日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

JA全中馬場利彦専務理事インタビュー

2020年10月5日

これからのJA組織と全中の役割

JA全中馬場利彦専務理事

JA全中
専務理事
馬場 利彦 氏

 8月の全中通常総会で、専務理事に就任した馬場利彦氏(前日本協同組合連携機構=JCA代表理事専務・元JA全中参事)に、これからのJA組織の活動姿勢と全中の役割への思いを聞いた。


対話こそ不断の自己改革の途
「国消国産」で消費者が求める食料を

全中専務となっての抱負は?

 再任された中家徹会長は、総会で4つの課題に取組む決意を新たにした。

 第1は、不断の自己改革と准組合員の事業利用制限の阻止。第2は、JAの経営基盤確立強化と対話運動。第3は、食料・農業・農村基本計画の実践と国民理解の醸成。そして第4は、新型コロナウイルス感染拡大への対応だ。

 JCAの会長でもある中家会長は、コロナ禍の教訓を踏まえ「令和の時代は協同の時代」と強調している。まさにこれを成し遂げるのが私の仕事であり、この4つの課題の実現に向けて全力を尽くしていきたい。

中家会長は「国消国産」というフレーズを強調しているが。

 コロナ禍で我々は、マスクを始め多くの物が日本で作られていない現実を突きつけられた。もし食料がマスクのような事態になっても食料はすぐには作れない。海外に部品を輸出して完成品を輸入している工業製品は、根っこの部分を海外に握られている。そんな国でいいのか、という思いが募る。つまり、「日本で消費するものは日本で作ろう」ということだ。

 特に、過度な国際化・自由化が進展するなか、国民の命を支える食料は国内で産出する「国消国産」を進めていく必要がある。まさに「農は国の基」だ。

 消費者が求める食料を国内で生産する。消費者から選ばれる安全・安心で安定的に供給できる食料生産に、生産基盤を強化しながら取組んでいくことがこれからの農業の道筋になると思う。

対話運動をどう進めていくか。

 コロナ禍で、現場では対話自体に苦労されていると思うが、協同組合運動は対話から始まる。みんなの思いをまとめ、どうしたらそれが叶うかを考えることが協同組合の原点だ。この間の自己改革で、JAは本当に組合員の考えを把握しているのか、JAの経営状況など諸情報を組合員に伝えているのかを含めて、地域の課題にきちんと向き合うために対話しているのか改めて問われた。そして、対話をしなければ改革が出来ないことに気づかされた。

 戦後合併を繰り返しながら今に至っている農協組織は、より一層強く組合員と向き合っていかなければ、距離は遠のき協同組合運動ではなくなってしまう。

 コロナ禍で対話の機会が少なくなっているからこそ、デジタル技術の活用をはじめ、あらゆる手段を講じて対話を続けていかなければならない。その改革のエンジンとしての全中の役割を果たしていきたい。

 JAも同様で、組合員との徹底した対話で、経済事業改革や経営基盤強化等の課題を共有し、その解決策を組合員とともに考えていかなければならない。

 組合員との対話運動こそが、不断の自己改革の途である。

米の需給問題がクローズアップされているが。

 生産者が主役となって米の生産を考えるシステムとなり、県や地域の再生協議会が地域の水田営農ビジョンを作っている。生産者全体が、このままの米作りを続けていいのか、売れ残らない米作りをするためにはどうしたらいいのか、地域の水田農業の姿を本気で描いていかなければならない。

 たとえ自分の米が売れたとしても、JAや卸のどこかで残っていれば過剰基調で価格が下がる。こうしたシグナルを絶えず送り、売れ残らない米作り、需要に応じた米作りを地域のみんなで議論していく必要がある。その生産に向けた基盤を支えるような対策を打っていかなければならない。

次期JA全国大会に向けての考え方は。

 第29回となる次期JA全国大会は来年度に控えている。また、来年3月末には、いわゆる“5年後条項”、准組合員の事業利用制限の検討期日を迎える。これを阻止することがまず前提にある。准組合員の積極的な意思反映・運営参加につとめ、関係を強化し理解と評価を得ていきたい。

 その上で、今後のJAのあるべき姿を考えていく。コロナ禍、人口減少、一極集中型の社会からどう脱却し、これからのJAを構築していくのか。次期大会はその大きな分岐点となるだろう。

 平成24年の第26回大会では、「次代につなぐ協同」、「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」を掲げ、持続可能な農業の実現、豊かで暮らしやすい地域社会の実現、協同組合としての役割発揮を、JAの姿として描いた。それから10年、この間の取組みを踏まえ次の10年をどのように進んでいくかを提起する極めて重要な大会になると思う。

 新型コロナウイルスで、国消国産とともに相互扶助の重要性も再認識された。新しい働き方が定着する中で改めて地方への目も向けられ始めている。これを契機に、今の苦しい状況を乗り越え、農業・地域の未来を切り拓いていく農協運動の一端を担っていきたい。

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