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農作業安全対策の強化へ農機の安全性能強化、検査制度の見直し等=農水省

2021年5月10日

 農水省は農作業安全対策の強化に向け、これまで農作業安全検討会で、農業機械の安全対策の強化や関係法令における対応の徹底等、幅広い観点の対策について議論を重ね、このほど、中間とりまとめ(案)を検討した。

 中間とりまとめ案では、国民への安定的な食料供給を担う農業の現場において、担い手の確保に極めて重要な要素である労働安全が未だ十分に確保されていない状況に対し、農水省をはじめとする行政、農業者団体、農業機械メーカー等の農業関係者は強い危機感を抱くべきであるとして、農業機械メーカーを含む農業関係者に農作業環境の安全対策及び農業者の安全配慮の取組に係る対策を幅広い観点から更なる積極的な展開を求めた内容となっている。このうち、「農業機械の安全性能の強化」「安全性検査制度の見直し」の概要は枠内の通り。

〈農業機械の安全性能の強化〉
▼事故の発生状況や機械の安全指針、海外や他分野の機械における安全性能の現状等も踏まえ、農業機械が具備すべき安全性能に関する基準を逐次見直し、新たな基準に適合するものが広く販売される環境をつくる必要がある。また、今後、安全性能に関する基準の強化が必要なものとして、まずは以下の項目について検討を開始すべきである。
 ①シートベルト非着用時警報装置…乗用型トラクターの「転落・転倒」は、農作業中の死亡事故の最大要因であるが、交通事故データから、シートベルトの着用によって事故時の死亡率を8分の1に低減できることが明らかになっている。乗用車や貨物車では、道路運送車両法に基づく道路運送車両の保安基準の中でシートベルト非着用時の警報装置の装備が義務化されており、この警報装置は後部座席にも適用されるなど、その対策は徐々に強化されてきている。
 ②離席時に可動部への動力伝達の遮断等を行う装置…乗用型トラクターの「回転部の巻き込まれ」は、座席を離れて機械の調整などを行う際に可動部に巻き込まれること等により重篤な事故が発生していることなどが明らかになっている。こうした事故を防止するため、正しい位置に着座していない場合に、可動部への動力伝達の遮断等を行う装置が開発され、EUでは既に乗用型トラクターへの装備が義務化されているが、国内メーカーが製造する国内向けの型式には装備されていない。
 ▼農業機械においては、機械作業に習熟した者が使用するという前提の下、機械の安全指針に定められた優先順位に沿った機械の設計が十分に行われていない機種や型式が存在する可能性がある。このため、継続的に市販中の農業機械の検証を行うとともに、海外や他分野の機械における安全性能の現状等も踏まえつつ、農業機械が具備すべき安全性能に関する基準を逐次見直し、これに即した農業機械の製造を促すべき。なお、この見直しに当たっては、全産業の労働者の平均年齢が43・1歳であるのに対し、農業従事者の平均年齢が67・8歳と大幅に高齢化が進んでいる産業で使用される機械であるということも考慮する必要がある。

〈安全性検査制度の見直し〉
▼農研機構で、農業機械メーカーの依頼に基づき、農業機械が具備すべき安全基準を満たす型式であることを確認し、証票の添付を認める安全性検査制度について、近年、受検申請型式が乗用型トラクターなど一部の機種に偏重している。このため、農業者が農業機械を新たに導入する際に、農業機械が具備すべき安全性能を有する型式を容易に選択することができるよう、安全性検査の受検率の向上等に向け、特に以下の点について、現行制度の見直しに向けた検討を開始すべき。
①検査手続きの簡素化等について…新たな型式の場合、現状では実機による検査の実施から合格発表までに概ね2か月程度の期間を要しており、受検の相談開始時期から起算すれば更に長期間を要している。加えて、検査日はメーカーの担当者が立ち会うことが基本とされているなど、農業機械メーカーにおける人的・経済的な負担は小さくない。このため、農業機械メーカーにおいて検査基準との整合を確認した書類等を農研機構が審査することで合否を判定する仕組みを導入するなど、検査の適正性は確保しつつ手続きを簡素化するとともに、検査手数料を低減する手法についても検討を行うべき。
 ②わかりやすさの向上等について…安全性検査は、合格機に対して証票の添付を認めることで、農業者における安全性能の高い製品の選択を促すものであるが、現在、2018年基準と、より高度な検査基準の2019年基準が過渡的な措置として並行して運用されている。また、各検査基準ごとに、より高い安全性能を有する型式を上位ランクとして「2つ星」を与える仕組みも運用されていることから、全体で4段階の評価が存在する状況となっており、農業者が製品を選択する上でわかりづらい仕組みとなっている。受検率の向上の観点を重視して検査基準を見直すとともに、できる限りシンプルな仕組みとして再出発することが望ましい。
 ③検査基準等の明確化について…農業機械は極めて多様な条件下で使用される特徴があるため、機種ごとに詳細な検査基準を設けても、使用時のリスクを完全に回避することは難しい。このため、国際的な安全設計の考え方も参考に、農業機械メーカーが製品ごとに使用が想定される状況等に応じてリスクアナリシスを行い、本質的な安全性の高い機械を設計することを期待し、機種統一の基本的な考え方を示した検査基準へと改善されてきた。一方、農業機械には極めて生産台数が少ない型式もあり、現実的には、農業機械メーカーが全ての型式についてこうした対応を行うことは難しく、安全性検査の受検を難しくしている面がある。また、検査基準については、年度当初に農研機構が農業機械メーカー等向けの説明会を行った上で検査依頼を受け付けているが、受検後に検査基準の解釈の違いなどが生じると依頼者側の大きな負担となる。このため、農研機構においては、具体的な安全装備の例を示す、検査基準に係る相談窓口を設ける等の対応を講じたり、機種によっては検査基準を具体的なものに見直すこと等についても検討すべき。
 ④購買行動につながる対応の強化について…安全性検査の受検率の向上を図るため、農業者における安全性検査の認知度を向上するための取組として、各農業機械メーカーがWEBやパンフレットで製品紹介を行う場合の表示ルールを定めるなど対応を強化することが重要。また、農水省は、農業者の型式選択に当たって合格機にインセンティブを与える仕組みとして、例えば、保険料の割引制度などについて関係事業者への働きかけを行うなどの取組も積極的に展開すべき。
 ▼安全性検査制度の見直しに当たっては、機械の製造実態など技術的な観点から十分な検討を行う必要があることから、農研機構や関係する農業機械メーカー等の専門家からなる安全性検査制度検討部会(仮称)を本検討会の下に設置して検討を行うとともに、本検討会における議論も経て一定の見直し案を作成し、同機構に提示することが妥当。併せて、安全な農業機械の普及を図るため、農林水産省は、各機種の出荷販売台数に占める安全性検査に合格した型式の割合や型式名について把握し、本検討会に報告するとともに、農業者に情報提供を行う等の取組を行うべき。

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