日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2023年7月15日号

2023年7月15日

このひと

 

日本農業の現状と農業法人の役割

 

日本農業法人協会
会長
齋藤一志 氏

 

 日本農業法人協会は、6月の総会で新会長に齋藤一志氏(山形県㈱まいすたぁ代表取締役)を選任した。齋藤新会長に、日本農業の現状を踏まえた農業法人のこれからと農業法人及び日本農業法人協会の果たす役割を聞いた。


 

メンバー増やし学び合いチャンス掴む

会長に就任しての抱負から。

 日本農業法人協会には、平成15年、仲間から奨められて入会し、以来、様々な活動に参加させてもらった。農業界は、一人では解決し得ないような課題がどっさりある。関係する法律も関係者も多く効率が悪いのが現状だ。各県の農業法人協会を廻り始めているが、交流する中で次から次へと課題を訴えてくる。

 今後、非常な勢いで農業者が減少し、使われない農地や設備がどんどん出て来るのは明らかだ。高齢化だけでなく、資材が高騰し販売価格は上がらない昨今の構造から廃業する人も多い。

 こうした中で、法人化し規模拡大に期待がかかるわけだが、そうした法人が必ずしも成功するとは言えない先行きの難しさも感じている。

 日本農業法人協会には現在2107社が加盟しているが、全国に3万3千社余ある法人の10%に満たない。着実にメンバーを増やし、全国のみなさんの経営の成功例はもちろん失敗例からも学ぶことで、この厳しい情勢下でもチャンスをつかんでもらえるような場にしていきたい。

 

現場から規制・農政の具体的改善を提言

これまでの協会での取組みは?

 平成29年から3期6年副会長を務めさせていただいた。協会の大きな役割として農政への意見・提言がある。1農場1個人ではなし得ないようなことを協会として政策提言するため、入会当初から農水省の諸会議に参加。平成15年には生産調整に関する研究会の委員を務め、〝米余り〟に対する諸政策を見ながら会社を成長させてきた。

 規制改革会議の委員としても、具体的な規制の改善にずいぶん発言させてもらった。例えば、アタッチメントを装着したトラクターの公道走行を可能にしたり、ハウス敷地内でのコンクリート張りの規制緩和など、法改正を提言してきた。ドローンによる防除も、ラジコンや有人ヘリ防除との違いを明確にし、誰でもがスムーズに活用できるように進言した。現在、規模拡大のための施設の建築は、4m道路に接続していないと許可がおりない。農地法や都市計画法が法人の設備増強を阻害している事例もまだあるので、しっかり現状を検証しながら今後も現場から、規制や政策の改善を要求していきたい。

 

安定的価格で供給する仕組みと技術で

日本農業の課題と法人協会の役割は?

 日本全体がものすごい勢いで経済的に弱くなっている。先々海外から物が買えなくなるだろう。為替の変動のみならず、今や売ってくれるかどうかも不安定な状況にある。日本の食料危機は、ひょっとしたら〝米が作れなくなる〟危機かもしれない。123万人の農家が17年後には、25万人まで減るといわれている。そのうち約100万人は稲作農家だ。残った農家が5倍の米を生産することは不可能だ。

 その中で、農業法人協会には農業経営に経験豊富なメンバーが集まっている。その経営者たちは、コストを下げ、なるべく手のかからない栽培方法を工夫し続けている。美味しい物を作ることは当たり前だが、それを安定的な価格で供給できる仕組みと技術を持った農業者が生き残っていくだろう。

 一方、資材価格や流通経費は高騰し人件費も上がり、収益性はどんどん落ちている。やはり再生産できる価格で見てもらわざるを得ない。余った農地に小麦や大豆、トウモロコシを作り国内に安定供給するのが我々農業者の当たり前の仕事だし、国はそれが再生産できる価格となるよう海外のように不足払い制度で補完すべきだと思う。稲を植えないことに補助金を出すのではなく、足りない物を作った者に補助金を出すのであれば、安心した生産拡大ができる。そのような制度への見直しが必要だ。

 私は、米はもちろん小麦も日本の生産技術は世界一だと思っている。若い人達には、世界で一番レベルの高い仕事に携わっているという思いをもって欲しい。

 協会が「次世代農業サミット」を開催して6年ほどたつ。我々の子弟や若い社員、未加入の農業者も参加し、セミナーやグループ討議で意見を交換し合う。農業は作業の一つひとつが非常に達成感のある仕事だ。将来の夢を語りながら若い経営者たちが集う場にしていきたい。

 

農業者25万人時代のJAのあり方を

JAグループへの期待は?

 農協には期待する面も多い。今、地方のインフラは農協で保たれている。地元ではガソリンスタンドもスーパーも民間が撤退した。職員との顔の見える関係を続け地域住民からの信頼度も高い。

 しかし、総合農協として生き残るために合併を繰り返し現場に近い支店・支所を廃止するなど、基幹的農業者とどんどん疎遠になっている。

 海外の農協は専門農協が多い。アメリカでは穀物の仕入れ・販売を得意とする農協や資材販売だけの農協がいっぱいあり、農業者はそれに複数加入している。日本の農業者が25万人になったときのJAのあり方、農業者がそこまで減ることに対する見直しと対策が進んでいないのではないか。

 農協は地域への資材供給や生産物集荷の鍵を握っている団体。自らの経営の帳尻合わせではなく、小さい農家も含め農業者がもっと利用できる環境を整える必要がある。

 

少人数で大規模をこなす技術を追求

自身の農業法人の歩みを。

 鶴岡市の小規模農家に生まれた。自作地2・5haを持っていたが、米だけでは食えないので父が養豚を始めた。

 自分は養豚研修を経て、平成2年に種豚、子豚の生産から肉豚出荷までを行なう㈲いずみ農産を設立した。平成5年の〝米パニック〟の時に米の注文が多すぎて、〝不足分を集めるはめになった〟のがきっかけに、平成15年に出荷者が資金を出し合って、米の集荷・販売や農薬・肥料の販売を行う㈱庄内こめ工房を設立した。出資者は約100名。

 事業を伸ばし、地域の外食、スーパーとも取引きするようになったとき、4法人が出資して精米機での異物混入等防止に、ガラス選別機や色彩選別機を備えた精米センターを備えた㈱まいすたぁを平成21年設立した。農協にも大量の米を受けてもらっている。

 自分がやるべきことは、メンバーに田んぼを増やしてもらうこと。将来20~50haを1~2人でこなせるようするために試行錯誤しながら技術開発している。いま、1枚の田んぼを大きくする必要があることから、畦抜きをしてそこに栽培方法の一つとして乾田直播を行っている。これはメタンガスの発生がほとんどなく環境にもいい。乾田直播は全て輸出米として、コンテナをチャーターして直接取引している。

 こんな取組みを見て、「おもしろそう」「やってみたい」という若者も出てきている。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 日本農業の現状と農業法人の役割
 日本農業法人協会 会長 齋藤一志 氏

■JA全農 令和5年度事業のポイント
 〈営業開発事業〉
 JA全農 営業開発部 山田尊史 部長

■イネいもち病 話題と防除対策
 農研機構 植物防疫研究部門 主席研究員 芦澤武人 氏

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