このひと
国産飼料原料生産拡大へ
~子実用とうもろこし栽培のこれから~
日本メイズ生産者協会 代表理事
(有)柳原農場 代表取締役
柳原孝二 氏
昨今の輸入飼料原料の高騰を契機に、飼料の国産化に改めてスポットが当たっている。こうしたなか、10年前に配合飼料の主原料となる子実用とうもろこし(子実コーン)を北海道で生産開始した農家を中心に、今年4月「日本メイズ生産者協会(JMFA)」を設立し、生産拡大に向けた活動を展開している。農家自ら普及に取組む背景と展望を同協会の柳原代表に聞いた。
連作障害回避の輪作作物として
■子実コーン栽培開始の背景から。
2012年当時の柳原農場は約30haの半分は米を生産し、残りの10ha弱で麦と大豆を栽培していた。そのうち6haに子実コーンを導入した。緑肥用としてのデントコーンすき込みは知られていたが、子実の収穫試験に同じ長沼町内の道立試験場が取組んでいることを知り導入したいと思った。水田転作が余儀なくされるなか、麦・大豆が転作作物として推進されている。しかし麦・大豆だけでは連作障害が発生し、その対応に微生物資材や化学肥料を大量投入して収穫量を確保してきた。連作障害回避のための輪作作物として、ビートやそば、小豆も作っていたが、いずれの作物も栽培や収穫面で課題が多く、もう一品輪作作物を増やしたいというのが一番の目的だった。
初めに販売先を確保 通年供給が課題に
■それからの取組み経過は?
栽培に当たり、子実の使い途を飼料メーカー等に聞いたが、10年ほど前はアメリカからの飼料用とうもろこし(子実)が非常に安く入っており、また、少量では給餌量が多い牛や豚の飼料として利用できる術はないと言われた。そこで家畜の中でも飼料効率がよい養鶏用とし、しかも年間使用量が比較的少ない自家配合の農場をターゲットに売り先を探したところ、府県で対応してくれるところが見つかった。作付けの前にまず販売先を探した。
開始から3年目くらいには全国各地の養鶏場との付き合いが始まったが、どの養鶏場からも、収穫した秋口だけが国産で春にはアメリカ産を給餌するのではブランド化が図れないと言われ、通年供給が課題となった。
5~7万羽の中小規模でも年間300~500tのとうもろこしを使う。その量は個人ではカバーできない。ちょうど同じ考えで輪作をしたいと思っていた近隣の農家や親戚などに仲間が増え、2015年には約30軒100ha規模にまで拡大し、通年供給を視野に「北海道子実コーン組合」を設立した。輪作品数を増やしたい、畑に良いものを栽培したいと始めたが、経験のない販売にみんなで一緒に取組んでいこうという思いがあった。
栽培を始めて1年目に、農水省等が主催する「農業フロンティア2012」でグランプリを受賞したのを契機に本州でも栽培する農家が出てきた。国としての戦略になっていくためには、北海道だけでなく全国で栽培しないと難しいと、行政からも言われていた。いち早く岩手・花巻の盛川さんが手を挙げてから2~3年、本州でも作付けされるようになったが、なかなか採算が見合わず大きく展開していない。一方、北海道では面積が広がり販売先も増え、全国の養鶏場や養豚場、稲作農家双方から問い合わせが来るようになった。
府県では作りたい人と使いたい人が混在している。それを府県同士で繋ぐだけでも充分発展の余地があるし、それを束ねることで政策にきちんと位置付けられるような取組みをしていきたいと全国的な組織を立ち上げた。
栽培指導や物流システム構築を支援
■協会の目指すものは?
一番は、日本の穀物としてとうもろこしの定着をめざすこと。それが輪作土壌の改良や、飼料の安定供給や畜産のブランド化の一翼を担うことになる。定着化を目標に全国の生産者組織を立ち上げることが、地域を巻き込み生産者を増やしていく一つの手段となる。
もう一つは、耕種・畜産双方の生産者が本当に必要としていることを啓発していくこと。そこをわかってもらえば、日本にとって子実コーンの必要性がわかりやすいのではないか。
昨今のウクライナ情勢などで、畜産側が情報を求めているなかで、生産者の技術指導や物流システムの構築の手伝いがこれから必要になってくるだろう。麦・大豆栽培が定着していても、肥料や農薬の大量投入で“手詰まり感”を感じている地域も多い。そうしたところにも、輪作としてのとうもろこしの栽培技術の浸透を支援していきたい。この秋には全国各地の子実コーン組合の現地で、収穫実演会やシンポジウムを開催している。こうした取組みを通じて全国の行政サイドにも必要性の認識を拡大していきたい。
交付金制度の拡充、貯蔵施設整備も
■定着・拡大に今後必要なことは?
まず、農水省の交付金制度にきちんと位置づけられ、さらに拡充していくこと。今、転作作物として麦・大豆・飼料穀物があり、飼料作物の大枠のなかに子実用とうもろこしがある。麦・大豆・とうもろこし・飼料作物という形に〝頭出し〟してもらいたい。とうもろこしへの支援がまだまだ足りない。
もう一つの大きな課題は貯蔵施設がないこと。米のカントリーエレベーターを活用する意見もあるが、機能や装備が充実していて手数料が高くコスト面から難しい。また異物混入への考え方が非常に厳しく、米を扱っている施設は使えない。
アメリカでは各生産農家にサイロがあり、そこから輸出までが結びついているので、日本はあまり穀物の在庫を持たないで日常生活をおくっている。これからとうもろこしの生産を拡大させていく上では、アメリカのような大きさでなくてもよいので各農家にサイロを設置し、そこから系統団体などが集荷し周年供給に繋いでいけばよいのではないか。北海道子実コーン生産組合は約1万tの貯蔵サイロを持っている。日本のとうもろこし需要量の0.1%に満たないが、全国に広げていくための見本となればよい。
都府県では畜産側の盛り上がりがすごく、こちらで預かるからどんどん作ってくれと言う人が多い。畜産生産者にとっては飼料の確保が一番の問題で、いくらかでも自前で飼料確保していく方向を考えているようだ。九州などからサイロを視察に来る人もいる。
とうもろこしを畑にすき込み循環
■農業経営者としての目標は?
これから消費が増えることのない米は生産適地に任せて、需要が多い麦や大豆、とうもろこしを生産していく方向に向かっていくだろう。米と違い畑は輪作が必要なので、麦・大豆・とうもろこしの3品で上手く経営を回していきたい。そのためにも、とうもろこしが穀物としてしっかり位置づけられるような活動をしたい。
とうもろこしは収穫後にすき込むことで与えた肥料の半分が土に還元される。3~5年かけ分解され大豆や小麦の安定生産に繋がっていく。とうもろこしの有効性を活かして畑の中で循環させることは、まさに農水省の「みどりの食料戦略システム」の取組方向と合致していると考える。
【日本メイズ生産者協会】2022年4月1日設立。子実用とうもろこしを生産する全国7つの生産組合が集まった連合組織で構成農家は160戸。加盟団体は、北海道子実コーン組合、花巻子実コーン組合および東北地域子実用トウモロコシ生産者連絡会、コーンカンパニーナリタ、中部子実コーン組合、九州子実コーン組合。事業は、作付け情報の集約と新規作付けの啓発、栽培技術向上のための技術情報の発信、有利販売のための情報提供と連携、関係団体へのロビー活動、関係諸団体との連携。役員は、柳原孝二代表理事(北海道)、盛川周祐副代表理事(東北)。
【(有)柳原農場】1968年設立。北海道夕張郡長沼町で水稲作、畑作、肉牛(繁殖牛)の経営。経営面積は43ha。水稲(ゆめぴりか)1.9ha、小麦(ゆめちから)11.9ha、大豆(タマピリカ)6.8ha、子実用とうもろこし15ha、ナタネ、牧草。黒毛和牛30頭。
〈本号の主な内容〉
■このひと 国産飼料原料生産拡大へ
~子実用とうもろこし栽培のこれから~
日本メイズ生産者協会 代表理事
(有)柳原農場 代表取締役 柳原孝二 氏
■持続可能な農業・地域共生の未来づくりへ
さらなる進化めざす わがJAの取組み(集中連載第2回)
〇JA晴れの国岡山(岡山県) 代表理事組合長 石我均 氏
〇JAぎふ(岐阜県) 代表理事組合長 岩佐哲司 氏
〇JA東京スマイル(東京都) 代表理事組合長 眞利子伊知郎 氏
〇JA菊池(熊本県) 代表理事組合長 三角修 氏
〇JAはだの(神奈川県) 代表理事組合長 宮永均 氏
〇JAおきなわ(沖縄県) 代表理事理事長 前田典男 氏
■新トップに聞く
(一財)日本穀物検定協会 理事長 塩川白良 氏
■第17回 あぐりスクール全国サミット
実行委員会(事務局=家の光協会)がオンライン開催
■クローズアップインタビュー
クミアイ化学工業㈱ 代表取締役社長 高木誠 氏