日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2026年5月5日号

2026年5月5日

〈本号の主な内容〉

■アングル
 持続可能な農業・農村へ~「関係人口」の現状とこれから
 明治大学 農学部 教授 小田切徳美 氏

■中東情勢の影響下 混迷続ける石油問題に対応するために
 第6回中東情勢関係閣僚会議(4月30日開催) 関係各省が状況等を報告
 〈JA全農〉肥料・飼料の安定確保、燃料価格高騰への対応を実施
 安定した燃料確保に向けた 経済産業省の対応

■自著を語る
 『脳と心はどこから来たか-主体的な認識の進化を探る航海へ』を出版した 実重重実 氏(元農林水産省農村振興局長)

蔦谷栄一の異見私見「違和感が大きい 水田政策見直し」


 

アングル

 

持続可能な農業・農村へ~「関係人口」の現状とこれから

 

明治大学 農学部 教授

小田切徳美 氏

 

 地域と関わる多様な人々を指す「関係人口」が、農業・農村を持続可能なものとする鍵として注目されている。著書『にぎやかな過疎をつくる-農村再生の政策構想』(2024年)などで独自の農村再生論を提言している明治大学農学部の小田切徳美教授に、現状と今後の課題を聞いた。

 

相反する人の動き 関係性で捉える

人口減少社会の課題認識から。

 2つの視点がある。一つは、首都圏への人口一極集中が続く一方、若者を中心に田園回帰志向が見られる。つまり、都市への集中が進む一方で、大都市圏を出ようとしているという相反する傾向がある。また、農村部でも仕事がないという声がある一方で、「担い手不足」の声が上がる。一極集中と同じように、相反することが同時に起こっている状況だ。その間をつなぐのが「関係人口」ということになる。

 もう一つは、最近、居住性ではなく関係性で住民を考えようという議論が出てきた。そこに住んでいる人だけでなく、住んでいなくても何がしかの関わりを持っている人も含めた「拡大住民」として捉えようというものだ。農業、特に農村をめぐっては、人がいる・いない、一極集中が進む・進まないといった相反する動きの錯綜した状況が生まれている。それを居住性ではなく関係性で捉えてみようという新しい動きが出てきた。そうした大きな状況の認識を持っている。

 

「関わり」に3つの多様性 一味違う農水省の取組み

改めて「関係人口」とは何か。

 一時、「農的関係人口」という言葉を農水省が使っていたが、約2年前に「農村関係人口」に修正した。関係人口をめぐっては3つの特徴、多様性がある。1つは「関わりのモチベーション」だ。ある人は貢献したいということで関わり、ある人は農業・農村はワンダーランドで、それ自体に魅力があるということで関わり、ある人はふるさとだということで関わる。非常に多様性がある。

 2番目の多様性は「関わりしろ」。それは関わる余地や場面を指している。ある人は農作業や水路であり、また、副業的に農業の経営企画やマーケティングの関わりしろもある。こうした地域の困りごとは、モチベーションの多様性とも関係し、とても多様だ。

 3番目として「関わりの動態」も多様である。関係人口は移住の前段階として捉えられていたが、実態把握が進めば進むほど、そうではないことが分かってきた。結果的に移住する人もいるが、関わった状態をそのまま維持し、むしろ移住に動くことなく、関わっている。中には、1つの地域を足がかりに複数の地域に関わる人もいるが、それも含めて動態の多様性がある。

 つまり、関わりのモチベーション、関わりしろ、動態、いずれも非常に多様な存在を関係人口と捉えることができる。また、かつて都市・農村交流を指す「交流人口」という言葉もあったが、実はこれと関係人口は同じだ。ところが、ある段階で観光庁が観光に来る人を交流人口と呼び始め、いわば概念にコンタミネーション(混合)が起きた。そうした背景もあって、2010年代半ばごろから「関係人口」という新たな言葉が生まれた。

「農村関係人口」をめぐる国や民間のいまの動きは?

 都市・農村交流という言葉自体は、農水省が早くから使っていたが、2017、18年ごろから、総務省や国交省、内閣府がそれを関係人口として理論化し、実態を把握し、政策への位置づけを議論し始めた。農水省も2020年の食料・農業・農村基本計画で、それ以前は空洞化が著しかった農村政策の再生を図り、「農的関係人口」を捉え直して、私が座長を務めた「新しい農村政策の在り方に関する検討会」で政策として検討を深めた。24年の改正基本法でも「農村との関わりを持つ者」の中に規定され、25年の基本計画では全面的に「農村関係人口」の施策の具体化が進んだ。

 注目すべきなのは、24年に地方創生2・0の一環として創設された農水省前「『農山漁村』経済・生活環境創生プロジェクト」で、学生や企業、一般の関係人口を含めて幅広く農業・農村に関わりを持つ者のプラットフォーム作りを積極的に進めた。25年の基本計画以降、農水省は他省庁と一味違う取組みを始めている。

 

「にぎやかな過疎」実現へ システム実装の自治体も

ご著書でも独自の提言を。

 「にぎやかな過疎」という言葉を使ったが、人口減少が続く過疎地域にもかかわらず、ワイワイガヤガヤしてにぎやかだと肌感覚で捉えられる地域が、全国に幾つか生まれてきた。面的にではないが、そういう地域が確実に増えていることは間違いない。その本質は人口減・人材増で、人口は減少するが人材は増えている。

 人材とは、この地域の問題は自分たちの問題だという当事者意識を持つ人。同時に重要なのは、そうした問題意識を持って作った新しい農村コミュニティーや、同じ意識を持ちながら地域に新たに住んだ移住者、問題意識に触発されながら地域に関われないかと考える多様な関係人口、さらに企業やNPOなどの「関わり事業体」や大学。

 つまり、多様な主体が入り乱れ、ごちゃまぜになっている状況が「にぎやかな過疎」で、そういう自治体が、例えば山形県小国町、岐阜県飛騨市、徳島県美波町など、各地で生まれている。企業についても、流通や職業紹介など本業ベースで関わる企業もあれば、社会貢献として関わる企業もある。また、職員・社員が副業人材として関わることを認めるケース、労働組合がボランティアで関わる動きもある。

 具体的な事例では、岐阜県飛騨市の「ヒダスケ!」というプロジェクトがある。ホームページに、黒大豆の脱穀、棚田の雪庇(せっぴ)落とし、獣害対策柵の設置といった多様なプログラムが掲載されていて、申し込めるようになっている。これが、関係人口のプロジェクトとして知られ、同様の仕組みを作る市町村が各地に出てきた。都道府県でも、島根県の「しまっち!」、高知県の「いこうち!」、石川県の「いしかわのWa!」、山口県の「山口つながる案内所」など、ホームページ上で関係人口を募集するプロジェクトを立ち上げる動きが相次いだ。国のふるさと住民登録制度も、それを国レベルに広げたものと考えられる。

 つまり、関係人口について、具体的な社会実装は初め市町村が動き、それが都道府県へ、国へとボトムアップ的にできたと理解してもいいかもしれない。このように関係人口の施策が準備されることにより、「にぎやかな過疎」実現に近づいているといえる。

その「にぎやかな過疎」の特徴は?

 人口減・人材増に加え、「人が人を呼ぶ、しごとがしごとを創る」という好循環が生まれること。中には商工会の会員数が増えた自治体もある。多様な人材がごちゃまぜになることで新結合が生まれ、イノベーションが起こる。互いの事業や課題を交流させ、新たな価値を見いだす場が生まれる。関係人口が交流できるコミュニティーカフェなどの場を意図的に作ったところもあるが、古くからある公民館や居酒屋で素朴に交流している場合も多い。「にぎやかな過疎」のキーワードは「ごちゃまぜ」で、「地域の縁側」のごとく、いろいろな人がそこに座って、お茶を飲みながら目的もなく話すことによって新しいアイデアやプロジェクトが生まれる。

 また、外との交流が地域内部のエネルギーになる。関係人口を単なる人手不足対策にしてしまうと、持続性がなくなるが、関係人口の到来によって、地域それ自体が内発的なエネルギーを呼び起こし、外のエネルギーを内部化する。まさに「地域の縁側」がその場となる。単に人が来てお手伝いするだけではなく、思いやアイデア、物珍しさを含む外からのエネルギーが、内部へ転化していくことが重要だ。私は「新しい内発的発展」と呼んでいるが、単なる内発的発展ではなく、外との交流それ自体がエネルギーとなるという特徴がある。そうした農村は、都市と農村が共に新しい社会を創っていく「都市農村共創社会」の拠点にすらなっていく。

 

フラットな関係が重要 「ふるさと住民登録」に期待

「農村関係人口」をさらに増やすには?

 先ほどの「ヒダスケ!」の成功実践が教えてくれるのは、コーディネーターの存在だ。農業者から「援農が必要だ」と相談を受けた時、コーディネーターはそれを援農という形でホームページに載せるのではなく、「農業者との会話を楽しむ場」として載せる。単純に援農とするのではなく、そこに新しい価値が生まれるように変換する。

 また、コーディネーターは全てのプロジェクトに立ち会い、より持続化するにはどうしたらいいか、外と内をつなぐにはどういう声を掛けたらいいかを考え、実行する。「ごちゃまぜコーディネーター」と呼んでいるが、こういう人が存在し、機能していることが重要だ。制度的には「集落支援員」、組織としては「中間支援組織」になるが、これが農村部には不足している。

 関係人口の取組みも、単なるホストとゲストにしたのでは、関係者の意識も観光と変わらないものになってしまい、呼び込む農村サイドが疲れてしまう。かつての都市・農村交流でもしばしば言われた「交流疲れ」が再発することになる。助ける・助けられる関係性、上下の階層関係が出てくると取り扱いが難しくなってしまうので、フラットな空気感を作ることを含めて「ごちゃまぜコーディネーター」が一番重要なポイントになる。

 また、農水省が企業等に対し発行する農山漁村振興への取組証明書、つまり農山漁村の課題解決を通じたインパクトの創出に向けた証明書は、関わる企業にとって重要なインセンティブになっている。これまでのところ大企業、有名企業中心なので、農村内部の地場産業、地域の中小企業から、こうした取組みが生まれるのが重要だ。8年度から導入される国の「ふるさと住民登録制度」は、誰でも登録できる「ベーシック登録」、年3回以上、何らかのアクションを行う要件が設定される「プレミアム登録」の2種類がある。国がアプリを作り、マイナンバーカードなどで登録する仕組みだが、登録した市町村がどう対応するかが課題となる。中でも、登録者と地域住民がどのようにごちゃまぜになるか。それには、各地の多様な関わりしろに、市町村がきちんと「ごちゃまぜコーディネーター」を育成し、登録者が地域住民と水平的な関係性を持つことの促進が重要になってくる。

 関係人口の創出・拡大に取組んだ自治体は、令和6年で82・6%に達し、3大都市圏居住者で関係人口として圏外へ出かけ、地域の課題解決に汗を流している人は151万人(令和2年・国交省調査)に上っている。かなりの市町村が取組み、関係人口総数も多くいる中でスタートするふるさと住民登録制度は、進め方によっては大いに成果が期待できると思う。

 

関係人口の持続化へ JAグループにも役割

JAグループへの期待を。

 JAグループでも研究を含めた様々な取組みがなされている。短期アルバイトを中心とする労働力支援事業では、JA全農おおいたによる「大分モデル」が、農作業受託会社との連携事業として全国に波及している。他方で、農協観光は援農ボランティアの「JA援農支援隊」で、地域貢献も含めた組織化に取組んでいる。

 このような複線型の関わり方がグループ内で既に準備されているが、さらに幅を広げても良いであろう。例えば、都市農業の援農には援農者の一部には経営参加の様相が出てきている。つまり、農家の経営に関わりたいという声がある。逆に、もっと素朴に農作業を楽しみたいという人もいる。そこでは、持続性を意識して、助ける・助けられるではない、親戚づきあいのようなフラットな関係性に導く仕組みが必要になろう。

 人手不足を意識した援農モデルを発展させると同時に、関係人口の多様性も意識した多角的な対応が、関わるサイドにも農村サイドにも期待されている。それに応えることにJAグループの役割があるのではないだろうか。

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