農林中央金庫 新たな執行体制~そのねらいと背景~
農林中央金庫
代表理事兼常務執行役員最高執行責任者
八木 正展 氏
柔軟かつ迅速な業務遂行へ
事業環境の変化のスピードに対応
農林中央金庫は、この4月から機構を改正し新たな執行体制のもとでの事業展開を始めている。専務を置かず15人の常務のもと事業環境の大きな変化にスピード感をもった柔軟かつ迅速な業務遂行をめざす。新執行体制のねらいと背景を、新たに代表理事兼常務執行役員最高執行責任者に就任した八木正展氏に聞いた。
重構造をフラット化、機動的にサポートし合う
■機構改正の概要とねらい、新たな役員体制の考え方は?
代表理事5名体制から、専務を置かず奥理事長と最高執行責任者の私の2名が代表理事となりました。全体の役員数をピーク時から30%減らすとともに、新たに理事3名、執行役員4名を登用。その上で、15名全員を執行役員とし、奥理事長のもと14名を常務執行役員として役割分担と責任を明確化し、柔軟かつ迅速な業務遂行に向けて機動的な執行体制としました。
奥理事長の例え話を借りれば、ラグビーチーム15人にはフォワードやバックス等それぞれの役割があるように、各常務も食農やリテール、コーポレート等の役割を持ちながら、一人ひとりがポジションでの役割を発揮しつつ、ONE TEAMとなって、機動的にお互いをサポートしていこうということです。私は奥理事長キャプテンのもと、役員全員の動きを見ながらサポートしていく役割を担っていくことになります。
ご案内の通り、金融事業を取り巻く環境が非常に厳しくなっており、JAの皆さんにも様々とお願いをさせていただいている中で、農林中金としても、経営基盤の強化にむけ役員の削減をはじめ本店売却等によるコスト削減、人事制度の見直しなどを進めており、その一環とも捉えております。
一方、役員を減らしたからといって業務が減るわけではありません。むしろ環境変化に応じ多くの課題が発生し守備範囲は広くなっています。少ない役員の中で素早く課題解決していくためには、役員の重構造をなくしフラット化した方が、双方向の情報のやりとりのスピードも早くなると考えました。それぞれの役員が自分の課題、テーマに責任をもって取組んで決定していくことが一つのねらいです。
これまでの本部制は残していますが、本部を跨って分掌する役員もいます。世の中の変化のスピードが激しいなかで、事業本部間を跨るような課題が出現することも多くなりました。これまでなら組織を変えて新たな部署を設置するなどで対応してきましたが、それではスピード感がでないことから、組織ではなく役員の分掌のあり方を変えることで、役員が各部署をブリッジしながら対応していくやり方にチャレンジすることになりました。特に、新たな課題を部署の誰が担うのか抜け落ちることがないように、役員はしっかり目配りすることが大切だと心得ています。このフラット化の考え方が、より機動的であることを、職員に対してもよく説明し、内外にも理解していただけるよう努めていきます。
非連続な変化のなか事業間にブリッジ
■改正に至った事業環境や背景は?
大きくは、新型コロナウイルスの感染拡大、気候変動に対応した脱炭素社会に向けた動き、デジタルイノベーションの進展等々、非連続な新たな課題が地球全体を覆っています。特に気候変動は非常に大きな課題で、企業は収益を追求する前にSDGsやESGへの対応に、組織として取組んでいくことが求められています。現行の中期計画では、改めて新しい課題や目標を掲げ具体的に取組んでいきたいと議論をすすめています。
コロナの感染拡大によりライフスタイルも働き方も大きく変わり、テレワークの導入も加速しましたが、一方で対面で仕事を行う良さも改めて認識したのではないでしょうか。組織のおかれている状況はそれぞれ違うと思いますが、いろいろな選択肢が増えるなかで、例えばテレワーク100%と対面100%のどちらか、ということではなく、状況に応じてバランスを考えていかなければなりません。それが職員の新たな働き方にも資し、満足度向上にもつながると考えます。
これまでは、全国一律での事業展開が可能な時代が、組織としても業態としてもあったのではないかと思います。しかし、非連続な変化が次々と起こるなかで、各JAが直面している課題もそれぞれに異なってきました。それらの新たな課題に柔軟かつ機動的に解決していくことが重要になっています。その意味でも、今回の執行体制のような役割のブリッジのような形が必要になっていると考えます。その面でも役員体制も機構も柔軟にしたアジャイル的な対応がますます求められてくると思います。
もちろん、銀行として堅確性が求められる業務については、従来のヒエラルキーを維持しつつ、しっかり取組んでいくことが必要ですが、それ以外の仕事が金融機関に求められていると認識しています。
子会社への機能移管でチャレンジと人財育成
■主な具体的な改正点は?
農林中金の運用リソースやノウハウを農林中金全共連アセットマネジメント(NZAM)に移管しました。NZAMは従来、株や債券のパッシブ運用を中心に事業を展開してきましたが、農林中金本体で培ってきたクレジットやオルタナティブ等の投資ノウハウはNZAMで充分対応できると判断しましたし、JA共済連、さらには系統の資金のほか外部資金を取り込み、ビジネスとして通用するのではないか、という思いのもとに一緒にチャレンジしていくことになりました。
特に、低金利が続くなかでの系統の運用ニーズに応えられるような資産運用ビジネスを展開して欲しいと思います。また、信用事業、共済事業の連携でそれぞれの得意分野を発揮する一つのモデルになることを期待しています。
グループ会社は、もっともっと機能を発揮できるのではないか、新しいことにチャレンジできるのではないかと思っています。その一環として、グループ会社の社長を現役職員にしました。現役職員にトップ経験を積んでもらうことは、ビジネスパーソンとしての貴重な成長の機会ともなります。“人の成長”は大きなポイントです。先ほどもお話しましたとおり、今回の役員体制において役員数が減ることで、個々の役員の持つ課題は増えることになり、従来よりも部下に任せざるを得ない部分が増えることになります。役員は部下に仕事を任せることで、部下が成長する。子会社のトップ経験も同様です。人財の育成は組織の基盤です。
現場課題にソリューションを提供
■JAグループ役職員、組合員・利用者へのメッセージを。
農林中金の役割は収益と機能の還元が2大柱で、特に収益還元に重きをおいてきました。しかし、金融機関を取り巻く環境は非常に厳しく、低金利が長く続くなか、生き残りをかけた運営が続いています。そうしたなかでも総合事業体であるJAは、その強みが発揮できる土壌をもっています。信用事業はもとより他事業も可能な限りサポートして一緒に汗をかいていきたいと思っています。
地域によって抱えるJAの課題はそれぞれですが、その現場の課題に少しでもソリューションを提供できるよう、新しい柔軟な組織のなかで一所懸命に取組んでいきたいと思います。
〈本号の主な内容〉
■このひと 農林中央金庫 新たな執行体制~そのねらいと背景~
農林中央金庫
代表理事兼常務執行役員最高執行責任者 八木 正展 氏
■農地の集積・集約化の徹底推進を政策提言=日本農業法人協会
■「みどりの食料システム戦略」を決定=農水省
■「農中森力基金」で地域の中核を担う林業事業体を支援
■JA全農2021年度事業のポイント「輸出事業」
JA全農輸出対策部 住吉弘匡 部長