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全国Aコープ協同機構経営会議議長織田展男氏インタビュー

2020年11月5日

全国Aコープ協同機構経営会議議長織田展男氏インタビューこの人に聞く

コロナ禍におけるAコープ店舗の現状と課題

全国Aコープ協同機構経営会議議長
(㈱エーコープ関東代表取締役社長・㈱Aコープ東北取締役社長)
織田展男氏

 今年はコロナ禍で日常生活が一変し消費者の購買行動も変化したといわれる。国産農畜産物の販売拠点であるAコープではどのような変化がみられたのか。織田展男全国Aコープ協同機構経営会議議長に「コロナ禍におけるAコープの現状と課題」を聞いた。


新型コロナウイルスによるこの間の事業への影響は。

 コロナ禍において、コンビニも百貨店もGMS(総合スーパー)も売上が落込む一方で、食品の構成比の高いスーパーマーケットが「巣ごもり需要」でプラス影響が出ている。全国Aコープ協同機構のメンバー店の8月までの累計総売上高をみても、前年度比104%以上の伸びとなっている。その中でも衛生的な店、明るくきれいに商品が並んでいる店、かつサービスも含めて従業員及び来店者の新型コロナ対策がしっかりできている店がより多くのお客様の支持を得ている。地域別にみても感染者の発生が多い関東圏の巣ごもり需要は高く、地方ではお盆の帰省客や地域行事が少なくなった分需要が低迷したものの、全国的に前年を超える実績となっている。メンバーのなかでも、これまで衛生的で綺麗な買い物環境づくりをめざした改装や新規出店に取組んできた会社の伸びが顕著に現れている。これは取扱う商品も含めて絶えず活性化やブラッシュアップを継続していくことが重要であることを裏付けている。
 商品面では家庭内での調理機会が増え生鮮品の需要が伸びている。とりわけ鮮度がよく相場に左右されない産直の野菜が一番伸びている。精肉や鮮魚なども伸びている一方で、惣菜品があまり伸びていないのが特徴的だ。全国で緊急事態宣言が発出された4月から5月は外食店舗の営業自粛もあり、売上が大きく伸びた。緊急事態宣言の解除後はある程度は外食への需要に流れたが、再び感染者が増えた8月以降にはまた売上が戻っている。外食店と食品スーパーの動きは反比例する傾向にある。
 コロナ禍の特徴として、従来より買物頻度(来店客数)はどこのスーパーも落ち、1回の買い上げ点数や1品単価が上がっていることが挙げられる。客単価が上がることで売上が伸びる結果となっている。一方で、毎食ごとに家庭内で調理することは主婦にとって相当のストレスが増加している。調理の回数や時間が大幅に増加しており、その負担をいかに軽減するかを我々は考えなければならない。ただ単にモノを並べディスカウントするだけでは店は伸びない。日々のメニュー提案や関連商品販売ができるように、しっかり気を配っていかなければならない。

Aコープチェーンとしての経営方針・戦略は。

 Aコープ店舗の競争力強化に向けた目標は全国1社化だと思っている。その間のプロセスとして、まずは来年4月1日に㈱エーコープ関東と㈱Aコープ東北、全農クミックス㈱が合併し「㈱Aコープ東日本」を立ち上げる。西日本地区では、㈱Aコープ西日本と㈱エーコープ近畿の合併が検討されている。九州地区での一体化も含め、エリアごとに組織討議を進めている。
 それぞれに地域特性があり、店舗施設の老朽化や運営のオペレーションスキルなどにも格差がある。システムを統一し、商品政策や売場政策を標準化しながら一つひとつハードルを越えていきたい。
 Aコープ店舗事業広域一体化会社の再編と併せて商系流通業との提携の促進も今後の方向としている。基本は地域の消費者から支持される店になること。かつて農協直営であった店舗の収支確立が難しくなり、労務管理も含めて会社化を進めてきたが、それでも存続が困難な店舗が地域のライフラインとして生き残る術の一つの手段として他業態と提携し、従来のAコープの〝純血主義〟では成立しえなかった指導や商品供給を受ける。それによって事業として再度復活し、自然災害の多発やコロナ禍でますます高まる社会的な機能や役割を果たすことが出来るならば、画一的ではなく柔軟に考える必要があると思っている。
 Aコープ店舗では、エーコープマーク品、全農ブランド商品、ニッポンエールの3つの全農開発ブランドを取扱っているが、いずれも〝商品力〟をつけることが大事で、これは全農の商品開発力にかかっている。加えて、リテール部門を担うAコープ会社の販売力が上手く連携出来れば良いと思っている。
 そうした、商品開発力と販売力のマッチングが課題だ。マーケットインと言いながらも、どうしても川上指向での開発が先行されがちで、もっと消費者ニーズの変化等をしっかり把握する必要があると思っている。
 「安全・安心・新鮮」な国産農畜産物の提供は我々の活動目的の一つだが、JAグループの新入職員研修をファーマーズ店舗で受け入れたとき、「こんな高い肉を誰が買うのか」と驚かれた。「国産農畜産物に関わり地域の農業振興に貢献したい」とJAを志望した彼らでも、1個150円程度のハンバーガーに慣れ実際に現場でこんな質問をする。
 安心・安全で国産の美味しさや鮮度を求めているお客さんがしっかり存在していることを、我々はまだまだ宣伝し切れていない努力不足を感じている。もっと若年層に日本の農畜産物やJAグループの食に対する姿勢を周知していかなければならない。
 Aコープ店舗が取組む国産農畜産物の普及拡大や「こだわり宣言」等を理解する世代の幅と構成比を少しでも広げていかなければならない。

そのためにも多様な世代の取り込みが必要だが。

 ㈱エーコープ関東では、これまでの自社会員カードをTポイントカードに切り替えることで、会員数が30店舗で合計50万人から3㎞圏内200万人に広がった。足元のシェアがまだまだ不十分であり、足元で商品や店のことがよく知られていないことを真摯に反省し、1~1・5㎞圏内シェアを高めていかなければならないと考えている。
 キャッシュレス・カード決済比率も非常に高まっているが、これに伴う手数料等の費用の吸収が大きな課題となってくる。レジの省力化も含めたセルフレジ化も時代の流れとなっている。
 コロナを契機に外食業界での宅配率が一気に上がった。LINEと出前館が一緒になった新しいアプリも登場した。スーパーの惣菜などでも共用が検討されており、スーパーの惣菜と外食との戦いも予想される。生協の個配はコロナ禍で計画欠品を余儀なくされるほどに伸び、現在でも前年比120%程度で推移している。
 こうした現状をみても、いつでも、どこでも買物ができるインフラづくりは絶対に必要で、それに対応できる準備をしなければならない。デリバリーはもちろん、事前の注文品を帰宅途中に引き取るドライブスルーのようなサービスも求められてくるだろう。こうしたことを今年度中に実験的にでもスタートさせたい。
 これまでは買物弱者・不便者、高齢者向け中心の対応だった移動購買や電話やネットで受注し配達するサービスは、これからは全世代から要求される時代となった。コロナ禍ではJAタウンを通じてのファーマーズマーケットの「産直野菜の詰め合わせ」企画が前年比何倍も売り上げた。安全・安心を宅配で届けてほしいというニーズは避けて通れない。

全農のグループ会社としての今後の役割は。

 Aコープ店舗の経営理念である「地域社会の発展をめざす身近な拠点」「安全で新鮮な国産農畜産物の販売拠点」を具体的にどのように実践していくかを、もっともっと掘り下げなければならない時代になっている。高齢となった生産者が生涯現役で農業を続けられるような身近な販売拠点づくりは、農業者の健康寿命を伸ばす契機にもなるだろうし、安心・安全・新鮮な国産農畜産物を食べることは消費者の健康寿命伸長にも貢献するだろう。
 毎朝、店舗の開店を待って一生懸命買物をしてくれるご高齢のお客様がたくさんいる。有り難い限りで、毎日、感謝の気持ちでお迎えしている。皆さんは食べることを楽しみに店を訪れている。単なる地域のライフラインとしてだけではなく、そうした買物の楽しみや食べることへの喜びを裏切らないようにしなければならない。
 このコロナの時代だからこそ、余計にそう感じている。

《全国Aコープ協同機構の活動》

 全国Aコープ協同機構は、Aコープ店舗の競争力強化をめざし平成19年に「全国Aコープチェーン」を解散・再編し発足。
 店舗事業等を広域一体化したAコープ会社13社と一般社団法人農協流通研究所、JA全農を会員とし、全国合計の店舗数は約480店、令和元年度は約3000億円を売り上げている。近年は、ファーマーズ型店舗の出店を促進し、令和2年度末で累計30店舗の出店を予定。
 「メンバー会社の売上・利益確保による経営基盤の維持・拡大」「安全で新鮮な国産農畜産物と地域のくらしのサポート」を目的に、共通化・共有化によるメリット獲得に向けた活動を展開している。
 具体的には、①計画的な新規出店・改装による規模拡大、新規顧客開拓、イノベーションの創造などの店舗整備、②近隣Aコープ会社の統合、商系流通業との提携、本部コスト削減および投資リスクの低減、③来店客数・頻度・買い上げ点数増加対策、生鮮強化による差別化、新たなマーケットの創造、④作業省力化と生産性向上、共同システム利用によるコスト削減、人材確保・教育研修、などをめざす。

【全国Aコープ協同機構メンバー実績】

 令和元年度の売上高は、前年度実績をクリアしたのはAコープ鹿児島(101.9%)のみで全体では97.4%に留まった。計画比で100%を上回ったのは3社。粗利益では前年比クリア5社、計画比クリアが3社と、厳しい状況が続いている。客数は全体で98.3%となった。
 令和2年度の計画では、総売上高はトータルで101%を見込んでいる。特に㈱エーコープ関東108.2%、長野県Aコープ103.5%、㈱Aコープ九州が104.2%の計画で、いずれも6月にファーマーズ店の新店を出店している。
 令和2年8月末現在のメンバー実績はトータルで104.2%。今年4~6月の実績が大きく貢献し、11社が前年実績をクリアしている。 令和2年度は5店舗が新規出店を計画、このうち、11月開店予定の㈱Aコープ西日本のファーマーズ店を除く4店は6月に開店済みとなっている。

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