日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2021年3月15日号 第2部

2021年3月15日

農林水産省大臣官房危機管理・政策立案総括審議官村井正親氏アングル

農水省が取り組む災害対応の今後~東日本大震災10年を踏まえて~

農林水産省
大臣官房 危機管理・政策立案総括審議官
村井 正親 氏

食料供給リスクの国民的共有を
収入保険、農業版BCP等備えを支援

 東日本大震災、新型コロナウイルス、家畜伝染病等、予測しがたい大きな災害と新たなリスクの発生が、我々の〝食〟を脅かしている。農水省危機管理・政策立案総括審議官の村井正親氏に現状認識と今後の対応策について聞いた。


経営再開、さらなる前進を後押し

東日本大震災から10年、復興の現状認識は?

 津波被災地域のインフラは、農地、農業用施設を含めて総じてほぼ復旧が完了した。その中で、順次経営が再開している。今後とも、輸出促進等、国全体の農業政策の流れの中に被災地域の農業経営をきちんと位置づけ、農業者の方々に頑張っていただけるように後押ししていきたい。

 ただ、福島県の原子力災害被災地は明らかに回復の状況が遅れている。その復興再生をこれからどうしていくのか、来年度から「第2期復興・創生期間」に入るが、最大の課題と捉えている。

 福島県の原子力災害被災12市町村は避難指示解除の状況によって、復興の段階にかなりばらつきが出てきている。昨年4月からは被災12市町村に農林水産省の職員を派遣して現場ニーズを汲み取り、国とのつなぎ役になってもらう体制を取っている。その機能を十分に活かしながら、地域の実情を今まで以上にきめ細かく把握し、復興再生に取組んでいきたい。

 12市町村の現状を踏まえ、戻りたいという方には是非戻ってきて営農を再開して頂きたい。一方で、もう戻らないという方もいらっしゃるのも事実。そうした地域には域外の農業経営者や農業生産法人に入ってもらい、被災地の農業を支える役割を担ってもらうことも考えていかなければならない。

 福島復興再生特別措置法には被災12市町村における農地の利用集積の促進のための措置も盛りこまれた。こうした制度も活用する必要がある。

 また高付加価値産地の形成もポイントのひとつだ。これは、生産者と加工業者などの実需者とをセットにした新しい産地を市町村の枠を超えて広域的に形成し、営農再開を加速化していこうというものであり、福島県でもすでに動き始めている事例もあるが、こうしたモデル的な地域を増やし、さらに横展開していきたい。

食料供給、営農再開へ柔軟に支援

災害への農水の施策の考え方は?

 近年、地球温暖化による気候変動の影響と思われる大きな災害が多発するようになってきている。昨年7月の豪雨や想定していなかったルートの台風等、予測できないような規模の大きい災害が発生している。従来からその都度、災害対応を行ってきているわけだが、経験則を積み重ねる中で、過去には知見がなかったような要素も入ってきているように感じる。こうした新たな要素も加味しながら、災害対応の在り方を検討し、アップデートしていくことを常に考えていかなければならない。

 災害発生時の国全体の対応では、まずは人命第一が基本となる。農水省の所管では農業用のダムやため池等の水利施設が、台風や豪雨の際に人命にかかわる問題を引き起こすリスクがあり、しっかりと初動対応することが求められる。

 大規模災害が発生し避難所が被災地のあちらこちらに設置される状況になれば、次のステップでは避難者への迅速で円滑な食料供給が課題となる。これについては政府のプッシュ型支援の中で役割をしっかり果たしていく。

 そして農林水産業やその関連産業でどういった被害が出ているのか、できるだけ迅速にきちんと把握した上で、被災された方々の心が折れないように支援策を用意し、営農を継続していただくことが重要になる。支援策をスピーディーに決定し、実行していくことが、我々の災害対応の基本となる。近年の予測しがたい災害では、被害の起き方や規模もその都度大きく異なってくる。それぞれの状況にマッチした、柔軟に対応できる支援策を常に用意しておくことを、役所の使命として考えていかなければならない。

 一方、収入保険や農業共済等、事前のセーフティ-ネットを用意させていただいており、こうした仕組みを活用していただくことも重要になる。昨年8月に現職に就いて以降、大雪の被害地等を現地視察し、被災された農業者の方々のお話しを伺ったが、セーフティーネットの内容について現場の方々にまだまだ伝えきれていないと、これは我々の反省として感じている。

 行政や農業共済組合等の団体が一体となって分かりやすく丁寧に情報を提供し、農業者の方々にそのメリットを理解し活用していただくために、常日頃から丁寧に取組んでいくことが大切だと認識している。
セーフティーネットでもカバーしきれない被害が発生した大きな災害では、今後もセーフティーネットと我々の支援策とを組み合わせ、両輪で対応していくのが基本となる。

「農業版BCP」を啓発、普及へ

農業者自身が自然災害等に備えるための支援策は

 農水省として「農業版BCP」を策定した。昨年4月に策定した「食料・農業・農村基本計画」の中にも盛り込まれているものだ。

 災害が多発化する中で、農業者の方々にも事前の備えを考えてもらう必要があるというのが出発点。ただ、いきなり事業継続計画を作って下さいといっても、ハードルが高い。まずは自然災害に備えた対策の項目をチェックし点検するところから始めていただければということで、「農業版BCP」のチェックリストを作成した。その次のステップとして具体的な事業継続計画の策定に進んでいただければと考えている。

 多様なチェック項目を確認していただくことで、経営改善の意識につながるという効果もある。こうした問題意識をもっていただくことで、セーフティーネット加入への意識も高めていただけるのではないか。今後、さらに広めていきたい。

新型コロナに対応し改正

「緊急事態食料安全保障指針」の今改正のポイントは

 食料供給に影響が及ぶ緊急事態に的確に対処するため、政府として「緊急事態食料安全保障指針」を策定している。今回の改定のきっかけのひとつは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。地球規模でこれだけ一挙に感染症が拡大するのは、スペイン風邪以来のことではないか。こうした新しい感染症の流行拡大が食料供給にとってもかなりのリスクになるという事実を改めて認識した。

 日本の食料供給は、サプライチェーンが国内にとどまらず世界各国からの輸入にも依存しているのが現状。そのサプライチェーンが切断されてしまう恐れが出てくるというのが一番大きな問題。

 今の日本人の食生活を考えた場合、人口減少の局面に入っているとはいえ、いきなりすべてを国産に切り替えることは、現実問題として難しい。引き続き海外からの一定量の安定的な輸入をどう確保するか、今回明らかとなったリスクを前提として考えていかなければならない。

 一方、国内の生産資源をフルに活用して可能な限り国産の食料を安定的に供給する体制をきちんと構築していく必要性があるということを認識しなければならない。

 今回のコロナ禍で食料の安定供給にリスクが存在するということが顕在化したことを今後の食料供給、日本の農業の在り方をどう考えるか、国民全体の議論となるきっかけにしていかなければならない。我々としても議論を深めていく努力を行っていく。

農業団体、自治体、国、三位一体で

非常事態時におけるJAグループなど農業団体の役割や連携は

 災害や感染症拡大等による食料供給、農業へのリスクを考えると、農業者個々の備えの大切さに加え、JAグループや農業共済組合などの農業団体や市町村、都道府県、国、行政に期待される役割は大きい。それぞれがきちんと役割を果たし、連携してリスクにどう備えていくのか、その体制を作っていくことが重要になる。

 災害による被害が発生して、いざ地域農業をどう立て直していくのかを考えた場合、被害の状況を現場に近いところで一番きちんと把握されているのがJAグループや農業共済組合等の農業団体の皆様だ。その力を我々も頼りにしている。

 被災された農業者の経営再建をどう進めていくのか、行政と農業団体とがきちんと連携しないと、取組をスピーディーかつスムーズに進めていくことは難しい。そのような役割をはたしていただくことを大いに期待している。

 ボーダーレスの時代から時計の針を過去に戻すことはできない。家畜伝染病等を含めて、いかにリスク管理をしっかりやっていくのか、リスクが顕在化した場合いかに被害を最小限に抑えていくのか、常に我々としての体制、対策を考えながら、今後も取り組んでいきたい。


〈本号の主な内容〉

■アングル 農水省が取り組む災害対応の今後~東日本大震災10年を踏まえて~
 農林水産省 大臣官房 危機管理・政策立案総括審議官
 村井 正親 氏

■「みどりの食料システム戦略」の中間とりまとめ案公表=農水省
 耕地面積に占める有機農業の取組面積25%に拡大などKPI盛り込む

■JAグループの「不断の自己改革」の実践で特別決議=JA全中臨時総会
 「持続可能なJA経営基盤の確立・強化」と中家会長

■令和3年産米をめぐるJA全農の対応
 JA全農 米穀生産集荷対策部 栗原 竜也 部長
 JA全農 米穀部 山本 貞郎 部長

■第15回JAグループ国産農畜産物商談会

■全農物流創立50周年

■みどりの食料システム戦略が目指すKPI(重要業績評価指標)農水省が示す

■政府規制改革農林WGが農協改革でJAグループからヒアリング
 「改革成果は活動量ではなく、単協ごとのKPIで」と佐久間座長

■厚生連の健全経営支援など3年度事業計画を承認=JA全厚連

■「第49回」「第50回」日本農業賞の受賞者を表彰=JA全中、NHK

■アグラボ、農林中金等がスタートアップと実証実験
 JR東グループと農薬データ活用、農業経営と地域の発展へ向け連携

■「夢コン2040」最優秀賞はアグリ・コーポレーションの佐藤氏=日本農業法人協会

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