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JA全農令和2年度事業計画のめざすもの
JA全農
代表理事専務
野口栄 氏
JA全農は3月24日、臨時総代会を開催し、令和2年度の事業計画を決定した。今次3か年計画の2年度目として自己改革の取組みを加速化するとともに、3か年計画で掲げた最重点施策の実現に取組むことを基本方針とした令和2年度事業のポイントを、全農・野口栄代表理事専務に聞いた。
生産現場の下支えを最重点に
■まず、感染拡大が続く新型コロナウイルスの影響と対策から
政府から発出された緊急事態宣言は、対象地域が全国に拡大されました。こうした中、農業生産や市場流通、スーパーなどの農畜産物販売などで大きな影響が出ています。全農の事業へも少なからぬ影響が出ています。そして何より、農家・組合員の経営への影響が懸念され、安心して経営を継続いただくためには、支援策を長期的に講じることが求められます。
生産現場では、和牛や牛乳をはじめとする畜産物、花き等の需要が落ち込んでおり、JAグループとして消費拡大に一生懸命取組んでいるところです。全農としても、消費喚起のため積極的にキャンペーンを打っていきたいと考えています。
さらに、生産現場では、外国人技能実習生の確保が非常に困難になっており、この春先、とくに園芸地帯では労働力不足で大変困っています。産地への労働力支援の実施は急務です。
全農では北部九州等で労働力支援の取り組みをこれまでも展開しています。こうした経験を糧に、全中等と協議しながら、どのような形で生産現場への支援を拡充できるのかを考えているところです。
全農グループでは、飲食店舗も持っていますが、新型コロナの影響は2月末から出始め、3月、4月と状況は厳しさを増しています。
生産資材部門の農機や肥料・農薬等については、部品や原料調達などへの影響が懸念されましたが、今のところ大きな影響はないとみています。
全農は事務職場だけでなく、農畜産物の集荷、加工、物流や生産資材の受発注・配送など、現場も多く抱えていますが、BCP(事業継続計画)をふまえ物の流れが止まらないよう、最大限の取り組みをしているところです。 何よりも生産現場の下支えを最重点に、今後も状況を見極めながら、農畜産物の需要喚起や生産支援などに適切に対応していきたいと思います。
着実に進む自己改革への取組み
■3か年計画の初年度である令和元年度の取組みを振り返って
初年度が終わりましたが、全農の自己改革に向けたいくつかの取組項目は、着実に進展しています。
例えば、肥料の銘柄集約や農薬の担い手向け大型直送規格、大型トラクターの共同開発などによるコスト引き下げに取組み、扱い量が順調に伸びています。
販売関係でも、米や青果物の直接販売の拡大や園芸部門での広域集出荷施設の設置等が計画通りに進んでいます。
ただ、部門によっては、まだまだ〝タネ〟を撒いたばかりのものがたくさんあります。これらをどのように芽出し育て、事業分量や収益に反映させていくのかが、これからの大きな課題です。
事業実績をみると、昨年度は特に青果物の相場安や秋口の自然災害の多発等により、大きく影響を受けた品目や部門があり、大変厳しいものとなりましたが、総合的に見て自己改革や3か年計画で掲げた項目の取組みは着実に進んでいると評価しています。
さらには、販売を起点とした生産拡大を図るため、昨年4月に設置した全農グループMD部会では、関連事業者等からも参画を仰ぎ様々な商品開発に取組み、着実に実績を積み上げています。
例えば、輸入シェアの高いブロッコリーについて、輸入品から国産への切り替えに向け、花蕾の大きな品種の契約栽培を提案し、大手コンビニのサラダやサンドイッチ向けに販売するとともに、学校給食向けなど冷凍商品化に取組んでいます。また、カボチャではの複数の産地に作付を提案しリレー出荷の体制を組み、業務提携先に安定供給することで加工品向けへの販売拡大につなげています。
こうした実際に生産に結び付く取組みを拡大していくことで、農家組合員の所得向上につなげていきたいと思います。
深刻化する生産現場の労働力不足
■令和2年度事業を取り巻く情勢は?
農業就農人口の急速な減少が続いており、スマート農業への取組みや労働力支援など、深刻化する労働力不足への対策が急務となる一方、農業経営体の大規模化等も進み、多様化する生産者ニーズへの対応も求められています。加えて、農畜産物の物流を支えるドライバー不足も顕在化しており、物流合理化に向けた取組みが喫緊の課題となっています。
消費側においては少数・共働き世帯の増加を背景とした中食・外食市場の拡大で、加工・業務用需要への対応が求められているほか、eコマースの市場の急速な伸長や、インバウンド需要への対応も必要となっています。
さらに、大雨・台風などによる農畜産物や農業用施設の被害が相次ぎ、復旧・復興に向けた迅速な対応が求められていること、また、TPP11、日EU・EPAに続き、今年1月には日米貿易協定が発効するなど、国内農業は様々な課題に直面しています。
令和2年度事業の基本方向
■こうした情勢をふまえた令和2年度事業の基本方向は?
今期中期3か年計画では「すべては組合員のために、そして消費者、国民のために」という基本姿勢のもと、急速に変化する生産・流通・消費構造や海外情勢に対応するため、5年後、10年後を見据えた取組みをすすめています。
本年度は、まずは、米・青果物の直接販売や資材の共同購入の拡大など、自己改革の取組みを加速化すること、そして、3か年計画で掲げた5つの最重点施策「生産基盤の確立」、「食のトップブランドとしての地位の確立」、「元気な地域社会づくりへの支援」、「海外戦略の構築」、「JAへの支援強化」の取組みを着実にすすめます。
農畜産物の物流合理化も
■まずは、「生産基盤の確立」から
農業生産基盤の弱体化が進む中で生産現場の労働力を補うための支援が大きなテーマです。例えば北部九州で取組んでいるようなパートナー企業と連携した生産現場への労働力支援など、様々な方法を検討していきます。
生産現場の効率化に向けては、AIや農業ICTなど革新的技術の導入・普及も大きなテーマの一つです。「Z-GIS」のような営農管理システムをさらに普及・拡大させていく必要がありますし、ドローンや自動トラクターの導入などにも取組まなくてはなりません。
一方で、農畜産物の物流合理化も、生産基盤確立のための重要なポイントです。前述のように、全農では各地に広域集出荷施設を立ち上げ、産地側のストックポイント(一時保管を行う中継施設)を整備し、物流の合理化を図っていますが、消費地にもストックポイントを構えて、その間の物流を効率化していく必要があります。日本の総人口が減っている中、物流の合理化も今後の生産現場において考えなければならない重要な課題です。
生産から消費までバリューチェーン構築
■「食のトップブランドとしての地位の確立」では?
前述の全農グループMD部会では、今後ともいろいろな業種、いろいろな品目の方々と提携し、生産者と結びついた形で出口戦略のしっかりした商品の開発に取組みます。これまで60品目余を開発しましたが、今年度は新たに30品目ほどを開発する計画です。
こうした取組みも含めて、生産から消費までのバリューチェーンを構築し、輸入農畜産物に奪われている市場を国産農畜産物に置き換えることをめざします。
併せて、小家族、共働き世帯の増加などを背景に日本人のライフスタイルがどんどん変化していくなかで、家庭での調理の簡便化や時短化の傾向や外食等へのシフトが進む現状に対応するため、外食や中食事業者など実需のニーズに応じた農畜産物を産地と組んで提供していく取組みも加速化していきます。
ライフライン対策拡大、農泊へも対応
■「元気な地域社会づくりへの支援」では?
農村や中山間地域のライフラインを支える取組みを拡充します。移動購買車やJAの生活店舗の業態転換や再編促進、コンビニをはじめとした他企業との業務提携をさらに拡大します。
地域の人たちが元気になるためには、地域に人を呼び込み、新たな動きを起こさなければなりません。その意味でも、農泊など新たな分野の事業化をすすめます。
具体的には、今年度からJAや組合員の農泊開業サービスの提供を本格的に実施しており、初年度は50件のサービス提供が目標です。
また、電気とLPガス、灯油のホームエネルギーの最適利用を提案し、事業拡大をすすめます。
海外輸出拠点の新規設置へ
■「海外輸出戦略の構築」では?
輸出拡大に向けた既存輸出国における販売強化、営業拠点の新規設置、輸出用産地の拡充に取組むとともに、購買部門における海外からの原料・資材の調達力を強化します。
本来ならば、中国への輸出拡大に向けて現地事務所を近々オープンする予定でしたが、残念ながら新型コロナ感染拡大の影響により遅れています。いずれにしても、感染拡大の終息を待って、相手国の状況を見定めながら新たな気持ちで取組んでいくことにします。
モデルJAの取組み拡大、経営分析ふまえ
■「JAの支援強化」では?
JA個別の課題に対しては、農家手取りの最大化を目指して〝モデル55JA〟を設定し、どのような事業改革ができるのか、それがどのような形で組合員サービスやコスト低減につながるのか、様々に取組んできたメニューがあります。それを全国のJAに拡大するよう取組んでいるところです。
そうはいっても、JA単独、JAエリア内だけでなく、広域で展開した方がはるかに効率的で、よりコストが低減できる取組みも、青果物の選果場や集出荷場、米の倉庫、生活関連事業や農機事業等で多くみられます。こうした取り組みについては、JA域を超え、JAと連合会が一緒になって事業展開するような、拠点型事業の一体的運営の支援に取組みます。
全農では今、全中、農林中金と連携して、JAの経営分析の〝見える化〟に取組んでいます。経営分析を行った上で課題を抽出し、JAの経営改善につなげていきます。
とくに、県域JAのJA高知県とJAしまねの経営分析には全面的に参画し、さまざまな改善提案を行っており、この取組みを他の県域JAにも拡大させていき、少しでもJAの事業改革に貢献していきたいと考えています。
いずれの取組みも、各JAの環境や実績に応じて柔軟に対応していくことにしています。
3か年計画と同水準の取り扱い、施設取得に力
■2年度の経営計画は?
取扱計画は、総額4兆8400億円で、平成30年度実績比105%を掲げました。米の取扱数量の拡大や、園芸事業における実需者ニーズをふまえた生産振興による増加などを見込んでいます。3か年計画と比較すると、販売事業が下回るものの、生産資材など購買事業が上回ることで、全体としてはほぼ同水準の計画としています。
収支計画は、30年度に比較して取扱量分量が増えることで、事業総利益が増加、事業管理費を30年度実績並みに抑制することで、事業収益は30年度実績を上回る水準としました。
最終的な当期剰余金は51億5千万円を計画しています。3か年計画策定当初と比べると、販売事業の取扱高減少と直接販売の拡大、購買事業における低価格品の取扱拡大など、事業総利益は3か年計画を下回り、残念ながら事業利益の黒字化には至らない計画となっています。
当期未処分剰余金は86億5千万円。利益準備金10億円、出資配当金は2%の23億円、任意積立金30億円を計画します。
施設取得については、前年実績比193%の268億円と非常に大きな投資を計画しています。生産基盤強化、物流合理化に必要な施設の取得、システム基盤強化などを計画しています。
「全農グループ」としての事業展開へ
■これらの計画を実践していく上で、2年度計画では特に、「全農グループ全体としての取組み強化」を掲げていますが
全農グループの事業競争力強化に向けた、グループ内の事業連携や会社再編、管理業務の合理化など、経営資源の有効活用をすすめ、効率的な業務運営・経営管理に取組むとともに、グループ経営による会員への還元の仕組みを検討します。
全農の事業体は、今や全農単体では語れません。130社余のグループ会社一体でグループとして事業を展開していかなければ、組合員や生産現場の負託に応えられない時代となりました。
現在、県本部が抱えている会社も含めて全農グループ全体を4グループに分け、事業競争力をさらに高め、組合員サービスを向上するために、どのような事業形態、組織形態がいいのかを検討しています。
例えば、パールライス事業では、エリアごとの精米工場や倉庫も含め効率的な組織体とするため、再編だけではなく事業や広域施設のあり方も含めて検討しています。
「全農グループとしての事業」をいかに展開していくかは、今後の大きなテーマになっていきます。
JAの広域合併や県域JA組成の検討が全国的に広がる中、地域の実態やJAのニーズに柔軟に応じながら、計画を実践していくことが何よりも重要です。
最後に、新型コロナウイルスの感染拡大は予断を許さず、先行きが見通せない状況が続いていますが、組合員や消費者のみなさまの営農や生活に支障をきたさないよう、全農グループ一丸となって取組んでいく所存です。
〈本号の主な内容〉
■このひと
JA全農令和2年度事業計画のめざすもの
JA全農 代表理事専務
野口栄 氏
■JA全農 令和2年度事業別実施具体策・行動計画
■JA全農都道府県本部による地域生産振興・販売力強化に向けた取り組み
■JAグループ農業倉庫保管管理強化月間