日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2020年12月15日号

2020年12月15日

日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会古村伸宏理事長このひと

労働者協同組合法の成立に思う

日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会
理事長 古村 伸宏 氏
働く人が自ら出資し運営に携わる協同組合
農協等とも連携し農林業の〟協同労働〟も

 12月4日、労働者協同組合法が成立した。働く人が自ら出資し運営にも携わる〝協同労働〟が法的に規定された。長年にわたり労働者協同組合の法制化に向けて運動を続けてきた日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会の古村伸宏理事長に、法成立までの経緯とこれからの活動に対する思いをきいた。


「主体性」と「協同」の両輪で

労働者協同組合の設立の背景と経緯から

 ワーカーズコープが、労働者協同組合法の制定を求めて20年がすぎた。この組織の出自は、戦後の復興期に公共事業を通して失業者を雇用していた失業対策制度が廃止されていくなかで、働く場を守ろうとしたことにある。人間が働き生きていくことは重要な人権であり、当然保障されるべきというのが主張だった。失業対策制度がなくなっていく中で、引き続きそうした主張と合わせ、自分達の経験を活かして働く場所をつくろうとしたことが、出発点になっている。

 一貫して「よい仕事」をキーワードとしてきた。自分のためだけでなく地域の人々のためになる仕事をしなければ働き甲斐はなくなる。地域や社会にとって意義のある仕事を追い求めてきた。

 「よい仕事」は、一人ひとりの主体的な意欲がなければできない。出資し合い、経営や運営について話し合い、そこで働く、この〝協同労働〟という働き方が、一番働く人達の主体性を発揮できる仕組みではないか、と1986年に自分たちを労働者協同組合と定めた。

社会的位置づけで働き方に選択肢

法制化を求めた背景と成立への思いは?

 この〟協同労働〟は、これまで企業組合やNPO法人を使ってきたが、法律がない中では前述のような仕組みを完全にカバーできるわけではなかった。現在1万5千人が働いているが、法的に定められていないが故に社会規範になっていないことがもたらす不安定性があった。法律ができることでこうした働き方が社会的に位置づけられることは非常に大きな意味がある。ワーカーズコープで働く人達の社会的発展の契機ともなる。今、働くことが困難な状況が広がっているなかで、こうした働き方への転換や、法人でも可能な限り主体性をもった働き方への選択肢の契機となるのではないか。

 主体性は自己努力だけでなく、一緒に働く仲間がいて経験等も共有し合いながら互いの強みを活かす協同の関係性のなかで育ち発揮されていく。主体性と協同の両輪で動いていく仕組みが、まさにこれから動きだす。

 コロナ禍の非常に辛い状況のなかで、法律が成立したことに偶然とは言い難い巡り合わせを感じている。

認可ではなく登記で設立できる

今回の法律の特徴は?

 目的には、生活との調和が十分保たれていないこと、個々の特性や意欲に応じて働く機会が十分得られているわけではないことが問題意識として明記された。その上でこの協同組合の目的を、多様な就労機会をつくりだす、多様な地域課題やニーズに応える仕事をする、持続可能で活力ある地域社会を実現する、としている。この目的の下、出資、意見反映、従事を基本原理とする組織と規定されている。重要なのは「労働」そのものをテーマとする協同組合は日本で初めてであることである。

 協同組合は、これまで行政の認可がないとつくれなかったが、法律上定めた条件さえクリアすれば登記できるようになったことも、この協同組合の法制にとって非常に画期的なことだ。もう一つは、事業に関わった分量に応じ剰余が出た時は分配できるが、他の協同組合で認められている出資配当はしないことで非営利性を明確にしている。併せて、3つの目的にかなっていれば、人材派遣業を除いて事業制限はないので、多様な分野やテーマで仕事をつくっていける可能性がある。

福祉から子育て、自立支援、農林業へも

現状の事業領域と今後の可能性は?

 この仕組みが誕生して約35年になるが、初期は失業対策事業で行っていた仕事の財源が変わり、例えば市税による公園管理の委託など、安定した収入が得られる領域を中心に置いてきた。90年代半ば介護保険制度の準備が始まり、ヘルパー養成講座を契機として人材を育て地域の福祉ニーズに応える仕事も広がった。その後、公共事業が民営化されるなかで、指定管理者制度に基づき学童保育など子育てに関わる挑戦が広がった。併行して、生活困窮者やニートなど就労に距離のある人達の自立支援なども広がり、そうした人達を仲間に迎え入れて一緒に仕事していくことも行っている。

 従って、ワーカーズコープは都市部を中心に広がってきたが、東日本大震災後、地域の価値を再発見、掘り起していこうと呼びかけ、耕作放棄地や放置山林等を借り受ける形で、農林業の領域に徐々にワーカーズコープの形態で事業を起こしていく取組みも始まっている。こうした選択肢が登場することで、多様な人達が多様な事業領域の課題やテーマをワーカーズコープという仕組みを使い解決しようとする流れが広がっている。

耕作放棄地等の解消支援で地域に活路

農協はじめ他の協同組合が協力していけることは?

 農協でも、耕作放棄地の解消や農福連携などの観点から共に取り組もうとする気運が高まり始めている。農業という地域のテーマと農家が持つ様々な経験値を、就労困難や地域の回復などワーカーズコープのテーマとつないでいくことが可能だとすれば、大きな協同組合と小さな協同組合の連携、大きな協同組合や連合会同士の連携にもなっていくのではないか。

 放置された山林を管理する仕事も森林組合と一緒に行っていける可能性が広がる。地方では、農協組合員と森林組合員が同一であることも多い。農協と森組とワーカーズコープの3者が同じテーブルで課題解決や方向性を考えていけば、地域の活路が開けてくるのではないかと力を入れている。

法律の周知・広報から

これからの取組みは?

 まずは法律ができたことを都道府県はじめ自治体と共に周知・広報していく。その中で興味や関心をもち参加してみたい人達へのアプローチやフォローをしていく。広島市では 〝協同労働〟に向けた基盤づくりへプラットフォーム事業を展開している。NPOの支援センター的なものを行政単位で整備していくことも必要になっていくだろう。

 コロナ禍で失業が非常に深刻な問題として広がっていくなかで、新たな仕事を手にするための職業訓練などにも取組んでいかなければならない。単に技能や資格を得る訓練だけではなく、そこに集まった人達のワーカーズコープづくりをメニュー化していくことも呼びかけていきたい。法の施行は2年以内となっているので、実際に動き出すための入口の支援をまず始めていく。

 施行後は、いくつかの連合会ができるだろう。新しい仲間の参画も得て、個々の労働者協同組合の経験や知識を広げていきたい。その中から新しい事業の開発や自治体との関係、制度的支えなどが編み出されてくる。厚労省の省令や指針づくりにも積極的に参加していきたい。

協同して働く〝文化〟を広げる

〝協同労働〟に込めた思いを

 人と人が協力する協同の原理を取り戻していくプロセスが〝協同労働〟。働く人達だけの協同ではなく、そこから発する事業を利用する人達とも協同の関係を創っていく。地域にともに暮らす協同の関係をもう一度取り戻すことを目指す労働という意味が込められている。ワーカーズコープが増えることで、世の中に協同して働くという文化を広げていくことが我々の使命だと思っている。


〈本号の主な内容〉

■このひと 労働者協同組合法の成立に思う
 日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会
 理事長 古村 伸宏 氏

■令和元年農業経営動向分析結果を公表=日本公庫

■農林水産物輸出閣僚会議で輸出拡大実行戦略とりまとめ
 27品目別の2025年輸出目標設定牛肉1600億円等

■〝ウィズコロナ〟の時代
わがJAの自己改革の現状と今後

■JA教育文化活動オンラインセミナー
 組合員との関係性強化とコロナ禍ですすめるJA教育文化活動

■JA共済連新任常務理事の3氏
 久保田 哲史 さん
 角野 隆宏 さん
 近藤 修一 さん

keyboard_arrow_left トップへ戻る