日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2021年1月15日号

2021年1月15日

農畜産業振興機構(alic)野津山喜晴理事このひと

青果物の生産・消費拡大に向けて

(独)農畜産業振興機構(alic)理事
野津山 喜晴 氏
2021年は「国際果実野菜年」
野菜・果物でコロナに負けない免疫力を

 国連は、本年2021年を「国際果実野菜年」と定めた。世界の全ての人々が健康な生活を維持していくために改めて果実・野菜の摂取を推進していく。この国際年設定の背景と趣旨、わが国における青果物の生産・消費の現状と課題、推進策について、農畜産業振興機構(alic)の野菜部門担当理事である野津山喜晴氏に聞いた。


栄養不足人口を世界からなくすために

国連が2021年を「国際果実野菜年」に定めた背景と趣旨をどのように捉えているか

 世界の栄養不足人口は約8億2千万人、全人口の9人に1人と言われ、なかなか減る気配を見せない。SDGs(持続可能な開発目標)では目標の1つに2030年までに飢餓人口をなくすことを掲げているが、その達成はなかなか難しい状況にあることが、大きな背景にある。

 この「国際年」は、一昨年12月の国連総会で中南米やアジアの途上国が中心となり提案し採択された。貧困等による栄養不足が大きな背景となっている。野菜や果実は健康な生活のために非常に優れた栄養素を持つとともに、身近な作物で家族経営などの小規模な農家でも比較的作りやすいことも要因になっている。

 目的は3つ。第1は、野菜と果実の栄養や健康上の利点に対する認識を高め、政策に反映していくこと。第2は、野菜と果実の消費をより促進し、バランスのとれた食事とライフスタイルを実現すること。第3は、食料システムにおける野菜と果実の食品ロスを減らすこと。

 これにそって国や関係団体等と連携し我々も様々な普及啓発活動に取り組んでいくことにしている。

日本の野菜の課題は労働力確保と加工業務用

わが国の野菜・果物の生産・消費の変化と現状をどのようにみているか

 日本の農業産出額はこの30年で11兆円から9兆円に減少した。特に米が激減し畜産物は現状維持、果実も少し減っているなかで野菜は少し伸びている。就農人口は大きく減り農地もじわじわ減っている。食料自給率はカロリーベースで38%までに落ちた。

 野菜の需要は1400~1500万tで比較的堅調に推移している。米の消費が減退するなかで水田を活用した付加価値の高い農業の展開が課題となっており、最近では東北、北陸などの稲作地帯での野菜作が顕著な傾向として現れている。排水対策等を施しキャベツ、タマネギ、ブロッコリーなど特に加工業務用の野菜の生産がさかんになっている。

 新規就農者でも野菜の取組みが多い。さほど大規模な投資が不要で小面積でも始められ、現金化に結び付きやすいことなどから新規参入の大事な品目となっている。

 野菜は1960年代にほぼ自由化されており、昨今の国際貿易交渉の影響も受けにくいことから、今後の日本農業のなかでより重要な位置づけを占めていく可能性がある。

 最大の課題は労働力不足。スマート農業や機械化一貫体系での省力化や外国人技能実習生等も含めた労働力確保が大きな課題である。

 もう一つは輸入野菜からの奪還。家庭消費用の野菜はほぼ国産だが、定時・定量・定価格が求められる加工業務用は3割近くが輸入物で占めている。食の簡便化指向が進むなかで加工業務用のウエイトはますます高まってきている。国内産地で対応しきれずに輸入物に押されている部分を、生産性の高い加工業務用野菜の産地づくりと価格変動に対する経営安定対策を推進し、いかに奪還していくかが大きな課題だ。

もう一皿の野菜摂取を3食のなかで

野菜・果物を食べることの重要性は?

 WHOとFAOは、健康な生活のために野菜・果物合わせて1人1日少なくとも400gの摂取を呼びかけている。日本の厚労省の「健康日本21」では、1人1日350gの野菜摂取を提案しているが、実際には280gの現状で70gほど少ない。70gはホウレンソウのお浸しやサラダにしておよそ小皿一皿分。つまり3食のなかであと一皿多く野菜を摂れば目標に届くことになる。そのための具体的な野菜のメニューやレシピを提供している。本年2月にはオンラインで野菜生産者と実需者の交流や商談の場を提供する国産やさいマッチングサイト〝ベジマチ〟を開設する。

 果物も農水・厚労両省で1人1日200g摂取のガイドラインを出しているが、実際の消費は100g弱でみかん1個分ほどが不足している。国際年を機に健康のために果実と野菜をもう少し食べてもらえるように関係団体等と連携してPRしていきたい。

 コロナ禍で免疫力強化に注目が集まっている。タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維の4大栄養素が免疫力を高めると言われているが、タンパク質以外は野菜に豊富に含まれている。品目によっていろいろな栄養成分が含まれており、そうした成分の効能なども具体的に紹介していきたい。そのためのセミナーなども農水省などと検討していきたい。

8月31日「やさいの日」を中心に

具体的な周知啓発活動は?

 当機構が毎月発行している『野菜情報』では、コロナ禍で家庭内需要が高まったことを踏まえ、料理研究家の先生による「旬の野菜を使った1人分のおすすめ簡単レシピ」を掲載している。「栄養成分別野菜ランキング」とともにホームページ上でも紹介し、消費拡大をアピールしている。特に昨年末から、キャベツやだいこん、はくさい、レタスなどの安値が続いている。ぜひこの機会に活用いただきたい。

 一方で、当機構の価格安定制度は野菜の価格暴落時の農家経営を支え、安定的、継続的な野菜生産と消費地への出荷を支援している。

 毎年8月31日は「やさいの日」で、JAグループや野菜関連企業などがイベントを開催しているが、今年の「やさいの日」は国際年も絡めて行政等とも協力して、野菜をもう一皿食べてコロナに負けない免疫力を付けて頑張ろう、と消費拡大をPRしていきたいと考えている。

 野菜や果物だけでなく、労働力の確保は日本農業全体の最大の課題だ。これを国全体で解決し平地には水田や野菜が作られ、傾斜地には果樹があり、山地には豊かな森林が保全されている、そうした国土の中で持続的な農業が展開されていく姿が望ましい。


〈本号の主な内容〉

■このひと 青果物の生産・消費拡大に向けて
 農畜産業振興機構(alic)
 理事 野津山喜晴 氏

■2年度3次補正予算案農林水産関係総額1兆519億円

■事業総利益は3.2%減、経常利益4.0%減
 576JAの2020年度上半期経営速報調査<JA全中>

■再生可能エネルギーの促進に向け農地の活用など議論
 規制等の総点検タスクフォース

■3党農業担当議員にきく2021年の農政
 自民党 農林部会長 宮下 一郎 氏
 公明党 農林水産部会長 稲津 久 氏
 立憲民主党 農林水産部会長 田名部 匡代 氏

■2021農業関連団体・企業からの新春メッセージ
 全国農業改良普及支援協会 会長 岩元 明久 氏
 日本フードサービス協会 会長 赤塚 保正 氏
 農研機構 理事長 久間 和生 氏
 製粉協会 会長 新妻 一彦 氏
 Jミルク 会長 河村 和夫 氏
 雪印メグミルク 代表取締役社長 西尾 啓治 氏
 農林年金 理事長 樋口 直樹 氏
 全国肥料商連合会 会長 山森 章二 氏

■水稲除草剤 最近の特徴と今後の展望
 日本植物調節剤研究協会北海道研究センター 主査研究員 半田 浩二 氏

■コロナ禍におけるEC業界の役割と展望
 ポケットマルシェ 代表取締役CEO 高橋 博之 氏

■農協改革の課題とこれから
 農水省 経営局 協同組織課長 三上 卓矢 氏

■農林水産政策改革の進捗状況をとりまとめ<農水省>

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