日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2023年6月5日号

2023年6月5日

このひと

 

JA青年組織活動のこれから

 

全国農協青年組織協議会
(JA全青協)
会長

稲村政崇 氏

 

 

 全国農協青年組織協議会(JA全青協)が5月18日開いた通常総会で、令和5年度の新会長に稲村政崇氏(JA全青協副会長、北海道農協青年部協議会会長)が就任した。新会長にこれからのJA青年部組織活動に対する思いを聞いた。


 

多くの盟友の想い引き出す1年に

まず、就任の抱負から。

 厳しい時代に少しでも風穴を開けなければならないような状況に至ったときに、「JA青年組織はピラミッドではない。会長は上に立つのではなく、一番最初に困難な状況を切り崩していく特攻隊長だ」と言った先輩の言葉を思い出し、これを会長就任のキーメッセージにした。

 ボトムアップの組織として多くの盟友の想いを引き出すことを大切にする1年にしたい。

 

〝会う〟ことの大切さを再認識

全国組織で理事、副会長を務めたこの2年を振り返って。

 理事になった一昨年は、コロナ禍で人とダイレクトに会えず、副会長の昨年は少し会えるようになった。会って話すことの大切さを再認識したこの経験は大きい。

 そうしたなかでも、できることに知恵と工夫をこらした。ポリシーブック等もオンラインを駆使して手を抜くことなくしっかりしたものを作成し、Webを活用した学習機会を増やすことに取組んだ。

 ツールとして便利なものは最大限活用すると同時に、会うことの大切さを今一度認識しなければならないと思っている。

 

食料安全保障への情報発信に力

農業、農村を巡る環境と農政に向けては?

 コロナ禍での物資不足やウクライナ情勢等を踏まえて、国民が食料は自国でしっかり生産しなければならないことに気づき始めた。しかし、危機意識は時間の経過とともに薄らいでいく。

 我々青年組織は情報発信、広報活動への取組みに、さらに力を入れていかなければならない。

 我々が食料安全保障の確保に取組んでいくとともに、政策としてしっかり形を残す。国民の食を守るという意味での日本農業をしっかり守っていく仕組みが必要だ。

 一方で、20年後、30年後も農業をやっていけるのか、子どもに農業を継がせられるのか等々の不安から、我々世代の農業者のモチベーションが保ち難くなっている。

 そこに希望の持てるような方向性が欲しい。最後の要の部分の国としての方向性を、一緒に対話しながら進めていただきたい。

 

〝リアル〟な農政に話し合いの機会を

スマート農業やみどり戦略などに対しては?

 労働力不足の農業を守っていく手段としてのスマート農業の枠組みは理解できる。しかし、具体的に何にどのように取組んでいくのか、一歩一歩の方が見えないパターンが多い。本当に自分達にとってプラスになるのか、それで生産性が上がり国民のためになるのか、という〝リアル〟が意外と見えない。これはそれぞれのテーマに共通している課題だ。

 それを解決する手段は対話だ。農業現場の実情や課題、農政の具体策を双方で話し合い、お互いに理解していく機会を増やしていきたい。

 「みどりの食料システム戦略」は、農業者だけでなく国民に認知されたテーマになった。化学肥料等の高騰も追い風になっている。しかし、肥料を削減すれば収量が減る。コストは上がり売価が上がらないのに大丈夫なのかと、二の足を踏んでいる農業者も多いのではないか。有機農業等に先進的に取組んでいる農業者とももっと話し合ってみることも必要だ。

 

真の経営参画は耳を傾けることから

JAグループの中での青年部のあり方は?

 一昨年のJA全国大会決議で、青年組織も女性組織もグループにとって重要な存在であると位置づけられた。理事や総代として積極的にJA経営に関わっていきましょうと。しかし、それだけでは越えられない壁がある。例えばJAの理事会で1人2人の若者や女性が意見を言ってもなかなか反映されないとの声も多い。我々がしっかりJA経営に関わる意識をもつことと併せて、JAも実際に関わったときはもう一歩先を見据えて、ぜひ我々の意見に耳を傾けていただきたい。

 JAの各全国団体とは、積極的にコミュニケーションをとっているので、この関係を継続していただきたい。全国団体との取組みを盟友にしっかりつなげていくことも全国組織の仕事である。

 

みんなでまとまることの大切さを

これからの青年部の活動は?

 今年度はJA全青協中期活動目標の初年度である。その基本姿勢として協同組合の原点に立ち返ることをテーマにしたい。みんなで同じ方向を向くことが協同組合の原理・原則だ。

 インターネットやSNSの普及拡大に伴い、個人の力で買ったり売ったりする農業者も増えてきたが、今、生産資材の高騰等でかなり危機的状況におかれている。もう一度みんなでまとまることの大切さに立ち返ってみたい。

 わかっているようでわかっていない協同組合の原理・原則を、しっかりわかるようにする1年間にしていきたい。わかった上で自らの経営を考える学習に力をおいていく。

 ポリシーブックも、食料安全保障の確立をキーに、作物別、課題別の各部会でもこれをベースとして今後の取組みを話し合っていく。

 食農教育や農業への国民理解の醸成などにも引き続きしっかり発信していきたい。各都道府県の単組が一番地元に密着して食農教育や地域住民への情報を発信している。全青協は全中とともに国消国産のイベント等を全国的に展開しているが、これと連動して各単組の工夫をこらした取組みを伝えていくことも全国組織の役割ではないかと思っている。

 

地元の若者を盛り上げるような農業者へ

自身にとって青年部活動とは?

 10年間の転勤族のサラリーマン生活を経て平成25年就農した。結婚し父親となったことを契機に、子どもと過ごす時間を確保したくて北海道に戻ることを決めた。

 就農と同時にJA北いしかり青年部に入部。小5を対象とした大豆の植付けから収穫、豆腐作りの食農教育に参加し、子ども達の生き生きしている姿を見て、自分もおもしろくなったのが、青年部活動のスタートだった。

 29年単組の当別ブロック長、令和3年北海道の青年部協議会会長、全青協理事、4年に副会長を務めた。いろいろな役目をいただくまでには、協力、応援してくれた人がおり、役職に就いてからは周りからのアクセスも増えた。その意味では「役」が人を育てる側面があると思う。

 北海道では、地元のなかでも小さい経営の方だが、全国各地のいろいろな人と会い、やり方はいろいろあることを学んだ。今ある環境をいかに最大限活かしていくか。自分だけではなく周囲にも還元していくことも大事だ。

 私より下の年代から相談を受けアドバイスできるような農業を営んでいきたい。そのためにはしっかり作物と向き合い、父を始め諸先輩の情報も聞いて、地元の若者を盛り上げるような農業者になっていければと思う。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 JA青年組織活動のこれから
 全国農協青年組織協議会(JA全青協)
 会長 稲村政崇 氏

■6月1日は「牛乳の日」 6月は「牛乳月間」
 Jミルク、JA全農、中央酪農会議、全国酪農業協同組合連合会、雪印メグミルク

■農薬危害防止・安全防除運動 展開中
 〇農林水産省 消費・安全局
  農産安全管理課 農薬対策室長 楠川雅史 氏
 〇JCPA農薬工業会 安全対策委員長 池本祐志 氏
 〇JA全農 耕種資材部 部長 日比健 氏
 〇全国農薬協同組合 技術顧問 植草秀敏 氏

蔦谷栄一の異見私見「小農・森林ワーカーズ全国ネットワーク」

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