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台風19号と水田

2019年10月16日

 今回の台風19号では、千曲川、阿武隈川などの大河川をはじめ各地の多く河川で氾濫、決壊、或はダムの緊急放流などの事態が発生し、大きな被害が発生した。広い範囲での短時間の降雨量のもの凄さに驚く。一か月前の台風15号で千葉県を中心に主に強烈な風による甚大かつ復旧の捗らない被害を身近に体感した関東地方では、人々の心配が募り、19号の来襲予報に対応して、大きなペットボトル入りの水や、電池、ランタン、養生テープなどといった防災対応グッズがスーパー等の棚から消える、いわば台風特需のような購買行動が見られた。それだけでなく、この地に独特な事態を目の当たりにした。
 台風19号が12日の夜半に通り過ぎた利根川流域の千葉県柏市~我孫子市にまたがる広大な水田地域では、雨の降り止んだ翌13日の朝から利根川の水が溢れ込みはじめ午後には水田や道路や電柱、ハウス群などすべてが水没して、見渡す限りの湖のようになった。遠くに筑波山がくっきり見えて、昨日までとは全く違う景観が出現した。これは利根川の治水システムの一環として設定された調節池(遊水池)で、利根川を挟む堤防の一部を低くして洪水の水位がそれ以上に高まる分を人為的に溢れ出させ、人の生活圏を護るもう一本の堤防との間に水をためることによって、下流の氾濫や破堤への圧力を減じる仕組みが作動したものである。ここは田中調節池(11・75㎡)と呼ばれるが、対岸の稲戸井調節池(4・48㎡)、少し上流の菅生調節池(5・92㎡)の三か所の調節池がこのように機能する。
 水稲の収穫は既に終わっているが、ここ数年来増えたハウス群やその他の施設が水没して農業被害が発生しているであろう。洪水が発生すれば水没するのが当然の治水システムに位置づけられた地域であるとは言え、収穫以前に洪水に対処せざるを得ない事態も想定され、具体的な補償の仕組みがどうなっているのか気になるところだ。
 忽然と現れた広大な濁水の湖を眺めながら、一頃よく見聞きした「水田のダム機能」という言葉を反芻していた。今回の台風がもたらした記録的な豪雨が主たる原因であるとしても、多くの地域で氾濫、決壊等が発生した原因の一面には、中山間地域等での耕作放棄による水田のダム機能の全体的な弱体化があったのではなかろうか。そして、まさに臨時的なダム機能を果たしている眼前の水田のような農地の存在を含めて、改めて国民的な再認識を促すことが重要であろうと思った。(N)

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