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日本農民新聞 2019年2月5日号

2019年2月5日

JA全厚連中村純誠代表理事理事長このひと

70周年迎えたJA全厚連

JA全厚連
代表理事理事長
中村純誠 氏

地域のインフラとして医療を担い
地域医療の守り手の中核としても

 農村地域を中心に医療や健康増進、高齢者福祉等を担い地域の欠かせないインフラとなっているJA厚生事業。その全国団体であるJA全厚連が発足してから今年度で70周年を迎えた。JA全厚連代表理事理事長の中村純誠氏に、70年の歩みとJA厚生事業の役割、課題や今後について聞いた。


今の時代に合った医療提供を

JA全厚連70周年を迎えての思い

 JAの医療事業は、大正8年に島根県青原村で、産業組合法下の信用購買販売生産組合が診療所を開設して医療事業兼営を始めたことが事の起こりとされている。農村地域の無医地区の解消と低廉な医療供給を目的に始められたものだ。以降、賀川豊彦氏らの思想をもとに、昭和7年には東京都で東京医療利用組合が結成され、後に医療利用組合設立運動が全国的に広がっていった。

 産業組合は戦時中に農業会に改組され、昭和22年公布の農業協同組合法のもと23年に農業会が解散、都道府県・郡単位の厚生連とともに全国機関の全厚連が設立されて、医療事業を継承した。

 今年度はそれからちょうど70年。青原村から数えれば99年になる。窮乏した農家自らを守るため始めたこの運動は、まさに農協運動と志を一にしている。

 長い歴史の中で、先人たちが自らのために必要な医療を築き上げてきた思い、努力には本当に頭が下がる。そしてその事業を引き継いでいることについて、あらためて身の引き締まる思いだ。

 この間、医療事業をめぐる経営環境は大きく変わり、医療技術もめざましく高度化してきた。その中で厚生連病院の医療技術は、他の大学病院等と比べても遜色ないレベルに達している。

 先人たちのたゆまぬ努力の賜物をしっかりと受け継ぎ、今の時代に合った医療提供をきちんと続けていく使命が我々にはある。地域のとりわけ組合員の方々が安全で健やかな日常生活を送れるよう医療環境を提供することに、なお一層、全精力を注がなければならないと決意を新たにしている。

組合員のくらしと健康を守るために

この70年間のトピックをあげると?

 大きな節目として、まず昭和26年に厚生連病院が、医療法上の公的医療機関に日本赤十字・済生会等とともに指定されたことがあげられる。

 昭和45年の第12回全国農協大会で「生活基本構想」が打ち出され、「組合員のくらしと健康を守る運動」の一環として健康管理活動が明確に位置づけられたことも重要な節目だ。

 昭和59年度税制改正大綱では、厚生連の営む医療保健事業に係る非課税措置が明記され、長年の念願だった法人税等非課税が実現した。

 平成10年度税制改正では、厚生連の事業要件を緩和し、老人福祉に関する事業を認めることが盛り込まれた。これにより、法人税非課税のもと老人福祉事業を実施できるようになった。

 さらに19年12月の改正老人福祉法の施行により、厚生連による特別養護老人ホームの直接経営が可能となった。

 23年の東日本大震災発生時には、被災地復旧・復興へ向けて、JA厚生連グループ全体で延べ3000名弱の医療救護員・DMAT(災害派遣医療チーム)隊員を派遣したことも思い起こされる。

 また特筆すべきは、厚生連が「農村医学」の発展をリードしてきたことだ。農村医療の向上をめざし農村医学を世界に先駆け提唱した佐久総合病院(長野)の故・若月俊一氏が掲げた農村医科大学構想を受けて、JA全厚連が設立準備委員会を設置、昭和45年の第12回全国農協大会では農村医科大学設立に向けた決議を行った。

 国の方針によって、農協による医科大学設立は実現しなかったものの、この運動が、農村医科大学と趣旨が近い自治医科大学の設立に影響を与えた経緯がある。

地域になくてはならない病院に

事業を取り巻く現在の環境は?

 現在、国をあげた医療再編が、2025年に向け進められている。団塊世代を中心に高齢者医療がピークとなるその時期に向け、人口減少下でも医療を効率よく提供するために、地域の医療圏ごとに病院の機能や施設を再編する取り組みだ。

 厚生連病院は約半数が人口5万人未満の市町村に存在し、地域医療の代表的な担い手となっているため、自ずと地域医療再編の中核となり得る。

 そこで課題となるのが、医療需要に見合った病床の適切な配置が望まれながらも、総じて高度急性期と急性期の病床が過剰で回復期と慢性期の病床が不足しているという現状だ。高度急性期でなければなかなか医師を集められないなどの理由から、急性期に重点を置きがちな傾向が一般に見られ、機能別の配置はアンバランスになっている。

 これを是正するため、各都道府県は医療機能ごとに2025年の必要病床数等を定める「地域医療構想」を平成28年度までに策定。各厚生連は、公的医療機関として率先して将来の医療機能等を記した「公的医療機関2025プラン」を策定しており、各都道府県はこれをふまえ地域医療構想調整会議で2次医療圏での各病院の機能について検討している。その中で医療圏の中核的な病院になるためには、病院機能についての総合的な検討が必要になる。

 もとより厚生連病院の多くは、地域に必要な医療機能をまんべんなく担っている。そこを前面に出しながら、地域で自らが果たす役割・重要性を主張し、位置づけを明確にしていくことが重要だ。質を下げることなくさらに整備し、引き続き地域になくてはならない病院として存在していく流れをいかにうまく、主体的につくっていくかが問われる。

 また、国は現在、医療・介護を地域全体でまかなう「地域包括ケア」に向けた取り組みを進めている。日常的な医学管理や看取り等の機能と生活施設としての機能を兼ね備えた新たな介護保険施設「介護医療院」が昨年4月から開設できるようになったこともその一環で、厚労省は、現状の療養病床の介護医療院への転換を提唱している。

 こうした流れは、地域医療の充実をめざすJA厚生事業の目的に合致するものであり、すでに医療・介護の連携を厚生連が実現している地域もある。

 ただ、非常に人手がかかる高齢者福祉は、経営面では難しい領域だ。県域・医療圏・JAごとに、有する施設、経営資源をうまく活用しながら、できる範囲で地域に合った事業を展開し、役割を果たしていくことが必要なのではないか。

JA厚生連グループとしての広報強化

全国連としての役割と取り組み方向は?

 厚生連病院が地域になくてはならない病院として存続し続けることと同時に、JA全厚連も、会員にとってなくてはならない組織であり続けるためには実質的な行動が問われる。

 まず、JA全厚連の最大の機能である、会員厚生連の経営悪化の未然防止と、経営改善支援に引き続き万全を期していく。

 それに加えて全国連としての重要な機能に、広報活動がある。

 厚生連病院は全国で107あり、医師5千人、看護師2万7千人を擁している。日本の医療機関としてはトップクラスの業容を誇りながら、厚生連病院がJAグループの病院だということはあまり浸透していないように思う。病院名も様々で、JAの病院であることが名称ではわからない場合もある。同じ公的医療機関である日赤や済生会は、誰が見ても一つの医療機関として同じ価値観で運営しているとわかる。厚生連病院は、それらと同等以上の業容を持ちながら、ブランドイメージの確立という点では不足している状況である。

 そこでJA全厚連として、次期3か年計画において、広報活動を強化したいと考えている。各県域や厚生連病院の方々からもその要望は多い。いかに効果的にJA厚生連という医療機関のブランドイメージを伝え、確立できるかを大きなテーマにしたいと考えている。

 地域医療を担う他の病院団体との連携も全国連としての重要な役割だ。

 平成29年9月には、JA全厚連や全国自治体病院協議会など5団体で組織する「地域医療を守る病院協議会」を立ち上げた。それまで団体個々に要請活動等を行ってきたが、地域医療に携わる医療機関が一体となって行政に提案・要望する必要性を痛感し組織された。

 医療事業は、診療報酬は公定価格であり医師の人事権は実質的にないなど、制約が非常に多い。実情に合わせて法律・制度を変えてもらうための国への働きかけは、他事業以上に重要だと言える。

 協議会構成団体の現在の共通課題はとりわけ、医師の不足・働き方改革と、消費税の損税問題。同じく地域医療を維持しなければならない仲間として手を携え、制度改革の提言・要求等の統一的な行動を強めている。今年度はJA全厚連が事務局を務めており発言機会も多い。

 さらには、JAグループ内の事業間連携をどこまで具体化できるかも全国連としての大きなテーマだ。

立ち位置と理念の再確認を

70周年にあたってのメッセージ

 地域の組合員・住民に安全・安心な医療を提供し続けることが地域の発展につながる。これは今までも、そしてこれからも揺るがない我々の事業理念だ。厚生事業に携わる役職員が、その理念に同調し、誠心誠意、事業に取り組まれていることを私は誇りに思っている。今後もこの理念をより強く意識し、ベースに置きながら、競合病院・施設に負けないようなスキル・知識を伴わせていくことが重要だろう。そしてバランスのとれた本当に地域にとって役に立つ事業体として、今までにも増して強い意志で、地域を守る役割を果たしていくということを、皆で確認したいと思う。

 医療は地域の欠かせないインフラだ。そしてJAグループがよってたつ第一次産業は、地域の根源そのものであり、我々の事業が地域の活性化・発展に果たすべき役割は非常に大きい。そこを意気に感じて、皆で前を向いていきたい。

 こうした考えから、JAグループの一員としてJA全厚連の役職員一同は平成31年度、農事組合法人から水田をお借りして、田植えから稲刈りまで一連の米づくり作業を体験することとしている。

 事業環境が厳しくなる中、自分たちの立ち位置や理念、思いを、あらためて確認しながら進んでいかなければいけない時期にきている。


〈本号のおもな内容〉

■このひと 70周年迎えたJA全厚連
 JA全厚連 代表理事理事長 中村純誠 氏

■創立70周年の集い開く=JA全厚連

■政党農業担当議員 2019年農政を展望する
 公明党 農林水産部会長 稲津久 氏

■水稲除草剤 最近の特徴と今後の展望
 日本植物調節剤研究協会 技術部技術第一課 半田浩二 氏

蔦谷栄一の異見私見「『家族農業の10年』と小農権利宣言」

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