日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

農林中金ならではの「サステナブル経営」

2020年10月15日

持続可能な社会の実現に向け、存在意義を見つめ直す農林中央金庫八木正展氏常務執行役員

農林中金ならではの「サステナブル経営」

農林中央金庫
常務執行役員
八木 正展 氏
持続可能な社会の実現に向け「サステナブル経営」実践

 持続可能な社会の実現に向け世界が動き出している。企業においても持続的(サステナブル)に事業活動を行なうためには、その経営基盤である環境・社会が持続可能となるような事業活動の実践が求められている。農林中金ではサステナブル中期目標を定め、グループ会社と一体になりサステナブル経営を推進している。農林中金がめざすサステナブル経営について、担当の八木正展常務執行役員に聞いた。


環境・社会・経営の持続可能性確保に向けて

農林中金はなぜサステナブル経営を開始したのか。

 地球温暖化による自然災害の多発、世界的な人口増加、食料不足、生物多様性の喪失など、地球規模での環境・社会課題は深刻さを増しており、その課題解決の重要性・緊急性は年々増している。

 国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」や気候変動への取り組みである「パリ協定」を踏まえて、社会の持続可能に向けた国家、企業の取組みは進展しており、ステークホルダーからは、企業に対する社会課題解決への期待も高まっている。

 こうした潮流を受け、企業に期待される役割は変化している。従来は、環境・社会の「サステナビリティ」と企業の存在意義である「パーパス」、経済的側面である「収益」は、それぞれ別々に実現すればよいという価値観だったが、今日においては「サステナビリティとパーパス」を前提としなければ、「収益」を生み出すことができないという価値観に変化を遂げてきた。この価値観がサステナブル経営のベースになると考えている。

 こうした認識を踏まえて、農林中金においては農林水産業の協同組織を基盤とする金融機関という原点に立ち返り、環境・社会の持続可能性とともに、自らの経営の持続可能性の確保に向けてサステナブル経営に取り組んでいる。

農林水産業の環境への影響認識は〝機会〟と〝リスク〟の両面で

農林水産業での課題を踏まえた取組みの背景は?

 近年、頻繁化かつ大規模化する台風や大雨で農林水産業は多くの被害を受けている。農林水産業は、気候変動に最も大きな影響を受ける産業のひとつであり、地球環境と調和していく、というスタンスがとりわけ重要と考えている。

 世界では、温室効果ガス排出量の4分の1は農業・林業・その他土地利用由来によるものと報告されている。一方、国内では、農林水産業由来の排出は全産業の約3%にとどまっており、加えて、国内農林水産業の排出分は、国土の3分の2の面積を占める森林が吸収しているという実態もある。

 こういった農林水産業を取巻く環境課題を〝機会〟と〝リスク〟の両面で認識したうえで、農林水産業が持続可能なものとなるように、ビジネスを通じた課題解決に取り組む必要がある。

環境への意識高い若い世代の期待にも応えられるように

具体的な取組みは?

 2019年4月に当金庫の総合企画部内に「サステナブル経営室」を設置し、サステナブル経営を開始した。

 農林中金のサステナブル課題として、①農林水産業・食・地域へのポジティブインパクトの創出、②責任ある金融の推進、③サステナブル経営の推進、④高度な人財の確保、⑤金融機関の信頼基盤の維持、の5分野で計14課題を設定した。今年度からはこれを当金庫グループ全体の課題として位置づけている。

 推進に当たっては、理事会傘下に「サステナブル協議会」を設置し経営層で協議。また、若手職員を含む組織横断で取組み内容を検討する場としてCFT(クロスファンクショナルチーム)を設置のうえ様々な視点での検討をすすめている。

 またステークホルダーの意見を伺うため、外部有識者との意見交換会や、全職員向けに外部講師を招いた勉強会を開催。他にもeラーニングや階層別研修のプログラムに取り入れるなど取組みをすすめている。

 世の中に取組み内容を伝えていくことも重要と考えている。8月末には「サステナビリティレポート2020」を発行。我々の取組みについてステークホルダーの皆様の理解を深めていただけるように心掛けている。

 また、若い世代は、サステナビリティに対する意識が非常に高いと感じている。一つの契機として、東日本大震災を経験したことによる価値観の変化が挙げられるのではないか。〝環境や社会に貢献できるような仕事をしたい〟と考える若者が着実に増えている、就職にあたっても、サステナビリティに対する企業の取組を学生は注目している。若い世代の期待にも応えられるように取組みをすすめていく。

機会獲得とリスク管理の2つの側面からアプローチ

ビジネスとしての取組みは?

 サステナブル経営をビジネスとして実践していくにあたっては、機会獲得とリスク管理の2つの側面からアプローチしていくこととしている。例えば、投融資にあたっては、従来の財務リスクに基づく与信判断に、環境・社会リスク認識を統合する枠組みを導入した。収益の確保を前提に、持続可能な社会や農林水産業への発展につながる投融資を実践していく。

 具体的な事例をあげると、お客様の経営戦略上の環境・社会課題解決に向けた取組みを促進する金融商品である「サステナビリティ・リンク・ローン」の取扱いを開始した。また、JAバンクとして、再生可能エネルギー需要に対する取組みへの対応も強化している。

 農林中金だからこそできるビジネスを着実に実践していきたい。

このチャレンジを次の100年に向けた第一歩に

中長期的な今後の取組みは?

 昨年、米国のビジネスラウンドテーブルでは、「株主第一主義」から「ステークホルダー第一主義」への転換が掲げられ、足下のコロナ禍からの経済復興に向けては、環境課題解決もあわせ取組む「グリーン・リカバリー」が世界では主流となっている。

 こうした潮流も踏まえ、サステナブル経営の高度化に向けて検討を進めている。  具体的には、理事長以下全役員参加の下、2050年を見据えた農林中金の存在意義や、2030年を見据えた中長期目標について議論を継続している。

 農林中金の存在意義を見つめ直したうえで、社会に対してどのようなインパクトを創出するかを整理し、その実現のため、ビジネスベースでの施策を講じていくこととしている。

 こうしたチャレンジが、次の100年に向けての第一歩になるのではないかと考えている。

関係者をつなぐ役割果たし協働しながら

将来に向けて。

 農林中金は、金融機関の顔を持ちながら、農業、漁業、森林業の各協同組合の中央機関というユニークな立ち位置にある。

 サステナビリティの取り組みを実践するにあたっては、関係者同士の〝つながり〟が重要なポイントとなる。農林中金が各組織をつなぐ〝ハブ〟になり、関係者で協働しながら取組みをすすめていくことは、期待される役割のひとつと考えている。

 相互扶助の精神を含め協同組合はSDGsとの親和性が高い。

 持続可能な社会の実現に向けて、農林中金自身、ステークホルダーの皆様と一緒にもう一歩踏み出せるかが問われていると考えている。仲間が増えれば、歩を進めるごとに面積が広がり効果も大きくなる。

 農林中金のブランドステートメントでは、〝持てるすべてを「いのち」に向けて〟を掲げている。山に雨が降り保水され、滲み出た水が川となり大地を潤し豊かな食を育む。その滋養のある水が最終的に海に注がれ豊富な魚介類を育て、さらに海水が蒸発して雨になる。この循環が地球環境そのものと思う。

 地球環境と農林水産業の調和に貢献していくことが、結果として農林水産業の持続性を確保することになる。持続可能な社会の実現に向けて、これからもしっかり取り組んでいきたいと考えている。

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