日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2021年7月2日増刊号

2021年7月2日

千葉県農林水産部千葉農業事務所槇晋介副主幹このひと

データ活用による野菜振興

千葉県 農林水産部
千葉農業事務所 副主幹
槇 晋介 氏

生産から消費まで総合的・定量的に把握
品目の実態を関係者が共有し効果的な対策を

農業経営や産地を継続させ拡大するためには、現状を知り、次に何をすべきかを見極めることが欠かせない。野菜作において何を作り、どう売るかの判断は、将来を大きく左右する。その材料として重要なのが各種の統計データだ。ただし、膨大なデータ群から必要な情報を選び取り効果的に活用することはなかなか容易ではない。そのヒントを、書籍『野菜データの「見える化」―データ活用による野菜振興』(農林統計出版)を著した千葉県農林水産部千葉農業事務所副主幹の槇晋介氏に聞いた。


品目を多角的・俯瞰的に捉え

野菜データの「見える化」とは?

 産地振興や経営改善に効果的な対策を行うためには課題を正確に把握することが大切となる。野菜は品目ごとに主要産地や生産状況、需給情勢、消費動向や輸出入の動き等が異なり、言葉として「トマトの消費が伸びている」や「枝豆は輸入が多い」というイメージは持っていても、品目の全体像を客観的・定量的に把握することは、なかなか難しい。

 個々の情報は統計等データで得ることはできるが、品目の全体像を把握するためには、各データにとどまらず総合的な視点で捉える必要がある。

 この本は、品目を多角的・俯瞰的に捉えることで、全体像を誰の目にも明らかにする試みで、それを今回、「野菜データの『見える化』」と表現した。

 各品目の全体像を捉える方法として、まず産出額をはじめ、生産・市場流通・家計消費・輸入に関する12項目の時間変化をレーダーチャートで示した。その形状から各項目の増減の様子や他の項目との関係性を視覚的にわかりやすく現した。

総合的なデータの共有が必要

取り組みのきっかけは?

 きっかけの一つに、私が野菜振興に携わっていた際、各品目の現状を十分に説明することができなかったという苦い経験がある。産出額や作付面積等のデータはもちろん調べたが、市場流通における販売状況、消費動向、輸出入の有無等、関連する情報は多岐にわたることから、それらを総合して分析・説明することができなかった。また、説明するために各品目について勉強をしようと思っても、栽培技術に関する資料は数多くあるものの、様々な視点から分析した上で品目の全体像を示した資料は見つけられず非常に苦労したという思いもある。

 もう一つは、産地や卸、研究・指導機関等の様々な分野の関係者と連携して品目振興に取り組んだ際に、各分野のデータを整理・活用する必要性を感じた経験がある。その際は、効果的な事業推進のため、私なりに統計等データを用いて千葉県の品目について「見える化」に取り組んだ。県の主要品目についてある程度のところまで「見える化」することができたので、この延長で品目を拡大した全国版も作れるのではないかと思いたった。

統計データ土台に産地独自のデータを

「見える化」手法のポイントを

『野菜データの「見える化」―データ活用による野菜振興』 多様な統計情報の中から使用するデータを選ぶ際は、一定のテーマを設定した上で、その目的に沿ったものに絞ることが大切だ。

 本書では品目ごとに需給に係る基本的な項目(産出額、生産~市場流通~家計消費、輸入の状況)を中心に整理した。

 例えばトマト。野菜では産出額が最も大きい品目だ。一般的には、「スマート農業の導入等で単収が上がっており、需要も拡大している」と言われることが多いと思う。

 そうした傾向は確かにレーダーチャートでも示されている。栽培面積はそれほど増えていないが、単収増に伴い出荷量が伸びており、家計消費の増加に加え、市場単価も上昇している。

 これをもう少し細かく分析し、冬春トマト、夏秋トマトに分けて見ると様相が少し変わってくる。単収は、環境制御技術の活用が進む冬春トマトでは増加傾向にあるが、夏秋トマトでは伸び悩んでいる。もっとも、単価は冬春トマトより夏秋トマトの方が高い。家計消費で見ると、冬春トマトの消費量は確かに伸びているが、トマト全体でみると、最近はやや伸び悩んでいるように見える。さらに生産・市場流通について掘り下げると、出荷量や入荷量の増加を支えているのは、実はミニトマトといったことも見えてくる。

 このように、全体像を基本として個々の項目を深掘りしていけば、その姿はより明確になる。品目の全体像を捉えておくと、実需者や種苗業者等から新品目の提案があった時も、その理由や背景を想定でき、提案に応じるべきかどうかの判断基準が得られると思う。

 基本となる統計等データとしては、農林業センサスや野菜生産出荷統計(農林水産省)、貿易統計(財務省)、家計消費状況調査(総務省)、市場取引情報(中央卸売市場等)など、品目ごと、用途ごとで無数にある。また、各自治体でもホームページ等で様々な独自データを公開している。さらに一歩踏み出した品目振興を行う際には、土台となるこうしたデータに加え、産地独自のデータや知見等を加味することで、情報の精度を高める必要があるだろう。

 総合的な視点でこれらのデータを選択・活用できれば産地や個々の農家経営においても視野が広がり、非常に有意義であると言えよう。

 ただし、多岐にわたる統計等データについて、横串を刺して整理・分析する取組は難しい面もあると思う。本書がそのための一つの入り口になれば幸いである。

チャンスはいろいろな品目に

具体的にはどのように役立つか

 栽培品目を選ぶ際には、当該地域の栽培環境や品種特性、販売トレンド等といった情報を考慮すると思われるが、検討の精度を高めるためには、これに加え、当該品目を取り巻く情報を幅広く把握した方がよいと思う。

 輸入を例に挙げると、生鮮品として輸入される場合と冷凍品や塩蔵品で輸入される場合とでは競合する状況が異なる。例えばブロッコリーは輸入が多いと言われるが、実は生鮮品としての輸入は減っており、おそらく加工・業務用で使用される冷凍品としての輸入が大きく増えている。このため、「安価な輸入が多いから勝負にならない」と諦めるのではなく「家計消費向けの生鮮品なら端境期や需要期であれば勝負できる」という選択肢も見えてくるのではないだろうか。

 家計消費について見れば、伸びている品目と伸びていない品目とでは、販促の手法に違いが出てくるだろう。家計消費が伸びている品目であれば、他産地との差別化を狙う方法が効果的であり、家計消費が伸び悩んでいる品目であれば、消費拡大のため、産地を超えて品目自体を盛り上げる対策が有効になるはずだ。

 千葉県では産地と関係機関が連携して、ねぎの端境期である5月に生産を拡大させようと進めてきた。東京都中央卸売市場のデータを用いて各月における過去5年間の平均を算出すると、確かに5月は入荷量が減少して高単価となっており、栽培は難しいが、取り組む意義は極めて高かったことが再確認できる。

 このように考えていくと、実は各品目にまだまだチャンスがあるのではないかと思う。

「見える化」で引き継ぎもスムーズ

データ活用に向けたメッセージを

 野菜データの「見える化」も重要だが、その情報を継続して更新していくことも大事である。品目振興は幅広い分野にまたがることから、ある程度の知識と経験が必要である。仮に異動で経験の浅い者が担当した場合も、品目に関する様々なデータがしっかり「見える化」され、情報がスムーズに引き継がれていれば、速やかに品目振興に取り組むことが可能だろう。

 野菜は今、国産志向の高まりや国が主導する水田における生産推進など、非常に注目されていると思う。また、食生活において欠かせない重要な食材であり、販売方法も多岐にわたる。輸入野菜がたくさん国内に入ってきているということは、国産野菜にはまだまだ飛躍する余地があるということだ。農家や産地、関係機関におかれては、ぜひ統計等データを活用いただき、それぞれの強みを見つけ出すことで、品目振興につなげていただければと切に願う。


〈本号の主な内容〉

■このひと データ活用による野菜振興
 千葉県 農林水産部
 千葉農業事務所副主幹 槇晋介 氏

■第29回JA全国大会にむけた組織協議のポイント
 JA全中 専務理事 馬場利彦 氏

農水省幹部人事〔7月1日付〕

会長に栗原隆政氏(鳥取)=家の光協会総会

■農林中央金庫2020年度決算とCXの方向
 農林中央金庫 理事兼常務執行役員 伊藤良弘 氏

■農業系教育機関のいま
 摂南大学 農学部長 久保康之 氏

■夏秋期に向けた野菜の病害防除
 農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域 農学博士 窪田昌春 氏

■夏秋期に向けた野菜の虫害防除
 農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域長 長坂幸吉 氏

■野菜作の土壌伝染性病害の防除
 農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域 農学博士 吉田重信 氏

「施設園芸・植物工場展GPECin愛知」を7月開催へ=日本施設園芸協会

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