
 では、総産出額を上げるためにどのような戦略があるのか。産出額9.3兆円は、数量ベースでは国内産4300万tの食料代金に相当します。。日本は年間8600万tの食料を消費しています。従って、差し引き4300万tを輸入商材が占めていることになります【表「28年度食料需給表」参照】。この輸入に依存しているマーケットを奪還していきます。
 そのため、「米など国内需給を賄う品目の完全自給」「大豆、小麦、生乳など需要に対して不足している品目の生産拡大」「野菜など輸入量の多い品目の国産への転換」「和牛や高級果実など国際競争力のある品目の輸出」の4つの品目別戦略を策定し、県別、地域別に品目拡大計画を立て、生産量を拡大していく考え方です。
 第2は、マーケットニーズに対応した販売戦略の構築です。素材中心の生鮮食品分野の販売拡大がベースとなりますが、それと同時に、加工食品の対応強化、さらには国産を原料とした付加価値の高い商品を開発し、多様な販売チャネルで国産農畜産物のトップブランドの地位を確立していきます。
この2つの川上・川下戦略を車の両輪として、農業総産出額を段階的に拡大していこうと考えています。
 第3は、元気な地域づくりへの支援です。元気な地域社会がなければ川上・川下戦略も実行できません。そのためには、各事業別の投資に加え、ライフラインの充実やインバウンド需要を取り込んだ農泊事業の展開なども支援していきます。
 第4は、急変する海外情勢に対応した海外戦略です。前述のように不透明な海外情勢への対応策として、例えば、飼料や肥料原料などの調達先を多元化することにより、調達力を強化していきます。また、他国の農協組織や海外サプライヤー等との関係強化や海外拠点の整備による安定した原料・資材の調達に取り組みます。
 輸出は、国内産地の輸出促進を図る輸出対策部と輸出実務を担当する全農インターナショナルの2つの部隊が担当しています。この体制を設立して2年目となり、牛肉、米、青果の輸出事業の大枠の仕掛けが出来上がりました。今後の3か年でエンジンを全開する段階に入っています。
 そして第5が、会員還元の最大化です。全農への全力結集の結果として、最大の利益還元を図りたいと考えています。前段の4つの方向を実現するには、JAグループ内の機能分担を見直して、JAグループ全体の運営コストを削減する必要があります。JAとの間で物流の合理化、拠点事業の一体運営・受託、生産者への品目提案手法などを協議して、会員還元の最大化を実現していきたいと考えています。
 今次3か年計画では、自己改革の取り組みを加速するとともに、これら5つの「めざす方向」の具現化に向け、「自己改革の加速化」「食のトップブランドとしての地位確立」「海外戦略の構築」「生産基盤の確立」「元気な地域社会づくりへの支援」「JAへの支援強化」を6つの柱を基本に事業を展開します。

 

米、生産提案型事業を推進

事業部別の実施具体策は?
 米穀部門では、実需者への直接販売を30年産125万t(58%)の見通しから、3年後の最終年度に70%まで拡大します。また、買取販売も50万t(23%)を50%までに引き上げていきます。特に生産提案では、業務用需要に対応した多収穫米や複数年契約栽培を拡大します。業務用を中心に生産提案型事業を進めていくことをミッションとした米穀生産集荷対策部を新設しました。

 また、全農と基本姿勢を同じくするコメ卸や実需者への出資、業務提携も進めていきます。

 

国産冷凍野菜シェアアップも

 園芸事業における直販事業は、30年度3300億円の見通しですが、最終年度は4300億円を目指します。
 この1000億円アップの主力は、端境期を中心とした加工用野菜の生産拡大であり、輸入量の多い野菜の国産シェア奪還です。冷凍野菜の国産シェアアップも仕掛けていきます。29暦年の国産シェアは7%に留まっていますが、北関東地域に冷凍工場を設立し、品目ごとに複数県へリレー出荷を提案し、着実に伸ばしていきたいと考えています。2022年に実施される加工食品の原料原産地表示の義務化の“追い風”をしっかり受け止め、確実に国産の売り場を広げていく戦略です。
 フードマーケット事業部が担当するJAタウンは、30年度42億円の見通しですが、最終年度には100億円達成を掲げています。JAタウンで50億円、ふるさと納税で30億円、新規事業としての業務用飲食店向けBtoB販売で20億円の計100億円の計画です。
 また、3月にはJR品川駅構内に国産商材100%の中食モデル店「みのるみのるキッチン」を出店しました(詳報4面)。多くの食材を輸入に依存する中食業界における国産商材の需要拡大をめざします。ご利用いただければ幸いです。こうした国産・地産食材による飲食・中食店舗に取り組みなど、リテール事業を強化していきます。

 

5拠点核にビジネスモデルづくり

 輸出事業では、昨年8月香港、台湾に現地法人を開設し、既存のアメリカ、シンガポール、イギリスを含め、海外5拠点となりました。
 品目別では、牛肉はアメリカで立ち上げた包装加工の合弁会社が本格稼働しました。牛肉のすべての部位を有効に販売することと、スライスカットのマーケットを新規開発することを目的に、ビジネスモデルも確立されました。この方式をアジア圏等に水平展開していきたいと考えています。
 青果は常設棚を確保するために、リレー出荷を確立することから始めています。また、パック機能を持つ現地の加工会社等と連携を強化し、リパックから加工・配送まで一体となったビジネスモデルをつくりたいと考えています。
 米は、最大の輸入国である中国への輸出拡大を、米穀部、全農パールライスと連携して着実に進めていきます。香港、シンガポール、台湾向けは、所得層別マーケティング、eコマース、海外で店舗運営する外食団体等との商談強化等で、着実に伸ばしていきます。

 

コスト低減具体化進む生産資材

 生産資材事業部門では、各事業においてコスト低減の取り組みが着実に進んでいます。
肥料では、一般化成肥料550銘柄を25銘柄に集約し、30年度は11万tの予約を積み上げました。31年度は、銘柄集約と飼料用米や多収穫米をターゲットに、ブロックごとの銘柄を選定し集約します。
 農薬は、担い手直送規格の取り扱いが、30年度353JAで8万㏊の供給計画を達成する見込みです。31年度は対象品目を29から43に増やし、486JAまで取扱拡大するとともに、12万㏊達成を目指します。
 農機では、共同購入トラクターが30年度600台の目標を上回り800台を超える納品実績となる見込みです。この3か年で2400台の目標達成に向けて取り組みます。

 

飼料原料安定調達へ多元化

 飼料事業では、30年度に配合飼料の供給体制整備として、西日本で倉敷新工場、北海道で合弁会社を通じた製造供給体制を実現させました。海外では、米国だけでなく、ブラジル、カナダの飼料原料の調達拡大に取り組んでいます。
ブラジルでは地元穀物業者と合弁会社を設立し、内陸産地から輸出までの一貫供給体制が出来上がり、33年度320万t(30年度265万t)の取り扱いを目標としています。カナダでも豪州穀物業者と合弁会社を立ち上げ内陸集荷施設を拡大、輸出施設運営会社も合弁で設立し、33年度には129万tを取扱う計画です。

 

生産振興支援と商品開発両輪に

 営業開発部では、前段の販売戦略の具現化にむけてMD企画課をこの4月に設立しました。量販店、コンビニ、eコマース、各販売先に向けた国産農畜産物を原料とした商品開発がミッションです。ここには食品メーカー、商社、eコマース事業者等に当初からメンバーとして参画してもらいます。彼らと連携した商品づくりで、まず売場を確保して商品を開発する手法です。これから多くの商品が店頭に並ぶと思いますので、大いに期待していただきたいと思います。
 生産振興では、JAによる生産振興やTAC活動の支援、生産性向上に繋がる品種や栽培技術の開発・普及と同時に、ICT技術の普及も行います。これらの生産振興策と、全農グループのMDが両輪となってバリューチェーンを構築していくことがねらいです。
 併行して労働力支援も本格化させます。パートナー企業と連携した農作業受託事業や、モデルJAでの農福連携に取り組みます。地域ごとの実態を踏まえた出荷作業や農業作業を通じて、障がい者の方々の社会参画を支援する農福連携は、地域の活性化にもつながり地方創生の核になる取り組みと位置付けています。
 そして、スマート農業も加速化させます。全農のクラウド型生産管理システムZ-GISは、30年度190組織の利用でしたが、33年度には1000組織まで普及拡大します。(詳報5面)

 

3年で事業分量4000億アップへ

3年後の全農の姿を。>
 30年度の取扱高は4兆6000億円の見通しで、3年後の最終年度は5兆円を計画しました。3年間で4000億円の事業分量アップです。
 日本の農業総産出額をアップさせることで、全農の事業分量を拡大させる。全農グループが産出額を伸ばす取り組みをすることで、現状の9兆3000億円が9兆7000億円になり、そして次の3か年計画では10兆円の大台も守備範囲になると確信しています。
 その計画を達成するための仕掛けづくりとして、施設投資も前3か年計画の2倍の1150億円を計画しています。
 そして、「全力結集で挑戦し、未来を創る」のキャッチコピーの下、結集いただいた成果を会員に還元します。最終年度は事業利益で29億円、事業利用分量配当20億円の計画を確実に達成したいと思います。


〈本号の主な内容〉

■このひと 全農 新3か年計画のめざすもの
 JA全農 代表理事専務 岩城晴哉 氏

■全農31~33年度事業別実施具体策・行動計画

■全農都府県本部・県域JAを組成した県域による
 地域生産振興・販売力強化に向けた取り組み

■全農自己改革の取組状況

行友弥の食農再論「平成とコンビニ」

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