日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2020年5月15日号

2020年5月15日

アグリフューチャージャパン(AFJ)代表理事副理事長合瀬宏毅氏|日本農業経営大学校の魅力と今後このひと

これからの農業人材とその育成~日本農業経営大学校の魅力と今後~

アグリフューチャージャパン(AFJ)
代表理事副理事長

合瀬宏毅 氏

 日本農業経営大学校を運営するアグリフューチャージャパンの代表理事副理事長に、この4月、合瀬宏毅氏が就任した。長年NHKの解説委員として農業・食品関係を担当してきた同氏に、これからの農業人材とその育成への思いを聞いた。


大きく変わる農業に経営人材必要

これまでの関わりと就任に至る経緯を

 日本農業経営大学校がスタートした2013年から、同校の審議委員として大学校の運営等に意見を申し上げてきた。今回は、私の方から直接運営に携わらせてほしいとお願いした。
 農業という仕事は、人々の生活を豊かにする素晴らしい仕事である。誰もが必要とするやりがいのある仕事だし、動植物が育つ姿は、見ていて楽しくもある。それなのに、農家のなり手が少ない現状は、どこかおかしい。
 その大きな要因は、農業をやりたくても、最大の資源である農地が集めにくく、事業拡大や参入が難しかったことにある。
 ところが、農業者の大多数を占めている高齢者が相当数退職し、今後、大量の農地が出てくる時代になってきた。大量に出てきた農地を引き受けるには、経営感覚を持った人材が必要となる。
 元気な産業をみるとどこも、様々な人が色々なアイデアを持って参入し、次々とチャレンジをするような、新陳代謝が盛んな産業であることが分かる。外食産業やIT業界はその代表だ。農地が大量に出てくることで、農業ももうすぐそうなる。時代は大きく変わっていく。
 そうであれば、農業の経営者を育成する仕事は非常に重要であり、大変興味がある。時代の変わり目をこの目で見てみたい、そうした人材を育ててみたいという気持ちが高まり、やらせてほしいとお願いした。

事業継続にはと捉え知恵や工夫を

大学校の新型コロナの影響と対応は?

 これまでの6年間で86人の卒業生を輩出しているが、今回は卒業式もオープンにできず、入学式は開催できなかった。
 生徒は全国から集まっている。緊急事態宣言が出ている今は、地方から東京に集まることは難しい。どの学校もそうだが、当面はオンライン授業を行っていく。生徒とフェイス・ツー・フェイスで授業をしたいという先生方もいるが、会議等もほとんどオンラインで行っている中、実際やってみるとけっこう密接にいろいろなことができると感じている。問題は実習だが、地域間の移動が難しければ、例えば地元に近い優秀な農家に支援いただくことも一つの方法ではないかと思っている。
 経営者というものは、いかなるときにも事業を継続するための知恵や工夫が求められる。これから農業経営を勉強する生徒たちにとってもこの状況は大変だが、こうした事態に陥っても、いかに事業を継続させていくかを、一つの課題として捉えてほしいと思っている。

経営者育成で農業全体の嵩上げ

農業経営大学校の使命をどう捉えているか?

 この大学校のミッションは、二つある。一つは、これからの日本農業のリーダーとなる農業経営者を育てていくこと。もう一つは、そういう人達を見て「俺も農業をやってみよう」という人が増え、農業全体の嵩上げにつなげることだ。
 ただ、結果を出すことは簡単では無い。人が育つには長い時間が必要だし、農村には昔からの慣習も残っている。まして一年一作主流の農業ではなおさらだ。
 ただ、3月に決まった「食料・農業・農村基本計画」にもあるように、日本全体として、農業の担い手の育成は喫緊の課題であることは間違いない。
 一方で、若い人達の立場で考えると、チャンスでもある、これから土地は出てくるし、農業者が減っていることで、食品産業や農業界が、こぞって支援してくれている。また、国産農畜産物に対する消費者ニーズも高まっている。
 こうした産業界、農業界、消費者ニーズを受け止め、農業経営者の育成ができるのは、食品業界と強いつながりを持ち、消費者ニーズにダイレクトに触れることの出来るこの大学校が最適だと思う。周辺に様々な展示会がある等、最先端の情報が得られることも、ここならではの強みではないだろうか。

農家が安定的な生産を意識して

日本の食と農に対する課題認識は?

 日本は食に対してきわめて厳しい目を持っている。都市には世界中から様々な食が集まってくるし、地方には日本古来の伝統食がある。安価で品質が高く、多様な食を味わうことができる。こんな国は他にはない。インバウンドで来日する人達が日本での最大の楽しみが食と答えるのは当たり前だ。
 そうした食を支えているのが日本の農漁業だ。ただ、これまで日本の農漁業は、天候に左右されることもあり、安定的に食料を生産することをあまり意識してこなかった。外食や中食が食生活の中心となった今、農家の最大のミッションは、安定した品質の農産物を安定的に供給すること。それができていない。
 ただ、今、JAや農業法人等も、そうしたことに気づき始めている。安定的な食を支える機械化やIT技術も普及してきた。農家も、ある程度規模を大きくしてリスク分散しながら、安定的に収入をあげていかなければ、人も雇えないし経営も拡大できないことに徐々に気づき始めている。日本の農業はいま、大きく変わろうとしている。

活気ある地域を創れる人材を

その中で農業人材の育成が求められている?

 「強い農業」とは、持続的な経営ができる農業だと思う、常に一定の利益をあげながら一定の生産量を確保していくことは、規模の拡大だけでなく、小規模農家をまとめていくことでも可能なはずだ。
 国民に安定した価格で安定した品質の農産物を安定的に供給するという、日本農業の最大のミッションを、農業法人として実現するのもよいし、地域のリーダーとして産地をまとめ供給していくのもよい。
 日本には北から南まで多様な地形があり、多様な農産物があり、多様な経営がある、そうした地域の資源をうまく生かして活気ある地域を創れる人材を育成し、後に続く人を増やしていかなければならない。

生徒のモチベーションを高める

大学校運営へ自身の役割と思いは?

 NHKの解説委員20年で、農業界や食料産業の人達に様々な知り合いもでき、様々な問題点もわかってきたつもりだ。この大学校を拠点に、前述の2つのミッションを実現し、一緒に問題点を克服しながら日本農業全体の底上げをしたいというのが私の思いだ。
 経営とは、情報収集と分析、決断力が全てだと思う。そのためには様々な人達の考えや情報に触れなければならない。農業だけではなく、食品等関連産業にももう少し幅を広げてこの大学校の役割を考えてもよいのではないかと思っている。勉強には吸収力が不可欠で、その吸収力はモチベーションがないと高まらない。こういう経営をしたいと思えるような刺激的なものを取り込んでいければと思っている。
 また、アウトプットがなければ吸収力は高まらない。最終的に経営計画を作ることが最大のアウトプットだが、それに加え常に自分の考えを発表し出ていく場がないと、なかなか吸収もできない。勉強はこんなに面白いものだったのか、農業とはこんなに刺激的なものだったのかと、生徒のやる気、モチベーションを高めていくことが私の仕事だと思っている。
 自分自身、何か教えることも考えたが、当面の私の役目は、生徒のやる気を引き出すための環境づくりだと感じている。

東京ならではの情報触れる機会も

これからのAFJ運営の課題と提案は?

 この大学校の素晴らしいところは、入学から卒業後の就農、経営相談まで、きわめて手厚くフォローされていること。それは、経営面も含めて、他の学校に例を見ないのではないだろうか。この恵まれた環境を生徒達、またこれから応募される方にももっと理解してもらえるようにしたい。
 この大学校はそもそも国の農業者大学校の精神を引き継いでいることもあり、例えば、入学前3か月の農業経験を義務づける等、新規就農者が増えてきた時代では実態に合わないところもある、また、今回座学をずいぶん減らしたが、例えば展示会の見学や、農業政策を議論する農水省の審議会や国会の傍聴等、もっと東京ならではの情報に触れる機会があってもよいと思う。東京にあるメリットを最大限に生かした大学校として厚みをもたせたい。
 また、国内だけではなく海外からの留学生を受け入れたり、今は卒業生中心のビジネスコンテストを、外部に開放して競争を促すなど、〝農業が面白いことになっている〟と思わせることが必要だ。会員企業も巻き込んで、教育内容やその後の展開を考えたい。

JAにとっても農経経営者育成は課題

AFJ会員企業、JAへの期待は?

 AFJの正会員・賛助会員には、食品・流通業界など幅広い企業や農業法人、それに農林中金はじめJAグループなど約250先になっていただいている。そうしたところには、これまでも研修や講義等をお願いしてきた。
 ただ、優秀な農業経営者を育てることは、会員企業にとっても大きなメリットがある。国産食材を安定的に供給できる生産者は外食や中食業界にとっては不可欠だし、自ら農業に参入するための手がかりを得たいという企業もある。みんなで一緒になってしっかりした農業経営者を育てるこの大学校の存在意義、メリットを会員企業にアピールしていきたいと思っている。
 JAにとっても、地域が疲弊し地域から農業者がいなくなることは深刻な問題であり、後継者、新規就農者の確保・育成は喫緊の課題だと思う。
 私は、できればJA職員もここで勉強してほしいと思っている。JA自らが農業生産に取り組むところも出てきており、農業経営ができる人材を育てていくことが必要だ。ここで様々な経営者と議論を戦わせることは、地域農協の幅を広げることにも繋がる。是非、JA、JAグループ職員自ら門をたたいてほしいし、農業に関わる全員が、一緒になって農業経営者を育てていくことが必要だと考えていただきたい。

コロナ後の世界どのように創るか

これからの日本の農業に

 新型コロナウイルスの感染拡大で分かったことは、国内で一定の食料を確保する重要さだ。自分達のビジネスとしてだけではなく、国の安全保障としてもきわめて重要な問題だと捉えなければならない。今後全ての分野で、国産回帰が始まるだろう。そして、この〝コロナ禍〟後の世界をどのように創っていくか。自分の頭で考え、挑戦していける農業経営者を育てていかなければならない。
 ピンチをチャンスにできるような人材をどのように育てていけるか。我々もそこにどのように対応していくかを考えていきたい。


〈本号の主な内容〉

■このひと
 これからの農業人材とその育成~日本農業経営大学校の魅力と今後~
 アグリフューチャージャパン 代表理事副理事長
 合瀬宏毅 氏

■令和2年春の勲章 旭重に満歳章氏、旭小に奥野岩雄氏ら

■令和2年春の褒章 農水省所管分は黄綬20名、藍綬9名

■家の光協会 令和2年度事業計画のポイント

〈蔦谷栄一の異見私見〉「新型コロナが問う “生命”への謙虚さ」

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