日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2024年10月5日号

2024年10月5日

〈本号の主な内容〉

■このひと
 続けられる野菜経営に向けて
 れぎゅーむれぎゅーむ
 (福島市 野菜農家)
 今野拓也 氏

■バイオスティミュラント(BS)の現状と展望を探る
 ~国内の普及は、将来の市場性は~

■全国野菜園芸技術研究会
 第67回全国大会・福島大会
 10月10・11日 飯坂温泉摺上亭大鳥(福島県)で開催

蔦谷栄一の異見私見「『令和の米騒動』と基本法論議」


 

このひと

 

続けられる野菜経営に向けて

 

れぎゅーむれぎゅーむ
(福島市 野菜農家)

今野拓也 氏

 

 収入、労働力、地域、消費者、働き方、環境配慮など、これからの時代に農業を続けていくには様々な要素が絡み合う。福島市内の住宅化がすすむ地域で「れぎゅーむれぎゅーむ」ブランドの野菜づくりを行う今野拓也さんは、露地から施設中心の経営に転換を図り、夏季に完全休業期間を設けて今年から「みどり認定」農家としてCO2排出削減の栽培を開始する。


 

パティシエから農家に転身

就農から現在までの農業経営は?

 今年38歳。就農して9年が経つ。父母は勤め人だが実家は農家で、祖父が主に米や野菜を作っていた。祖父母が農業を引退してからは農地が荒れ放題となり「もったいない」と思っていた。そんな時、東日本大震災があった。当時は東京でパティシエとして働いていたが、地元に帰って地域に貢献したいと気持ちが芽生えた。震災・原発事故がなければ帰ってなかったかもしれない。

 農業は少量多品目の野菜の露地栽培からスタートした。中心は地域でも盛んな夏秋キュウリで、部会にも入った。そのほかにナス、ピーマン、トマトなどの夏野菜、冬はニンジン、大根、白菜、サトイモなど、季節に合わせ一人でいろいろ作付けた。福島市は当時40aなければ農家として認めてもらえないので、一応40a規模を収穫する作物がない2~4月を除いて回していた。売り先はJAへの出荷を中心に、ほかは直売所に出していた。

 今は、施設栽培のトマトを中心に、パイプハウスでズッキーニを作り、露地野菜も作っている。トマトとズッキーニはJGAPの認証を取得した。

 昨年末に「みどりの食料システム法」に基づく「みどり認定」を受けて、今秋からCO2排出削減に取組むパプリカ栽培も開始する。

 

子育てと春先の収入のために施設栽培

農業についての考え、取組んで来たことは。

 パティシエになる前の専門学校時代にフランスへ勉強に行き、いろいろな食材を見て食に関わる仕事をしたいと思った。美味しいものをきちんと作りたい。そこを大事にしていく気持ちは、当時も今も変わらない。

トマトの栽培ハウス

 6年前に10aの鉄骨ハウスを建ててトマトの施設栽培を始めた。きっかけは、子どもが生まれたこと。妻と一緒に子育てをしていくのに、少量多品目の露地栽培では、時間的に難しくなったことと、前述のように春先の収入の確保が難しかった。この問題を解決していくためにある程度品目を絞り、農業とともに子育てにもしっかり関われる生活と、春先の収入も確保できる経営を目指した。

 かつて田んぼや畑だった土地が住宅地に変わってきたため、露地栽培では農機の音や薬散などに気を遣うようになったのも施設栽培を選択した理由の1つ。

 施設はできるだけ省力化するために自動環境制御装置や自動灌水システムなどを導入した。省力化するならばプログラムされた環境制御でトマトに最適な環境を創り出してしまおうと考えた。また、自分ではなかなかコツが掴めない灌水は土中のセンサーで水分や養分を計り、最適な分量をAIが調整してくれるシステムを取り入れた。最初は全部装置任せにしていたが、セミナーに参加して次第に制御の意味や作物の状態が判るようになり、自分の技術も上がってきてシステムのポテンシャルを活かせるようになってきた。

 トマトは8月のお盆明けに定植し、11月中旬から翌年7月まで収穫する。最初の年は10aを1人で挑戦したが、途中で手が回らなくなった。日射が増え、気温が上がり、これからもっと収量が伸びるところで断念したため、パートを雇用して7月まで出荷できるようにした。

 ストレスを与えずに味に繋げるため、光合成を高める環境制御や土づくりなどいろいろな技術を勉強した。ただし、しっかりと味をのせてから収穫する栽培方法をとっているので一般的なトマトよりも収量は少なくなる。

自動販売機式の直売所

 作るからには本当に美味しい物に特化し、違いがわかる本物を作りたいと思っている。ほかとの違いをしっかり出し、食べた時の食感などトータルで美味しいものを追求している。

 3年前にコインロッカー式販売機4台を収めた無人の直売所を自宅に近い商業施設内の「スターバックスコーヒー」と「JINS」に挟まれた場所に設置した。そこだけでほぼ売り切れるようになった。

 

ライフワークバランスも地域も環境も

この間の取組みで、経営に対する考え方の変化は?

 施設トマトをはじめると、露地キュウリとあわせて1年中収穫できて経済的には安定してきたが、逆に休みがなくなりライフワークバランスの面で疑問を抱くようになった。子どもが大きくなり遠出もしたい。思い切って7月・8月の小学校の夏休みにあたる期間はキュウリ栽培を止めて、何も作らないことにした。

 その代わりに収入を安定させるため、もう一棟ハウスを建てることにした。ただし、いまは資材費や燃料代が高くなっている問題がある。これまでと同じやり方でハウスを増やして良いのかと考えた。最新のハウス設備と、これまで勉強してきた技術を活かして、自分がしたいことだけではなく周囲の人の利益や環境に優しい農業も全部成り立たせようと思い立ち、調べてみると「みどり認定」の制度があった。

 

環境にやさしい農業を身近にアピール

福島県の「みどり認定第1号」になったが。

 まずは単純に「みどり認定」を取得すると日本公庫の農業改良資金を無利子で借りられることが大きい。もちろん環境負荷を低減する農業の取組みが大切になる。トマトハウスの隣に新しく建てた6aの鉄骨ハウスの加温設備は、従来の重油ボイラーのほか、空気熱源のヒートポンプ、地下水を通す管に送風して熱交換するシステムを取り入れたハイブリッド方式で、化石燃料の使用量を削減する。ハウス自体も屋根はフッ素フィルムを二重張りにして断熱性を高めた。

 「みどり認定」取得をアピールすることは経営戦略的にも役立つし、環境に配慮した経営はこれからの日本の農業に必須なことなので、CO2削減を中心に率先して取組もうと考えた。

みどり認定のパプリカ栽培ハウス

 栽培する作物はパプリカを選択した。この地域の冬場の野菜は青物が多い。そこに色鮮やかな赤や黄色のパプリカが加わればお客さんから喜ばれる。自分の利益だけでなく、地域に還元できる環境にやさしいものを作ることは、結果としてうちの農業を売り込むことになる。うちの野菜に興味を持ち、SNSを見てもらい、「みどり認定」のことまで検索してもらえると、環境に優しい農業を身近に感じることができるのではないか。

 

若い親世代に人気の直売所

地域の消費者との関わり、農業者仲間との関係は?

 無人販売の直売所は老若男女に利用してもらっている。納品するときに来ていたお客さんと話をすることもある。一番うれしいのは、小さな子どもがいる母親が「ほかのトマトは食べないが、ここのトマトは食べる」と言ってくれること。そうした若い親世代が多く買いに来てくれるのは、ほかの野菜の直売所と違うと感じている。SNSの投稿に対する返信も励みになっている。

 周りの農家からは、この辺では珍しい野菜を作るので「変わり者」と思われている。それだけに興味をもって可愛がってくれて、技術を教えてもらったりしている。今は、福島市の青年農業士に認定され、各分野で技術を持った若い人達との交流が増えて自分も触発されている。

 自分のやりたいことを一番形として出せるのが農業。変わり者でもきちんとしたものを作っていれば周りは認めてくれる。

 

稼げる姿をみせる。地域の一員として。

10年後、どんな農家になっていたいか?

 地域の農業は、高齢化で耕作放棄地が増えている。自分の経営を大きくして耕作放棄地を借りて、地域の農業を盛り上げていけるようになりたい。地域の課題を解決し、新しい農業の形を地域の方々の知ってもらい、やりたいことをやりながらも地域の一員として活躍していきたい。

 それに新規参入を増やすためにも、解りやすく「しっかり稼げてますよ」っていう姿を見せて、「農業やってもいいよね」と思ってもらいたい。

keyboard_arrow_left トップへ戻る