日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2020年9月25日号

2020年9月25日

JA全厚連山野徹経営管理委員会会長インタビューこのひと

JA厚生事業のこれから
~コロナ禍での保健・医療・福祉~

JA全厚連
経営管理委員会 会長
山野 徹 氏
健全経営支援で事業活動堅持
組合員・地域住民に健やかな生活を

 全国厚生農業協同組合連合会(JA全厚連)は、7月末に開催した通常総会・経営管理委員会で、経営管理委員会会長に山野徹氏(鹿児島県厚生連経営管理委員会会長)を新たに選任した。山野新会長に、コロナ禍でのJA厚生事業の現状や課題を聞いた。


迅速・丁寧・誠実に課題対応

まず、就任の抱負を

 農家組合員、地域住民の健康を支えていくのがJA厚生事業です。そのためにJA全厚連は、今次3か年計画で「厚生連事業活動の堅持」を最重要テーマに、経営悪化の未然防止をはじめとする「健全経営支援」に最優先で取組んでいます。

 いま、新型コロナウイルス感染症により、JA厚生連は病院の患者数の減少や、健診事業の延期・中止などで、事業開始以来最も厳しい経営状況にあります。医師不足や2025年度に向けた地域医療構想への対応等の課題も山積するなかで、会員厚生連の負託に応えていくためには、JA全厚連は、これまで以上の緊張感をもって、迅速・丁寧かつ誠実に事業課題に対応していく必要があります。

 大変厳しい環境下ですが、「組合員や地域住民が健やかに生活できるよう、各事業を通じて支援を行うことで地域社会の発展に貢献する」という使命を果たせるよう、皆で知恵を出し合って取組んでいきます。また、保健・医療・福祉にかかる諸政策に柔軟に対応しつつ、全国の厚生連相互の連携を図り、JA厚生連グループ一体となった取組みを行うことができるよう、役職員一丸となって尽力していきたいと考えています。

患者・健診受診者減、厳しさ増す経営

コロナ禍での対応と影響は?

 コロナの感染拡大はなかなか終わりが見えず、新たな問題も次々と発生するなか、日夜奮闘を続けている医療従事者のみなさんには心から感謝しています。全国に105ある厚生連病院のうち、33病院が感染症指定医療機関となっており、その他の病院でも、感染者の受入れや帰国者・接触者外来の設置など、地域の中核病院として必要な機能を提供しています。

 今後とも地域に求められる機能を発揮していかなければなりませんが、一方で、経営面では厳しい状況に追い込まれています。受診控えや入院予定の延期等もあり、入院患者・外来患者とも大きく減少しています。健診受診者数も大きく減少しており、健康管理活動のみを行う厚生連も大きな打撃を受けています。

 厚生連全体の経営は4~6月末の累計で200億円以上の赤字となっており、経営を維持するためにも、さらなる支援を国に求める要請活動を実施しています。

医師の偏在是正、地域医療構想へ対応策

JA厚生事業を取り巻く環境と課題は?

 厳しい環境の中でも特に、医師の不足・偏在は大きな課題となっており、地域医療の提供に支障をきたしている病院もあります。国による医師の働き方改革が進められていますが、医師不足が深刻な地方では拙速な改革が地域医療の崩壊に繋がるおそれがあります。医師の偏在是正を国に強く求めていきます。

 施設の建替えや医療機器の購入などに係る消費税の負担も、病院経営を大きく圧迫しています。診療報酬の改定による補てんにバラつきがあることから、その解消を国に求めています。

 各地域の医療提供体制の再構築をめざす地域医療構想への対応も重要な課題です。国は、昨年9月に、具体的対応方針の再検証を要請する公立・公的医療機関のリストを公開しましたが、データのみを基準とした再編統合ありきの議論とならないようにする必要があります。本会としては、地域ごとに求められる厚生連の対応策等を、個別に検討・協議することしています。

 事業継続には経営の健全性確保が不可欠です。昨年度設置した厚生事業審議会では、経営悪化を未然防止するため、JA全厚連の経営管理委員会で経営健全化策を協議し、特に支援が必要な場合は、会長名で当該厚生連に提言できる仕組みをつくることが答申されました。今年度からしっかり機能するよう努めていきます。

予防から治療までの一貫体制で

自身のJA厚生事業との関わりと地元厚生連の取組みは?

 26歳の時、厚生連の人間ドックを受診したのが初めで、以来継続して受診しています。

 JAの役員になってからは、厚生連や行政と一体となって「健康づくり懇話会」などを開催し、農家組合員や地域住民の健康診断の受診をアピールしてきました。

 鹿児島県厚生連は、病院を持つ厚生連の中でも、特に健康管理活動に力を入れています。老朽化や狭隘化が進んでいた施設も平成30年5月に新築移転しました。

 私は会長として新病院の建設とその後の運営に全力で取組みました。「予防から治療に至る一貫体制」の理念のとおり、健診部門と診療部門が一体型で運営されており、それぞれが相乗効果を発揮できるよう取り組んでいます。

 健診部門は、施設での人間ドックなどの健診はもとより、離島を含む県内各地を検診車で巡回し、組合員・地域住民の健康を支えています。

 診療部門では、鹿児島県がん診療指定病院に位置づけられています。地域包括ケア病棟もあり、生活復帰を円滑にすすめる機能や、在宅や介護施設等からの緊急時受入れを担っています。

質の高い事業で健康を守る

JAグループの中での厚生事業の役割を

 JA自己改革においては、「農業者の所得増大」、「農業生産の拡大」、「地域の活性化」が基本目標とされていますが、これらの目標を達成するためには、組合員をはじめとする地域住民の健康を守ることが重要です。

 今後も引き続き質の高い事業を実施することで、地域住民の健康を守るという我々の使命を果たしていきたいと考えています。


〈本号の主な内容〉

■菅内閣が発足 新農相に野上浩太郎氏

■このひと JA厚生事業のこれから~コロナ禍での保健・医療・福祉~
 JA全厚連 経営管理委員会 会長
 山野徹 氏

■JAグループにおけるIT活用の現状と今後
 JA全農 IT推進部    小畑俊哉 部長
 JA共済連 IT企画部   斎藤幸文 部長
 農林中央金庫 IT統括部 半場雄二 部長

■JA全農農家所得増大に向けた野菜の契約栽培の取組み

行友弥の食農再論「『激辛』の料理人」

keyboard_arrow_left トップへ戻る